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FLOWER POT MAN 〜ただ植物を愛でていただけの俺が、なぜか魔王と呼ばれています〜  作者: 卵座
第6章 - Welcome to Verdebourg

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083 - 本日はふたり旅


 昨日はなかなかひどい目にあった。

 ウーリには案の定ボコボコにされ、ハンデありとはいえタカツキ相手にもそこそこ苦戦させられてしまった。


 なんとか勝てたからよかったが──

 いや、ウーリ戦についてはほぼ負けだな。メンデルの質量でゴリ押しただけのひどい結果だ。


 これは反省せずに置いておくわけにもいかない。映像ログをぼうっと眺めながら帰宅し、俺はさっそくログインする。



 俺の視界いっぱいに広がるのは、ただ白いだけの空間だ。



「……もう慣れてきたな」


 もはやいつもの光景です。

 後ろからぎゅうと抱きついてくる柔らかな体温も、いつも通り。


「メンデル……?」


 呼びかけて確かめれば──

 俺の視界は「ぐるんっ」と回転し、彼女の巨体に組み敷かれた。


 俺を見下ろすメンデルは、むすっとしている。「あ、不機嫌だな」と俺にはわかった。そろそろわかるようになってきた。


『とび』

「は、はい」

『しょっぱいのイヤ』

「ですよね、すみません」


 どうせその話だろうと思った。

 ウーリ戦でひどい目に合わされてしまったからな。


「き、北のほうにさ」

『うん』

「塩湖で生き残ってる植物型モンスターがいるんだってさ。そいつの排塩機能を()()()すれば、塩なんて何とも思わないくらいの耐性がつくと思うんだけど……ど、どう? もうちょっと頑張れる?」

『がんばれる』


 よかった。了承は取れた。

 けれどメンデルは覆いかぶさったまま退かず、じいとこちらを見つめ、俺の頬を指で撫でる。


「め、メンデル……?」


 なめらかな女体の曲線。蛇のように絡みつき、その大きな口が首筋を「ちゅう…」と甘噛みする。


『たべていい?』


『NPCから生殖機能利用の申請があります』

『ユーザーはあらゆる場合において、AI側からの性的アクションを拒否することができます』

『これによってAIの好感度が低下する・ゲームに不利な結果が生じることはありません』

『アクションを拒否しますか?』


「……っ」


 ……困った。

 メンデルが悪い子になってしまった。


 むっちりと柔らかな身体が押し付けられ、その太ももが股の隙間を割る。細い指先が鼠径部をつうとなぞる。

 一体どこで覚えたんだ。ウーリか?


 いずれにしても──

 俺は再び「No」をタップし、システムメッセージを跳ね除けることになった。


『たべるね』


 にやっと悪い笑みを浮かべたメンデルに、俺は喰われる。




 *****



 ふと視界が明けて、気付けば俺はクランハウスの天井を見上げている。

 ログインしたばかりだというのに、なぜか疲労困憊である。


「……くたびれた、主に腰周りが」


 ヘトヘトですか、本日も頑張っていきましょう。



 今日は久々に島の外に出る。

 まずはビルマーから、昨日のうちに頼んで強化・メンテナンスしてもらった新たな装備品を受け取り、次にマップへ。


 やってきたのは王都から北側。

 砂塵平原をさらに抜けた先、赤砂の大地と呼ばれる峡谷である。


 赤やオレンジ色をした、ごつごつとした岩肌があちこちに隆起した地形だ。高低差が激しく、とにかく三次元的に入り組んでいる。

 すでに誰かがボスを倒しているようで、夜は明けている。


「お、サボテンだ」


 適当に歩いているだけで、色々と見つかる。

 人の背丈くらいあるスリム気味なサボテンなんぞを見つけ、指でつついてみる。現実より針は鋭く、硬い。


 過酷な環境のために植物は少ないが、代わりに特徴的な種類が多いみたいだ。


「一応持ち帰って育ててみるか」


 あの島で育つかはわからないけど、リアルでも意外と園芸で扱われているのも見かけるし、余地はあるだろう。


 接ぎ木については少し考え中だ。

 夜の魔法使いになったことで倒れることはなくなったが、接ぎ木によってメンデルの燃費がより悪くなる、という事実が明らかになったため、数は絞ろうという方針である。


「まあ今回はとにかく塩湖だな。たまにはふたりっきりでいこうぜ、メンデル」


 最近はやたらとパーティ単位での行動が多かった。

 しゅるりと出てくるツルを指で撫でながら、俺たちは歩いた。



 赤砂の大地。

 とにかく高低差のキツいマップだが、俺とメンデルにとっては特にペナルティではない。


 ツルを撃ち込み、空を駆けて上っていく。

 すでに夜の明かされたマップということで、ときどきプレイヤーとすれ違うこともあるし、俺の名前を知っている人に手を振ってもらうこともある。


 ここはかなり広いマップで、赤砂の大地の中にもいくつかの区画分けがあるらしい。

 出てくるモンスターも違うし、採れる素材も違う。中間地点にファストトラベルポイントも用意されている。


 俺たちが目指す塩湖も、その区画のひとつだ。



「おっと、メンデル。敵だ」


 方向を確認しながら悠々と歩いていれば、ついに敵モンスターとかち合う。


 そいつは久々のゴーレム系モブだった。

 このあたりの岩肌と同じ、赤とオレンジの縞模様をした岩の身体。片手には巨大な石の大剣を握っている。


「ゴーレム系、前はスタミナがキツくて苦手だったけど……」


 燃費をある程度まで克服した今では、そう悪くもないエネミーだ。


 それに、新しい武器(・・・・・)の試し斬りにもちょうどいい。

 鈍重な小走りでこちらへ向かってくる赤岩ゴーレムを前に、俺はヘイロウを繋ぎ合わせて殺人彗星(キリングハレー)を組み立てる。


 その先端に、鍛冶師ビルマーの手により新たに加わった()()()()()()()を接合した。


「エンチャント・ノクス」


 バフ魔法によって夜の魔力を流し込んだ途端──

 殺人彗星(キリングハレー)の先端から、薙刀状の魔力刃が発生する。



 Item:ヘイロウ-アンチェイン

 Rarity:オリジナル

 

 黒真珠鋼(くろしんじゅこう)に月の獣の残滓を錬り込んで鍛えた金属リング "ヘイロウ" の特殊部品。海返りの呪剣の欠片を閉じ込めている。

 魔力を流し込むことで薙刀型/鎌型の二種類の魔力刃を発現させる。夜属性触媒。



 ──ヘイロウ-アンチェイン。

 これはクックノールのボスドロップ、魔力刃生成の能力を持つ「海返りの刀片」を加工して作ってもらったヘイロウだ。


 これまで打撃しか出来なかった殺人彗星(キリングハレー)に、切断属性を付与する選択肢が生まれた。これはかなり大きい。



 薙刀のような黒色の刃を展開した棍を構え、俺はゴーレムに接近する。

 振り下ろされた石剣を躱し、カウンターとして打ち込む斬撃。


 この斬撃は、硬い岩肌には()()()()()()()


 まるで岩の中に埋まるように、ゴーレムの体内に沈んだ魔力刃。

 棍を薙ぎ、そのままゴーレムを切り裂くように腕を震えば、ヴゥン──と奇妙な音。たとえば蜂の羽音のような強烈な重音を響かせて、刃はゴーレムの身体を抜けた。


「────ッ!?」

「おお、本当に弾かれない。素通りしていく」


 もちろん、ダメージが入ってないなんてこともない。

 魔力の斬撃によって内側から斬り裂かれたゴーレムは声のない悲鳴を上げて仰け反り、青い粒子をぶしゃりと吹き出させる。


 これが魔力の刃。

 硬度によって弾かれることのない斬撃。


 代わりに魔法への防御や耐性によってダメージを大きく軽減されてしまうが、硬さが取り柄の相手にはきわめて有効だ。



「────!」


 鳴き声にもなっていない重低音を響かせながら、地面に片脚を打ち付けるゴーレム。

 強烈な振動を生み、接地した敵の動きを止める震脚だ。ドレ=ヴァロークを思い出す効果である。


 ゴーレムはそのまま石剣を振りかざし、ごうと巻き上がった大量の赤砂が槍の形になってこちらへ飛んでくる。


「跳ぶぞ、メンデル」


 足は動かない。

 だから高所にツルを撃ち込み、収縮によって浮き上がって跳躍。


 すれ違いざまに再び、魔力刃によって首元を撫で斬り、さらにクレセントエッジを飛ばしてちまちまとダメージ稼ぎ。


「模範的な土属性って感じの敵だけど……狂化ノームを体験した後だとぬるく見えるな」


 斬撃、震脚、土魔法──

 いずれも対処は簡単で、一方的に攻撃可能。


 防御無視の試し斬りをたっぷり堪能していれば、やがて赤岩ゴーレムは砕けるようにして沈んだ。



 ……それにしても、意外とタフだったな。

 次は無視して逃げることにしよう。このマップ、地形や気候も加味すると、なかなか手強いかもしれない。


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