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FLOWER POT MAN 〜ただ植物を愛でていただけの俺が、なぜか魔王と呼ばれています〜  作者: 卵座
第6章 - Welcome to Verdebourg

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079 - 大人げない者共


 今回のボス攻略のため、ビルマーたちが開発した設置型大砲ジャガーノート。

 この兵器の優れた点は「威力がスキルに依存せず、誰が使っても同じ高火力を叩き出せる」というところにある。


 そういうわけで、俺たちはクリアのたびにクリア者からジャガーノートを回収し、それを次の参加者へと受け渡してさらなる再戦。

 これを繰り返すことで、ある程度の安定性をもって〈白魚の海賊団〉周回をぶん回すことができるようになっていた。


「それにしてもすごいもの作ったな……あのバカみたいな威力、攻城やら都市城壁やらで、もっと需要があるんじゃないか?」


 俺のコメントに、ビルマーは「さすがお目が高い!」を嬉しそうに頷いた。


「実際、王国からも買い取りの打診もあったんですがね。今回はお断りしました」

「え、なんで?」

「いやあ、トビさんのクランであんな騒動がありましたし……王国騎士団を取り引き相手にするの、ちょっと怖いじゃないですか」


 うわあ、そういう影響出てるんだ。

 「プレイヤーがNPCから信頼されなくなる」ならよく聞く話だが、「NPCがプレイヤーから信頼されなくなる」というのは前代未聞だ。こういうことが重なると、王国と騎士団の立場はより厳しくなっていくと思うのだが……大丈夫なのだろうか。


 まあいいか。

 もう他人事だ。


「それにしたって、砲弾のコストもなかなか採算取れないんですけどね! 今回は街作りの予算を侯爵家に出してもらえるので、なんとか破産は回避できました」


 などと説明するビルマー。

 たかだか十数回のボス戦でクランが破産って……あの砲弾ひとついくらするんだ? そんなことを想像してぞっとしながらも──


 それからゲーム内で半日程度の時間をかけて、俺たちは参加者全員をヴェルデブールへと輸送したのだった。




 *



 俺が口を出す必要もなく、街作りは勝手にはじまった。

 

 コルヴァラン家が連れてきた職人たちと、俺が連れてきた生産プレイヤーたち。合計すると五十人近くになるが、びっくりするほどなんのトラブルもない。うまいことやっている。


「トビさーん! 例のやつ、お願いします!」

「はいはい」


 プレイヤー側の都市設計責任者、バウクロッツェ──通称バウに呼ばれて、俺は砂浜から少し上がったところにある丘の頂きへとやってきた。


 俺がログインしていないうちに整備が進み、石畳の敷かれた公園のように整地された丘の上だ。

 中央には小さな石造りの鐘塔が建設されており、頂上には巨大な鐘が吊るされている。


「素敵な塔だな。ここでいいの? ファストトラベルポイント」

「ええ! ここで!」


 例のやつ──

 というのは、ファストトラベルポイントの設置地点のことである。


 薬草園にはすでにポイントが設置されているが、あれはクランメンバーしか使えない。それとは別に、全プレイヤー共有のファストトラベルポイントを島内に二箇所まで設置できるようだ。


 ウィンドウを開いて、俺はガイドに従ってポイントを設置する。


「ありがとーっ!」

「うん。それにしても、なぜ鐘塔を?」


 たしかにアクセスのいい場所かもしれないが、港の整備よりも先に鐘塔が建てられるとは思わなかった。

 俺の疑問にバウクロッツェは「ああ、この鐘はバフアイテムです! 防衛戦用の!」と元気よく答えた。


「防衛戦?」

「まだ見たことはないんですけど、街が襲撃される類いのイベントがあるらしくて。この鐘はそのときにだけ効果を発揮する、区域内の全員に広域バフをかけるアイテムなんですよ!」


 なるほど、たしかに大事だ。

 バウクロッツェは「トビさんたちは特に騎士団と揉めたばかりなので」と言って、この鐘塔を最優先に手配してくれたらしい。俺が何も知らない裏で、いろいろと考えてくれてるわけだ。


「この鐘台からあちこち通路を伸ばして、その隙間を建物で埋めてく形になるかと!」

「うん、了解。細かいことは専門家におまかせするよ」

「善良クライアント! ありがとーっ!」


 元気な人だ。

 他にやることはないかと尋ねると、では、と少し奥に案内される。


 このあたりからは少し木々が増えてきて、島の中央は深い林になっている。その手前、見慣れぬ家々がいくつか増えていた。


「工房拠点を増設したので、また補強をお願いしていいですか!」

「了解」


 補強というのは、ツルを使った巻き付けだ。

 王都での〈狂い啼くノーム〉戦で、俺が住宅地を守ったときにやったことと同じこと──つまりは壁や柱にツルを這わせ、より強度を高める。これをすると、いろいろ面倒な工程を省けるらしい。


 飴玉を噛んでエネルギーを補給しながら、俺は体内でメンデルのツルを増産した。


「よし、やるぞメンデル」


 地面に手をつけば、ずるずる、めりめりと腕から溢れ出る茨ヅル。それらは地面を縫い、壁を這い、柱に巻き付き、建物と地面を一体化させるようなイメージで縛り固める。


「いやあ、便利ですね! デザインも最高だーっ!」

「デザイン?」

「ノックスリリィ、超オシャレじゃないですか!」


 俺は強化した工房拠点を眺めた。

 王都の住宅街がそうなったように、建物一面に這う灰色のツルと、咲き乱れる黒い花。黄金色の脈がきらきらと輝いて脈動している。


 ……オシャレだろうか。

 自分で言うのもなんだが、ちょっと禍々しくも見えるんだけど。ゴスロリ嗜好の人たちには好まれるかもな。


「いいねえ、魔王様の街! こういうテーマでいきましょう!」


 大丈夫かなあ。



 ……なんて作業を手伝いながら、海岸周りを見回り。

 港のほうも修繕作業がかなり進んでいる。素人目にも分かるくらいだ。


「お、タカツキが帰ってきてる」


 ちょうどいいタイミングで、彼らのボートが帰ってきたのが見えた。

 タカツキとその周辺の攻略組グループも輸送済み。かつてほんの一度だけ、湿地帯で共闘したプレイヤーたちだ。島周辺の安全確認を引き受けてくれた。


「おーい、タカツキ」

「あっ! トビの兄貴!」

「トビさーん! おはようございまァーす!」

「おはようございますッ! 魚たくさん獲れましたーっ!」


 呼びかければぶんぶんと手を振り返すタカツキたち。こちらも元気だ。


 それにしても、なぜ魚?

 モンスターの確認に出たのではなかったのか。


「ペリカンめっちゃいたンすよ。口ん中の魚ドロップするみたいで」

「ああ、アイツこのあたりにも出るのか」


 ボートから降りてきて、そんな報告をしてくれるタカツキ。

 口の中で鉄砲魚を飼うペリカン型のモンスターは、たしか海岸でも出現していたヤツだ。プレイヤーが相手をする分にはしんどい相手じゃないが、NPCの船旅を考えると少しリスクだな。考えておこう。


「他はどうだ?」

「船上にいる限りでは、水中のモブは襲っては来ないッすね。一週間くらい回ったら正確に統計取れると思います」

「一週間? そんなに手伝ってくれるの?」

「そりゃあ、そのくらい回んないとレア出現のモンスターとかわかんないじゃないッすか」


 いいのか、そんなに時間を使って──

 という俺の懸念に、タカツキは「キャリーで海賊団抜けさせてもらった時点で収支プラスなんで!」と快く答えた。

 

 今回、タカツキは特に積極的だ。

 海上巡回のために、わざわざ船舶系のスキルまで取得してくれたくらい。


 せめてものサポートとして、今回は船乗りアダンに師匠としてついてもらっている。


「アダン、タカツキはどうだ?」

「センスはある。まだひよっこだが、風魔法があるのはいいな。帆船に限れば今にでも扱えるぞ」


 高評価だ。

 タカツキは嬉しそうにしている。


「いろいろ助かるよ。礼がしたい、何か欲しいものがあったら言ってくれ」


 俺がそう言えば、まずアダンは酒を要求し、タカツキ以外のプレイヤーはノックスリリィがいくつか欲しいと要求した。どちらも問題ない。

 一方、タカツキの要求は──

 

「トビさん、模擬戦いいッすか」


 ──ほう、なかなか好戦的だ。




 *



 減るものじゃない。

 だから俺は要求に応じた。


 薬草園近くの開けた場所を決闘場代わりに見繕っていれば、ギャラリーがぞろぞろと現れる。


「トビさん戦うんだって? マジ?」

「魔王さま!? 見たい見たい!」

「ネイラ様のおっしゃっていた夜の魔法使いか……ひ、人死には出ねえよな……?」

「問題ないだろう。見ろよ、相手も "ぷれいやー" だ」


 NPC、プレイヤー。どちらも興味津々と様子で、遠巻きにこちらを見ている。

 それにしても、今日はフルルがいなくてよかった。この調子なら一瞬で嗅ぎつけられて、連戦を要求されていただろうから。


「タカツキ、レギュはどうする?」

「死んでもその場で復活できる "決闘モード" があるンで、そいつ準拠で。アイテムは持ち込み自由っすけど、ポーション系は五本目から中毒出ます」

「オーケー、俺のハンデは?」

「全身異形化ナシ、足技も刃の展開はナシにしてもらえると……!」

「うん、ちょうど良さそうだな」


 下手に「全力で来てください」なんて言われても、なかなか練習としては成立しにくい。

 今のタカツキには、自分が勝てるかもしれないギリギリのラインを考えようとする姿勢がある。それだけで大きな成長だ。


 まあ、実際にそこが「ギリギリ勝てるライン」か否かは別として。


「頑張れトビくーん! 大人気なくボコせーっ! みんなで見てるぞーっ!」


 薬草園の庭でくつろぐウーリも俺を応援して……応援かこれ? リスナーも一緒だそうです、やりにくい。

 まあ言われなくたって──


「──ようし、大人気なくボコすぞ」

「うッす! 胸借りまァす!」


 ゲームだ。そして競技だ。

 手加減したって何も面白くない。自分も相手も。


 決闘モードというやつか、目の前に現れるカウントダウン──それがゼロになった途端、俺たちは同時に踏み出した。


 互いに弾丸のような踏み込み。

 俺は殺人彗星(キリングハレー)を、そしてタカツキは以前の西洋剣とは異なる軍刀のような直剣を振るい、それは空中で火花を散らしてぶつかりあった。


「いい刀だな」

「シザーさんの居合い、超カッコよかったんで!」


 ああ、そういう。投げナイフの習得といい、本当に影響されやすいなお前は。

 ともあれ鍔迫り合いは腕力勝負、ここでは俺が上回る。タカツキを弾き飛ばしたと同時──俺たちは互いにバフ魔法を唱えた。


「エンチャント・ノクス」

「雷、風、中位混成──エンチャント・サンダーストーム!」


 タカツキの周囲に、雲の混じったような灰色の旋風が渦巻く。なかなか面白そうなワザを覚えてきたじゃないか。


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