表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラリってボンノー!!〜鬼娘は活力煩悩まみれ、俺は無気力何もない〜  作者: 黒船雷光


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/49

第二十一話:ツンデレ積んでるデレテレ

 サークルで羅璃(ラリ)を主人公にしたゲームを作る、という話になってから一夜明けた。


 ダルい。


 でも、何かを「作る」という、今まで避けてきた行為に足を踏み入れたせいか、いつもと少しだけダルさの種類が違う気がする。


 そして、昨夜の羅璃(ラリ)の「一生とり憑いてやる」という言葉が、頭の中でリフレインしている。




 講義を受けようと、いつもの講義室に入り、羅璃(ラリ)と共に席に着く。

 ダルい。周りの学生たちの話し声が耳障りだ。

 羅璃(ラリ)は隣で、すでにスマホをいじっている。


 すると、通路を挟んで少し離れた場所に座っていた人物が、こちらに向かってきた。天宮司(てんぐうじ)さくらさんだ。いつもの、落ち着いた雰囲気のマドンナ。

 ライブの時の、白いゴスロリ衣装と黒いリップは、やはり夢だったかのようだ。


 天宮司さんは、俺たちの横に来て、そのまま、俺のすぐ隣の席に座った。

 隣の席は空いていたけれど、天宮司さんが俺の隣に座るなんて、初めてのことだ。

 これは、昨日の約束…監視するため、だろうか?


 羅璃(ラリ)が、天宮司さんの存在に気づいたらしい。

 ニッと、面白がるような笑みを浮かべた。


「お? なんだよ天宮司さん! 早速やるのか? 同盟なんて結んだけど、もう気が変わったわけ?」


 羅璃(ラリ)が、天宮司さんを挑発するような口ぶりで話しかけた。

 天宮司さんは、羅璃(ラリ)の挑発にも動じず、すました顔で答えた。


「…同盟は結びましたから。無闇に動いたりしません」


 天宮司さんの言葉に、俺はホッとした。昨夜の約束は、有効らしい。


「ただし…」


 天宮司さんの声に、緊張が走る。


羅璃(ラリ)さんから…私に仕掛けてくるようなことがあれば…容赦しません」


 天宮司さんの瞳の奥に、神職としての強い意志が宿っているのが見えた。


「へー! じゃあ、なんでそんな近くに来てるんだよ? 別に離れてても監視できるだろ?」


 羅璃(ラリ)は、さらに天宮司さんに詰め寄る。羅璃(ラリ)の言う通りだ。監視するだけなら、こんな近くに座る必要はないはずだ。


 天宮司さんは、羅璃(ラリ)の質問に、少しだけ視線を逸らした。そして、微かに、頬が赤くなったように見えた。


「…近くに居て…いえ、近くで監視するためです」


 天宮司さんは、そう答えた。そして、付け加えた、その言葉に、俺は文字通り、固まった。


「…決して…潟梨君が…あか抜けて…ちょっと…良いな…なんて…思ったからでは…ありません…」


 最後の言葉は、ほとんど聞き取れないくらい小さかったけれど、俺の耳にははっきりと届いた。


「…………え?」


 俺は、何を言われたのか理解できず、完全に固まった。あか抜けて? 良いな? 天宮司さんが、俺のことを? そんなこと、ありえるのか?


 隣にいた羅璃(ラリ)が、俺の反応と天宮司さんの様子を見て、ぶはっ! と吹き出した。


「ぎゃは~!!!!!!!」


 羅璃(ラリ)は、腹を抱えて爆笑している。

 講義室中に響き渡る、羅璃(ラリ)のけたたましい笑い声。

 天宮司さんの顔は、みるみるうちに真っ赤になった。

 自分が、何を言ったか理解したらしい。


「ちっ、ちがいます!」


 天宮司さんが慌てて取り繕う。

 顔は真っ赤なのに、必死で普段の冷静さを装おうとしている。


「これは…職務です! 潟梨君に何か少しでもおかしなことが起きた場合、それは羅璃(ラリ)さんの仕業だと考え…封滅するためです! そのため、近くで観察する必要があるのです!」


 天宮司さんは、完全に混乱している。

 冷静沈着なマドンナの姿が、音を立てて崩れていく。


 羅璃(ラリ)は、そんな天宮司さんの様子を見て、さらに爆笑している。


「あははははは! ヤバい! ヤバいんですけど! 顔真っ赤! 超ウケる!」


 羅璃(ラリ)の笑い声と、天宮司さんの必死な言い訳に、講義室中の学生が俺たちの方を見ている。そして…


「おい、君たち! 静かにしろ!」


 教授の声が、講義室に響き渡った。

 教授は、俺たち三人を睨みつけている。


「講義の妨害だ! 出て行きなさい!」


 三人とも、講義室から追い出された。


 ダルい。本当に、ダルいにもほどがある。

 大学に来て、講義室から追い出されるなんて。

 全て、羅璃(ラリ)と天宮司さんのやり取りのせいだ。


 講義室の外に出されて、天宮司さんは憤慨(ふんがい)していた。


「こんな仕打ちを…! 私はただ、責務(せきむ)を…!」


 神職として、羅璃(ラリ)を監視する必要がある。

 でも、大学の講義中に騒いで追い出されるなんて、プライドが許さないのだろう。


「すいません…天宮司さん…」


 俺は、思わず謝った。

 俺が羅璃(ラリ)を連れてきたせいで、こんなことになった。


 すると、羅璃(ラリ)が俺の袖を掴んだ。


「しょーへー、謝るな」


 羅璃(ラリ)の声は、珍しく真剣だった。


「なんでしょーへーが謝るんだよ。何も悪くないだろ」


 羅璃(ラリ)は、俺の顔を見上げて言う。


「自分が悪くないことまで頭を下げて…自分の価値を落とすな」


 羅璃(ラリ)の言葉に、俺はハッとした。

 価値を、落とす?

 謝罪は、相手に対する敬意であり、迷惑をかけたことへの(つぐな)いでは?


 でも、羅璃(ラリ)は言う。

 自分が悪くないのに謝るのは、自分の価値を低く見ているからだ、と。


「いや、でも…迷惑かけてるのは、お前だろ…俺は、お前の分を謝ってんだ…」


 俺がそう言い返すと、天宮司さんが、意外そうに俺を見た。

 その瞳に、また何かを見抜くような光が宿る。


「…あなた…」


 天宮司さんは、静かに言った。


「…やはり…変わりましたね…」


「いい方にだろ?」

 羅璃(ラリ)が、すかさず横から口を挟んだ。


 天宮司さんは、羅璃(ラリ)の言葉に、フンと鼻を鳴らした。でも、その表情は、どこか認めるような色をしている。


「…ええ…その…その通りですね…」


 天宮司さんは、微かに顔を赤くして、目を逸らした。

 羅璃(ラリ)は、それを見て、また笑い始めた。


「ツンデレだ~! 天宮司さん、照れてる~!」


「うるさいです羅璃(ラリ)さん!」


 天宮司さんは、完全に羅璃(ラリ)にペースを乱されている。

 神職としての威厳が、羅璃(ラリ)の無邪気な挑発によって、揺らいでいる。


「今日のところは…勘弁して差し上げます」


 天宮司さんは、そう言うと、足早にその場を去って行った。

 顔はまだ少し赤い。

 羅璃(ラリ)は「その捨て台詞も百回漫画で読んだ奴~」と挑発を辞めない。

「いい加減にしてあげたら?」

 だが羅璃(ラリ)はニヤついた顔のままだ。そんなに楽しいのか?


 天宮司さんが完全にいなくなってから、俺は久々に、大きな溜息をついた。


「…ダルい…」


 一日が始まったばかりなのに、もう疲労困憊だ。

 大学に来て、マドンナに秘密を暴露されかけ、爆弾発言を聞き、追い出され、謝罪について議論するなんて。


 隣で、羅璃(ラリ)が俺を見て、キラキラした瞳で尋ねた。


「ねえ、しょーへー」


 羅璃(ラリ)の問いに、俺は警戒した。また、何か面倒なことを言い出すつもりだろうか。


「…今日の天宮司さんと…私…」


 羅璃(ラリ)は、ニッと笑った。

 そして、俺の心臓を直接掴むような、ストレートな質問を投げかけてきた。


「…どっちの方が…魅力的で…翔平の好み…?」


 その言葉を聞いて、俺は…固まった。

 頭の中が真っ白になる。



 魅力的? 好み? 天宮司さんと羅璃(ラリ)、どっちが?



 そんなこと、今まで考えたこともなかった。

 天宮司さんは、遠い存在。憧れのマドンナ。

 羅璃(ラリ)は…煩悩と活力の塊。異形な存在。



 どちらが、魅力的? どちらが、好み?



 動揺する。

 顔が熱くなる。

 天宮司さんに褒められた時と同じくらい、いや、それ以上に動揺している。


(…なんだ…この気持ち…)


 今まで考えたことも、感じたこともない心のくすぶり。

 それは、異性に対する興味? 魅力? 好み?

  羅璃(ラリ)が言っていた、「貪」に関わる煩悩…性欲や、色欲…それなのか?



 羅璃(ラリ)は、俺の動揺を楽しんでいるように、ニヤニヤと俺を見ている。

 羅璃(ラリ)の赤い瞳の奥に、微かな期待の色が見える気がした。



 果たして、この今まで感じたこともない、心のくすぶりは、一体何なのか。

 それは、俺の中に眠っていた、新たな「煩悩」の目覚めなのか。



 ダルい。


 でも、羅璃(ラリ)は、また俺の中に、新しい感情の波を起こした。

 そして、その波は、俺の「ラリった世界」を、さらに未知の領域へと導いていくのだろう。


 不正知・懈怠

(76/108)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ