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ラリってボンノー!!〜鬼娘は活力煩悩まみれ、俺は無気力何もない〜  作者: 黒船雷光


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第二十九話:ドリーム夢想・どうにもなろう

 コンビニでのバイトを終え、アパートに戻る。


 高橋先輩との会話で、自分がどれだけ生気がなく、周囲に心配をかけていたかを知り、その無関心を恥じた。

 羅璃(ラリ)が俺には「鬼」の側面を強く見せているが、先輩には「天真爛漫エロカワギャル」に見えているという、認知のズレ。


 そして、羅璃(ラリ)の身体から消え去っていく模様、最後に残った「(とん)」の模様。


 頭の中は、複雑な情報でいっぱいで、ダルいを通り越して、もう何も考えたくなかった。


「あー、疲れたー…」


 羅璃(ラリ)は、そんな俺の隣で、相変わらず元気だ。


「お疲れーしょーへー! 私、お腹減った!」

「え?何か食べるの…カップ麺の残りがあるハズ…俺はムリだ」


 羅璃(ラリ)の声を聞きながらも、俺は、玄関を開けて部屋に入ると、そのままベッドに倒れ込んだ。

 もう限界だ。


 体も、頭も、感情も、全てが疲弊している。


「…羅璃(ラリ)…」


 ぼんやりと、羅璃(ラリ)の姿を見る。

 俺の目にはもはや見慣れた赤鬼ギャルがいる。

 勝手知ったる感じで買い置きのカップ麺に入れるためのポットに水を入れて沸かし始めている。


 確認しなければならないことが、山ほどある。


 人によって羅璃(ラリ)の認識が異なること、天宮寺さんが「無邪鬼」と言ったこと、そして、最後に残った「貪」の模様。

 聞きたいことばかりだが、疲労で意識が朦朧としてくる。このまま、暗闇に落ちて行くように、眠ってしまいたい。



 だが、意識を失う前に、一つだけ…『今』やるべきことがある。


 ゲームのキャラクターデザインだ。

 3Dモデルにするための、見えない箇所の絵。いわゆる三面図と呼ばれるものだ。


 気力を振り絞って、ベッドから這い上がる。


 机に向かい、スケッチブックと鉛筆を広げる。

 ゲームのキャラクターデザイン。


 3Dモデルにするための、見えない箇所の絵。

 いわゆる三面図と呼ばれるものだ。ネットで調べたサンプルを参考に、見様見真似で、羅璃(ラリ)の4等身の鬼娘デザインを、様々な角度から作画し始めた。



 集中して手を動かし続けていると、いつの間にか、羅璃(ラリ)が俺の隣に来ていた。

 作業を覗き込んでいる。

 またセクシーな挑発が始まるのかと内心で警戒したが、羅璃(ラリ)は、意外にも、ごく普通に、純粋に俺の描いている絵を見ていた。



「おー、いい感じじゃんしょーへー!」


 羅璃(ラリ)は、俺のスケッチブックを覗き込みながら、言った。


「すっげー! 私が、色々な角度から見れるようになるんだ! 頑張れ、しょーへー!」


 羅璃(ラリ)は、何の邪気もなく、ただ純粋に応援してくれている。

 その言葉が、意外にも、俺の心に染みた。


 嬉しかった。


 無気力だった俺が、今、何かを頑張っていることを、羅璃(ラリ)が素直に応援してくれている。

 羅璃(ラリ)が応援してくれるから、頑張れるのか…他人から応援をウケれば頑張れるのか…一瞬考えたけどよくわからないので、ともかくその応援が、疲れている俺の心に、小さな火を灯すようだった。



 俺が描き広げた、羅璃(ラリ)の様々なデザイン画を見て、羅璃(ラリ)は嬉しそうにスケッチブックを指差した。


「ねーねー、しょーへー! この私ならさ、ヒゲの配管工に勝てるかな?」


 羅璃(ラリ)が、目をキラキラさせて尋ねる。

 ヒゲの配管工。ああ、あの世界的に有名な、ジャンプする配管工か。


「アホか、あんな世界レベルのキャラに勝てるわけないだろ」


 俺は、思わずツッコミを入れた。

 だが、羅璃(ラリ)は、そんな俺の言葉にも気にせず、楽しそうに笑っている。


「いやいや! 絶対勝てるって! 私の方が魅力的だから!

  カートレースだってゴルフやテニスだって負けないぞー!」


 羅璃(ラリ)は、自信満々に胸を張る。


 その無根拠な自信が、妙に心地よかった。


 ヒゲの配管工に勝つ。

 カートレースやゴルフ、テニスでさえ勝つ。


 そんなスケールの大きな羅璃(ラリ)の夢に、俺も少しだけ、楽しくなってきた。



「…そうだな…」


 俺は、ペンを置き、羅璃(ラリ)のほうを向いた。


「もし、俺が描いた羅璃(ラリ)のキャラが、本当にそんな風に世界中で活躍するゲームになったら…」


 口に出すと、少し恥ずかしい。だが、羅璃(ラリ)は真剣な目で俺を見ている。


羅璃(ラリ)は素敵な無敵キャラだから、カートレースだけじゃなくて、ゾンビが徘徊する街を救ったり、世界最強の格闘家を倒したり、巨大なドラゴン倒したり宇宙に飛び出して星々を冒険したりできるよ」


 俺は、無意識のうちに、夢を語っていた。

「少年探偵になったり、高校生になって恋愛したり、過去未来に飛んで冒険したり…」



 部屋には、和やかな雰囲気が流れていた。

 羅璃との、こういう普通の会話が、最近では増えてきた。


 昔の俺には、想像もできなかった光景だ。


 羅璃は、俺の肩にもたれかかり、絵を覗き込み続けている。

 この温かい空気を壊したくはなかった。


 だが、確認しなければならないことがある。

 今、聞かなければ、またずるずると先延ばしにしてしまうだろう。


 それは、もう消え去ったはずの「先延ばし」という煩悩ではないか。



「…羅璃(ラリ)…」



 俺は、改めて羅璃(ラリ)の方を向いた。

 羅璃(ラリ)は、俺の顔を見て、少し首を傾げた。


「あのさ…羅璃(ラリ)ってさ…人によって、見え方が違うんだって…俺、今日、サークルで分かったんだ。

 俺には鬼に見えるけど、皆にはギャルに見えるって。

 そして、天宮寺さんは、羅璃(ラリ)のことを『無邪鬼(むじゃき)』だって言ってた…」


 俺は、(せき)を切ったように、ここ数日の間に起きた、羅璃(ラリ)の姿に関する疑問を全て羅璃(ラリ)にぶつけた。

 疑問に関して羅璃(ラリ)自身の口から、直接聞きたかった。



 羅璃(ラリ)は、俺の言葉を、静かに聞いていた。

 いつもの、ニヤリとした笑みは無く、どこか遠い目をして、俺の顔を見ている。


「えへへ…ちなみにぃ~無邪鬼(むじゃき)とかじゃないよ羅璃(ラリ)は…」

「え?」

「うん」

「鬼じゃないの?」

「無邪鬼…という鬼は居ないよ?」

 羅璃(ラリ)は何かとんでもないことを言っている様な…

「ねえ、しょーへーは羅璃(ラリ)が何者だからとか気にするの?」


「い、いや…今となっては…どうでも良くなってきたかな…ラリは羅璃(ラリ)だしな」

「分かって来てるねしょーへー」



 そして、羅璃(ラリ)は、俺の頭を、優しくポンと叩いた。

 それは、高橋先輩が俺にした時と同じ、慈しむような仕草だった。


「そんなこと聞きたかったのか?…どうしたの、しょーへー」


 羅璃(ラリ)の声は、いつになく優しかった。


「そんなに…寂しいの? 私が…居なくなることが?」


 羅璃(ラリ)の言葉に、俺はドキリとした。

 そうか…羅璃(ラリ)の正体を知りたがる俺の気持ちの奥底に自分で気づかない本心…

 寂しいのか。羅璃(ラリ)が消えるのが。


「…大丈夫だよ、しょーへー」


 羅璃(ラリ)は、俺の目を見て、微笑んだ。


羅璃(ラリ)はね…そう簡単には…居なくならないから」


 その言葉に、ホッとして胸の奥が、少しだけ温かくなった。

 羅璃(ラリ)は、俺の不安を感じ取っている。


「ま、そもそも、私がお前を目覚めさせてやったんだぞ?」


 羅璃(ラリ)は、少し偉そうに、しかし、その目には確かな自信が宿っていた。

 確かに、羅璃(ラリ)がいなければ、俺は今もあの灰色の世界で生きていただろう。

 活力を失い、夢も希望もなく。


「でも…」


 羅璃(ラリ)は、俺の頭を撫でるように、もう一度ポンポンと叩いた。



「目覚めて、立ち上がって、前に進み始めたのは…しょーへー自身なんだからね」



 羅璃(ラリ)の言葉が、俺の心に真っ直ぐ響いた。

 そうだ。羅璃(ラリ)がきっかけをくれたけれど、実際に動いたのは、俺自身だ。

 サークルでゲームを作るために絵を描こうと思ったのも入ったのも、バイトで頑張ろうと思ったのも。

 実家に帰って過去を振り返り、家族に向き合い…街に出かけて刺激を受けて先輩のライブも見た。


「だから…自信持ちなよ」


 羅璃(ラリ)は、そう言って、優しく微笑んだ。



「今は、このデザイン、頑張りなよ。これを乗り越えることは…しょーへーにとって…とても大切な試練だよ」



 羅璃(ラリ)の言葉は、まるで俺の未来を見透かしているかのようだった。

 このデザインを完成させること。

 それは、ゲーム制作という新しい目標への一歩であると同時に、俺の心の中の煩悩を解消するための、大切な試練なのだと。


 羅璃(ラリ)の身体に残った最後の「貪」の模様が、俺に、その試練の意味を、改めて突きつけているようだった。羅璃(ラリ)が言う「知っているけど向き合ってない」こと。

 それは、このゲーム制作と、羅璃(ラリ)という存在、そして俺自身の未来に、深く関わっているのだろう。



 ダルい。


 でも、羅璃(ラリ)の言葉は、俺の心に、確かな光を灯してくれた。


心不定・散乱

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