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FLOWER POT MAN 〜ただ植物を愛でていただけの俺が、なぜか魔王と呼ばれています〜  作者: 卵座
第6章 - Welcome to Verdebourg

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090 - 水晶竜クアルアーラ


 水晶に侵蝕されたアンデッド──

 ドロップアイテムのテキストによれば、正式な名前は「クリスタルコープス」というらしい。


 港に押し寄せるそんなアンデッドたちを淡々と斬り殺すのは、フルルとシザーの二名だ。

 クリスタルコープスの攻撃は素手と噛みつき、結晶の剣や槍を作り出す──いずれも対人戦に特化したこのふたりに勝てる道理はない。


 乱戦の中、近寄るそばから斬り殺され、気付けば港は綺麗なものだった。


「あれっ、次の波はもう来ないんですかね?」

「来ないでしょうね。ほら、すべて……茨の壁に引っかかっています」


 シザーの指差す先は、つい先程現れた灰色の壁。メンデルのツルで編まれたものだ。

 まさしく一網打尽──壁を這い上がろうとしたクリスタルコープスたちはみなツルの壁に手足を取られ、動きを止めてしまっている。


「お〜……さすが規格外。意味わかんない効果範囲ですね。ボクらはどうします? 向こうに合流しますか?」

「……ふむ、難しいところですね」


 今はひとまず足止め出来ているが、これが決壊しないという保証もない。


「現在、死に戻ったタカツキさんたちが船で島を目指しています。彼らと合流でき次第、引き継ぎをしてから向かいましょうか」

「ああ、それがイイですね」


 ちょうどいい妥協点だ。

 そんなことを話しながら、ふとフルルはしゃがみ込んだ。


「フルル、どうしました?」

「ん〜……ひとり、すり抜けましたかね」


 ……すり抜けた?

 シザーは首を傾げる。


「足跡です。ここまで上陸を許した覚えはないので、知らないうちに侵入されたかもしれません」

「……クリスタルコープスですか?」

「いえ、別かと。足跡が残ってるってことは、本来であればボクが音で気付けるんですよ」


 ふむ、とシザーは同じようにしゃがみ込んだ。

 フルルの視線の先には土にめり込んだ靴の跡がある。アンデッドたちは裸足なので、たしかに彼らであればこうはならない。


「ボク自身そういうビルドだからわかるんですけど……このゲーム、いわゆる "隠密" に特化したスキル構成をきわめると、認識そのものから外れることもできちゃうんですよね」

「……まさか、プレイヤー?」

「ええ、タカツキくんも刺客云々言ってましたし。まあその場合、狙いは──」


 ──トビくん。

 少なくともタカツキが出会ったという "人魚" はそれを匂わせていた。


「まあトビくんの対人戦は心配しなくてよさそうですけど。それよりボクたち、ドラゴン戦にどう参戦します?」

「え、ええ。そうですね、たしかに」


 人斬り大好き姉妹、フルルとシザー。

 彼女らの懸念はトビを狙う侵入者よりも、慣れない大型モンスター相手にどう立ち回るかというそれだけであった。




 *****



 ──初撃は上々、こちら優位だ。

 振り下ろした殺人彗星(キリングハレー)が見事に頭を殴りつければ、悲鳴と共に宙返りするクアルアーラ。


 反射のように振り払われる水晶の尾を、翼膜に撃ち込んだツルを使って咄嗟に躱す。


「さあ、この高度での戦闘ははじめてだな」


 木々の届かない高さだ。

 ツルによる空中機動に使える障害物は、クアルアーラの身体そのものだけ。


 翼に着地、そのまま蹴りつけて跳ね上がれば、それを追うようにやつは高度を上げてくる。


「上昇動作中は攻撃なし──本当だな!」


 ウーリの言ったとおり、高度を上げて迫ってくるクアルアーラはそれ以外の攻撃動作を行わない。

 多節棍化した殺人彗星(キリングハレー)を振るって追撃を叩き込み、さらにクレセントエッジを敵の軌道上に配置する。


 敵のサイズが大きければ大きいほど、空中に設置したクレセントエッジの上を通過する時間は伸びる。つまり大きなダメージが稼げる。



 いいじゃないか。

 このままやり合おう。



 クアルアーラの大きな身体を利用して、翼から翼へ、尾から頭へ、ツルを利用して飛び回りながら攻撃を叩き込んでいく。


 暴れ攻撃は頭を蹴って高所へ、結晶弾はこちらの結晶弾で相殺。

 一番取り返しのつかない水晶光線は──


「メニーナさん、お願いします!」

「は、はいっ!」


 ──俺のいる高所まで届く、大きな砂竜巻で対応。

 竜巻に乗る形で高く飛び上がり、直線方向への光線放射を回避する。


 さらに相手は俺だけじゃない。


「トビくんばっかり見てたら私が殺しちゃうぞ〜!」


 光線を放った直後のぱっかり空いた口内へ、ピンポイントで撃ち込まれるウーリの金属矢。

 仰け反るクアルアーラ。剥き出しになった杭の頭を、さらに蹴りつけて深くまで──やつは絶叫し、今日一番のリアクションを見せた。


「夜エンチャント込みの打撃より効いてる……どんな威力だよ」


 ウーリの金属矢も、最初の頃とくらべて随分とアップデートされている。

 ビルマーの大砲を見たあとだと、その威力と重さにも説得力があるというものだ。



 そこからはヘイトの取り合いだった。

 ウーリがヘイトを取れば、俺が殴りつけて取り返す。俺がヘイトを取れば、ウーリが手痛い一撃を喰らわせる。


 結果的には危なげなく立ち回れているが……うん、これはひとりでは絶対に無理だな。

 三人の特殊なビルドが上手いこと噛み合っているだけ。誰かひとりでも欠けていれば、まともに殴り合いさせてもらえない。


「これ、タンク入りパーティだったらどう攻略するんだろうな」

「無理じゃない?」


 一度地面に着地して呟いた俺の疑問に、ウーリはばっさり答えた。

 まあ厳しいだろうな。水晶化による強制脆弱化が性能としてイカれすぎている。何よりこれが防衛イベントのボスだというのがひどい。


 これを「守り」で上回るのは不可能だ。


「ムーンビーストも潰されれば一撃死だったし……凶悪さは同じくらいか。相性的に、俺たちにとってはクアルアーラのほうが戦いやすいけど──」


 ──再び飛び上がって結晶弾を撃ち落としながら、この弾幕の張り合いだってつい昨日まで出来なかったことだしなあ、なんて思う。色々とタイミングがよかっただけだ。


 結晶弾を綺麗に相殺し、さらに放たれる水晶光線を上へと躱す。そして上昇を誘ったタイミングで顔面に叩き入れる殺人彗星(キリングハレー)──クアルアーラが小さく仰け反ったなら、それも隙だ。


「ウーリ、デカいの入れてくれ」

「了解!」


 ──水晶が剥がれた。

 俺の一打によって顔面を覆う鎧がひび割れ、最高のタイミングでそこへ撃ち込まれる巨大な杭。


 空を裂く音、強烈な打撃音を連続させて、クアルアーラの顔面をウーリの金属矢を貫いた。




 ……まあ「戦いやすい」なんていうのも第一形態に限った話だ。

 予想通り、これで倒れるほどやわなボスじゃない。


 クアルアーラの傷を埋めるように、内側から弾けるようにして放射状に発生する無数の水晶。

 それは顔面に突き刺さった金属矢を強引に体内から追い出し、全身にまとう鎧をより凶悪で鋭利な形状へと変貌させ、さらに水晶は空中にも発生する。


 咆哮と同時に、あちこちで無から水晶のトゲが生まれ、そして爆弾のように破裂する。


「さあ、第二形態か」

「結晶弾より読みにくそうだねえ」

 

 周囲の空間に爆裂する水晶を生成する能力。これはたしかに読みにくいというか、空中機動がやりにくくなる。

 とはいえ飛び回るのをやめるという選択肢もないわけで──


「──慣れるしかないな!」


 メニーナの用意してくれる竜巻に乗り、飛び上がる。

 まずはヘイト稼ぎ。直前の一打でウーリへ向いたヘイトを、その顔面を殴りつけることで強奪する。


「さあこっち向いて──おい、さっそくビームか」


 口の中に吸い込まれていく青白いオーラ。光線の予備動作だが、第一形態よりも収束が早い。

 今回ばかりはメニーナの補助も間に合わないので、ややリスキーだが下を抜ける。


 猛禽のような鋭い足にツルを伸ばしてくくりつけ、顎の下すれすれを躱すような急加速。

 すれ違った直後、俺がさっきまでいた位置をかすめた水晶光線に冷や汗をかきながら、俺は展開した月人の処刑(ムーンサイス)による斬撃を放とうとして──


「っと、危ない!」


 ──直前で軌道修正。

 こちらを迎撃するように振り抜かれる足爪による斬り裂きに刃を合わせるようにして、なんとか攻撃を弾く。


「だから嫌なんだよ、足を移動の起点にするの……!」


 俺の腕より巨大な鉤爪。当然ながら凶悪な武器だし、威力も素早さも段違い。足技で弾いたはずが、振動だけでもHPが二割近く削れてしまっている。



 危ない場面はあったが、とはいえヘイトは無事に取ることができた。

 鈎爪ゾーンから抜けるように、今度は翼へ撃ち込んだツルを収縮させて空高くへと飛び上がり、互いの攻撃をいなし合う。


 空中に発生する水晶爆弾は、クアルアーラの周囲に展開される青白い魔力の流れを見ればある程度の推測ができることに気付く。

 光線を口の中に集めるときと同じ、魔力が一箇所へと収束されていくような流れがあれば危険だ。できるだけ接近を避けるようにして飛び回る。


 さあ、ここからどう隙を作っていくか。

 俺が考えていた、そのときだった。



「トビくん! 後ろなんかいる!」

「……ッ!?」



 ウーリの声に、咄嗟に振り返った。

 空中だ。前方にはクアルアーラ、そして後方には──人魚のような女が浮いていた。


 あるいはそれは、浮くというより「泳いでいる」というのが正しいのかもしれない。

 空中に浮遊した水の上を泳いでいる──まるでグリッチのような間接的な浮遊術。白い髪をなびかせる人魚は、にたっと笑って俺を指差す。


「お会いできて光栄です。()()()()()()()!」


 ──それが魔法の詠唱だと気付いたのは、その直後。

 途端、上空から無数に降り注いだ大雨に打ち付けられ、俺の身体は落下した。


(おっも)……っ!?」


 尋常じゃない身体の重さだ。ただの雨じゃない。

 おそらくは "重み" を増した雨を降らせる魔法。肌に張り付き、衣服に染み込んだすべての水が重りとなって、俺のからだはなすすべもなく落ちていく。


 なるほど──

 こいつがタカツキをキルしたという刺客か。


 落ちながら、俺は咄嗟にウーリに通話を繋ぐ。


「ウーリ、一旦方針変更だ。俺とお前でこいつを倒す」

『えっ、クアルアーラはどうするの!?』

「フルル、シザーをメニーナさんと合流させてくれ。三人で時間稼ぎ」

『なるほど、了解!』


 フルルとシザー、飛行手段がないのがややネックだが、メニーナさえいれば彼女らも俺と同じようにグライダーが使える。フルルの糸使いの技術も上達してきているし、少なくとも時間稼ぎであれば可能なはず。


 ……これはただの直感だが。

 あの人魚、相当しんどい予感がする。




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