第二十三話:ラリって誘惑・ラリが主役
羅璃を主人公にしたシンプルなアクションゲームを作る。
悪意が具現化したモンスターを倒し、良い人間に戻す。
そして、俺は羅璃のキャラクターデザインを担当する。
サークルメンバーと役割分担を決め、皆で一つの目標に向かって進むことになった。
サークル部室を出て、羅璃と共にアパートへの帰り道を歩く。
羅璃はまだゲーム制作のことで頭がいっぱいらしく、「どんな必殺技がいいかなー?」「空とか飛べると楽しいかも!」などと、一人で盛り上がっている。
ゲームを作る。
それは、俺がかつて絵を描くことから逃げ出した「創作」という行為に、再び向き合うことになる。
そして、ゲームのテーマは、羅璃という存在そのもの。
羅璃は、俺の煩悩と活力の集合体。
羅璃をゲームにするということは、俺自身の内面を、ゲームという形にして外に出す、ということなのかもしれない。
アパートに戻り、部屋に入る。羅璃はソファに飛び乗って、早速ゲームのアイデアを俺にぶつけてくる。
その羅璃の姿を見ながら、サークルで話した「心理カウンセリングみたいになりそうだ」という言葉が頭をよぎった。
そして、羅璃は、本当に俺のカウンセラーなのか? という疑問。
相談に乗ってもらった記憶なんて全くない。ただ、羅璃の破天荒な行動に振り回されて、その結果、俺の煩悩が解消されてきただけだ。
「ねー、しょーへー! 私のデザイン、どんな感じにするの? 超可愛くしてよ!」
羅璃が、ソファから俺に話しかけてきた。そうだ。俺の今日の課題は、羅璃のキャラクターデザインだ。
「…デザイン、か」
俺は、自分の机に向かった。スケッチブックと鉛筆を用意する。
きちんと絵を描くのは、ハルカさんと会って以来だ。
数週間しか経っていないのに、ずいぶん前のことのように感じる。
「ねーねー! しょーへーのデザインのために! 私、協力するよ!」
羅璃は、ソファから降りて、俺の近くに寄ってきた。そして、ニッと笑った。
「しょーへーが描きやすいようにさ…」
羅璃は、俺の目の前で、少しだけ身構えるようなポーズをとった。そして…
「…翔平のためなら…一枚も…二枚も…脱ぐぜ?」
羅璃は、茶化すような、挑発するような口ぶりで、そう言った。
その言葉を聞いて、俺は…固まった。鉛筆を持つ手が止まる。
顔が熱くなるのを感じた。動悸が、速くなる。
羅璃が、脱ぐ? 俺のために?
以前…羅璃が初めて俺の部屋に現れた日。
目を覚ますと、俺のベッドの横で、羅璃は全裸で寝ていた。
その時、俺は驚愕し、絶叫したが、羅璃の身体を見ても、何も感じなかった。
欲望とか、そういう感情は全く湧いてこなかった。
ダルい、異常だ、早く出て行ってほしい、としか思わなかった。
羅璃に「私のナイスバディに欲情しちゃった?」と揶揄われても、ただ「ダルい」と思っただけだった。
それが、今。羅璃の「一枚も二枚も脱ぐぜ?」という言葉を聞いただけで、心臓がバクバク鳴り、顔が熱くなる。羅璃が、異性として…魅力的に見え始めている。
(…俺…羅璃のこと…意識して…る?)
今まで考えたこともなかった事実を、突きつけられた気がした。
羅璃は、俺の煩悩の集合体。
赤鬼ギャル。
そんな羅璃を、異性として、意識している? 魅力的だと感じている? これは…羅璃が言っていた、「色」や「貪欲」に関わる煩悩なのか?
羅璃は、俺の動揺を見て、ニヤニヤと笑った。
その表情は、俺を揶揄っているようだが、瞳の奥は、どこか嬉しそうだ。
俺が、人間らしい感情…異性に対する意識を持つようになったことを、喜んでいるのだろうか。
それは、羅璃が俺に与えようとしている「活力」の一部だから。
そして、それは…羅璃の模様を消すことに繋がるから。
「ほーら、しょーへー。顔真っ赤だよ? 超ウケるんですけどー!」
羅璃は、楽しそうに俺をからかう。
「ま、でも…流石に今すぐは、デザインのイメージ湧かないか」
羅璃は、俺の動揺を見て、少しだけ引いたらしい。そして、立ち上がった。
「よし! 私、シャワー浴びてくる! しょーへーも、落ち着いてデザイン考えな!」
羅璃は、そう言って浴室に向かった。浴室の扉の前で立ち止まり、俺を振り返って、ニッと笑った。
「…あ、覗くなよ?…さらに言えば襲うなよ?」
羅璃は、ウインクをして、浴室の扉を閉めた。その言葉は、俺の動揺をさらに煽った。襲う? そんなこと、考えたことも…
浴室から、シャワーの音が聞こえてくる。ザアアアア…
シャワーの音を聞きながら、俺の動悸は収まらない。顔の熱も引かない。
心臓がバクバク鳴っている。これは、羅璃という存在が、俺の中に眠っていた、異性に対する関心や、欲望といった煩悩を、無理やり呼び起こした証拠だ。ダルい。でも、もう、この感情から目を逸らすことはできない。
どうすればいい? この高ぶった気持ちを、どうすればいい?
(…そうだ…デザイン…)
俺は、無理やり意識をスケッチブックに向けた。
そうだ。俺には、羅璃のキャラクターをデザインするという役割がある。
サークルメンバーの期待に応える。そして、羅璃という存在を、ゲームという形にする。
この、高ぶった感情。動揺。熱。それを、全て、デザインにぶつけよう。羅璃という存在が、俺の中に引き起こした「活力」を、形にしよう。
俺は、鉛筆を握り直した。羅璃の姿を思い浮かべる。赤い肌、角、そして、ほとんど消えかかった模様。羅璃の、あの屈託のない笑顔。デカい声。人をからかう時の、ニヤリとした表情。そして、時折見せる、寂しそうな、人間らしい感情。
羅璃という存在の、全て。それらを、どうやって、二次元のキャラクターにするのか。
俺は、集中した。周りの音も、シャワーの音も、何も聞こえなくなる。頭の中は、羅璃のデザインのことでいっぱいだ。手だけが、勝手に動いていく。
どれくらい時間が経っただろうか。ふと、シャワーの音が止まったことに気づいた。
浴室の扉が開く音。
そして、視界の端に、羅璃の姿を捉えた。
羅璃は、髪から雫を滴らせながら、タオル一枚を身体に巻いただけの姿で、浴室から出てきた。そして、俺の近くに寄ってきた。
(…うわ…)
肌に残った、ごく微かな模様が、照明の下で光を反射している。
濡れた髪が、首筋に張り付いている。
そして、タオル一枚だけの、無防備な姿。
それは、まさに、羅璃が言っていた「誘惑」そのものかもしれない。
羅璃は、俺の様子を見ながら、ニヤリと笑った。そして、俺の気を引こうとするように、少しだけ身体を揺らした。
しかし…俺は、それに気づかない。
俺の視線は、スケッチブックに釘付けだ。
頭の中は、羅璃のデザインのことでいっぱいだ。
手は、止まらない。羅璃の姿を、ゲームのキャラクターとして、どう表現するか。そのことで、完全に集中している。
羅璃は、俺の反応のなさに、少しだけ拍子抜けしたような顔をした。そして、やれやれ、といった表情で、俺の肩にタオル一枚の腕をポン、と置いた。
「…しょーへー。マジで集中してんじゃん」
羅璃の声は、少しだけ呆れたような、でも、どこか、満足したような響きだった。そして、何も言わずに、ソファの方へと向かった。
羅璃は、そのままソファで、あっという間に眠ってしまったらしい。
静かな寝息が聞こえてくる。
俺は、ペンを走らせ続けた。時間は、もう深夜だ。
でも、眠気は全く感じない。身体は疲れているはずなのに、頭は冴えている。
羅璃という存在が俺に与えた「活力」が、今、デザインという形で、放出されている。
羅璃という、俺の煩悩と活力の集合体。彼女をデザインすることで、俺は自分の内面と向き合っている。そして、それは、俺の中に眠っていた、新たな煩悩…異性に対する関心や、欲望を呼び覚ました。
徹夜で、羅璃のキャラクターデザインを描く。
それは、俺の「ラリった世界」における、新たな始まりだった。
そして、このデザインが完成した時、羅璃の身体に残った最後の模様は、また一つ、消えるのだろうか。
考えるのはダルい。でも、今は、ただ、目の前のスケッチブックと、羅璃という存在に、集中したかった。
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