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FLOWER POT MAN 〜ただ植物を愛でていただけの俺が、なぜか魔王と呼ばれています〜  作者: 卵座
第6章 - Welcome to Verdebourg

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093 - 仲直りの祝砲


 トビたちが刺客たちを相手にしていた、一方その頃──

 フルルとシザー、メニーナの三人組は〈水晶竜クアルアーラ〉の第二形態を()()していた。


 メニーナから預かったグライダーを使って竜巻に乗り、さらにフルルの糸を駆使することでどうにか空中戦に適応。空中に発生する水晶爆弾には、発生前に核を斬り落とすというシザーの人外じみた抜刀術が対応した。


 まあ、勝因としては──

 今回の場合、フルルのビルドとの相性がよかったことにある。


 プレイヤーだけでなくあたりの地形や建造物にまでヘイト値を散らす試練型ボス〈水晶竜クアルアーラ〉は、その性質上、個々のプレイヤーを頻繁に認識から外しやすい。

 その結果、フルルの "認識阻害ビルド" は幾度も再発動し、そのたびに隠密時に強化される初撃をやり直すことができた。


 無論、それはフルルとシザーの「慣れない空中戦でも一定以上の実力を発揮し、アドリブができる」という地力あってのものだが──



 しかしそんな彼女らの快進撃は、第三形態にもつれ込むと途端に具合が悪くなった。


「あ〜! シザーさん、無理です! 刃が通りません!」

「そのようですね……私も弾かれました。切断属性では厳しいかもしれません」


 ──水晶の硬化。

 第三形態のクアルアーラは水晶の鎧を全身に纏い、それを夜の魔力の装甲強化によって超硬化する。こうなると、どんな刃も通らない。


「仕方ありません、ここが潮時です。もしもしウーリ、そちらどうでしょう」

『ちょうど終わったとこ! 内容は大体把握した、ビルマーのとこ寄ってから向かう!』

「分かりました。では誘導して引き継ぎます」




 *



 時間稼ぎを頼むつもりで任せたのに、まさか一形態を丸ごと突破してしまうとは……頼りになりすぎる仲間たちだ。


 俺たちはまずビルマーと合流した。

 シザーの抜刀術さえ阻む装甲となると俺でもしんどい。まずは鎧を突破する武器が必要だからだ。


「そういうわけだから、ジャガーノート貸してくれ」


 俺がそう言えば、ビルマーは目を輝かせる。


「い、いいんですか! 本当に重いですよ!」

「知ってる、今の状態異常の数ならギリいけると思う」


 海賊団戦では大活躍した、ビルマーらお手製の設置型大砲ジャガーノート。今回ばかりはあの馬鹿火力を借りたい。

 一方ビルマーは、嬉しそうにしながらも俺の言葉に首を傾げた。


「……状態異常? あのトビさん、そういえばなぜウーリさんにお姫様抱っこされているんですか?」

「うん、石化が解けなくて」


 麻痺のほうは軽度でそこそこ動くようになってきたのだが……石化は時間経過じゃ解除されないらしい。なかなかに凶悪な状態異常だ。


 片足には石化を残したまま、腕のほうはジャガーノートを扱うために根本から切断。メンデル製の義手でまかないつつ、四肢欠損と出血も状態異常扱いだ。


 飴玉の毒状態。

 さらに黄金の果実で金属毒。

 石化、麻痺、欠損、出血、メンデルによる支配──元から備わる精神汚染も合わせて計八種。今までにないカウント数だ、きっと持ち上がる。



 ビルマーからインベントリに砲台を預かり、さあ行くか。



 周りに被害を出さないため、場所はやはり森の中を指定。

 約束の地点で待っていればクアルアーラはすぐにやってきた。逃げるメニーナたちを追ってきているのだ。


「トビくん、さすがにそれ飛べないよね?」

「はは、まあ空中戦は無理だな」


 どうしたって浮きません。

 地上から撃ち放つ他にない。


「さあ、エイム勝負だ……久しぶりで緊張するな」


 投げナイフや魔法とはまた感覚が違う。若干の硬さを抱えながらも──


「来たよ、トビくん!」


 ──俺たちは決戦のときを迎えた。

 インクの騎獣に跨るメニーナたちが森の奥から駆けてきて、それを滑空するようにしてクアルアーラが追う。


「フルル、シザー! 高度下げれるか!」

「はあい」

「お任せください」


 ふたりは騎獣から飛び降り、少し先の場所でクアルアーラを待ち構えた。

 フルルが闇魔法を放ち、それに釣られたクアルアーラはふたりを目掛けて両脚の鉤爪を振り下ろす──つまりは低い位置へと降りてくる。


 両の鉤爪をシザーは刀で弾き、フルルは飛び退くように躱す。

 着地寸前、再び飛び上がろうと翼を大きくはためかせる──ここだ。


「まずは地上に堕とす」


 砲身を構え──

 そして、爆音が轟いた。


 自分でも耳を塞ぎたくなるほどの音と衝撃だ。頬がびりびりと痺れ、耳のいいフルルなんか「うにゃあ!?」と転がるように悶絶している。


 そんな強烈な威力を持って撃ち放たれた砲弾は──クアルアーラの翼を見事に撃ち抜いた。


 硬い水晶の鎧を粉砕し、翼に大穴を空けた飛竜。たまらず地面に墜落し、あたり一帯に突風と砂煙が吹き荒れる。


「さあ追撃いくぞ」

「もうちょい右! 右斜下!」

「了解、ありがとう」


 砂煙に視界が閉ざされようと、ウーリのサーモセンサーからは逃れられない。指示に合わせて微調整した二撃目は、そのまま墜ちたクアルアーラの腹を穿つ。


「おおっ! おなか割れました!」

「私たちも参りましょう」

「わ、私も……!」


 起き上がるクアルアーラ。一方、こちらだって俺だけじゃない。

 鎧の割れた腹にはダメージが通るようになる。シザー、フルル、それにメニーナもアスタークを向かわせ、怒涛の攻撃が叩き込まれればクアルアーラは怯んだ。


 咆哮し、暴れまわって抵抗するクアルアーラ。

 周囲に生み出される結晶弾の弾幕は、こちらも塩結晶の掃射で相殺する。


「一番厄介なのは、やはり水晶光線だが……メニーナさん、お願いします!」

「は、はい……!」


 一撃喰らったらほぼ即死、例の光線への対策はメニーナだ。

 口内へと青白い光が集まったそのとき──メニーナの合図で、口の中にアスタークが()()()()


「────!?」

「誰か犠牲にして丸ごと塞いじゃう、ってのが楽だよな」


 使い捨てにできる駒がいるなら、の話だが──

 インクと魔力、時間さえあればモブを生み出し放題のメニーナは、ある意味では最適解。


 クアルアーラの顎に身投げしたアスタークはその全身で光線を受け止め、やがて水晶と化して砕け散った。


「さあ、何度だって撃とう」


 生まれた隙にはすかさずジャガーノートをぶっ放し、その頭を横殴りにする。さすがに他より硬いのかダメージはひび割れ程度だが、それでも竜が仰け反るほどの衝撃だ。

 さらにはシザーとフルルによる追撃を喰らいながらも、さすがに与えたダメージ量の違いか、ヘイトは俺のほうに来る。


 構わない、やり合おう。


 凄まじい速度で駆けてくる竜。

 こちらはジャガーノートを両腕に抱えたままそれを迎える。


 噛みつき、そして流れるようにコンボしてくる尾の振り払い──転がるように躱す。片足は石化したままだが、メンデルのツルが機動力を補ってくれる。そして至近距離から──


「もう、一発!」


 ──轟音とともに放つ、ジャガーノートの大火力。

 すでに鎧を砕いた腹部へ、今度は剥き出しになった肉に直接ぶち込む砲弾だ。絶叫して仰け反るクアルアーラの様子を見るに、そのダメージは抜群らしい。


 あと、もう少し。

 まあこの感じを見るに、どうやら問題なさそうだ。


 なんたって──

 砲手は俺だけじゃないからな。


「ウーリ、いけそうか!」


 俺のいる位置から真正面に、気付けばウーリは回り込んでいる。

 地面に設置されたその大型砲台の名はジャガーノート──そう、二台目である。そしてその砲身を操作するウーリは、全身にメンデルによるツルの鎧をまとい、外付けのパワードスーツとして全身の筋肉を補強している。


 俺の問いに、ウーリは力強く頷く。


「持ち上げるのは無理だけど、左右に首振るくらいはできそう!」

「よし、それなら……」

「ぶっ放す! いくぜ、ウリ&メンデル砲!」


 仲直りは済ませたようだ。そしてウーリは容赦なく撃ち放った。

 俺よりもずっと安心する軌道を描いて、突き刺さるその一撃。狙った場所は──


()()()()()()……! エイムが良すぎる……!」


 ──さすが現役でFPSを触り続けている女だ、長らくサボっていた俺とは精度が違う。

 砲弾は水晶膜の最も薄い眼球部を「ぱきんっ」と砕き、その眼窩をえぐり飛ばした。

 

「このまま怯ませます!」


 シザーが飛び込んだ。

 砲弾が残した黒い煙の中、その長い首筋を駆け上り──よろめくクアルアーラに追い打ちをかました。露出したその目玉へ「──シンッ」と静かな居合い斬りを浴びせる。


 竜が咆哮する。

 その身体がバランスを崩す。


 そして傾いた頭を受け止めるように、俺は砲口を突きつけた。


「祝砲としよう」


 ゼロ距離射撃──

 その頭を穿つ砲弾が、爆炎と共に轟いた。



『試練型ボス〈水晶竜クアルアーラ〉を撃破しました』



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― 新着の感想 ―
ヤンデレメンデルのより一層の束縛と繁殖に協力する協定を結んだだけだったりして・・・・・・・・・・・・・・・?
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