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FLOWER POT MAN 〜ただ植物を愛でていただけの俺が、なぜか魔王と呼ばれています〜  作者: 卵座
第6章 - Welcome to Verdebourg

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076 - ネイラ・コルヴァランという男


「夜百合はもういい、それよりもトビよ。ここを街として発展させるつもりはないか?」


 にっと口端を吊り上げて笑うネイラ。

 まさか、噂に聞く街作りコンテンツとやらの話だろうか。


「なんだそれ……なぜ侯爵家がそんなことを?」

「うむ、そうだな。俺たちが求めているのは、街というより交易拠点だ」

「交易拠点?」

「そうだ。そもそも船旅というのは危険なものだ。航路がどれだけ開拓されようが、ちょっとした天候や魔物の動向次第であっさり全滅しかねない。そうしたとき、休憩できる、逃げ込める、あるいは荷物を置いていける場所があるというのはとても大きい」


 ……つまり、この島を休憩所として使いたいということだろうか。俺の理解にネイラは頷く。


「その通り。しかしそれ以上のことも出来ると思っている」

「それ以上?」

「言ったろう、交易拠点だ。休憩所としての役目だけでない、そもそもの目的である交易や貿易といった商売をこの島で行うのだ」

「……積み荷のやり取り、受け渡しまでこの島で?」

「そういうことになる。この島は王都本土と海上都市のちょうど半ばにある場所だからな。ここを積み荷の中継地点とすれば、それぞれの都市から出さなければならない交易船の移動距離を半分にすることができる」


 ……それって意味あるのか?

 どちらにしても、最終的な積み荷の移動距離は変わらないように思うのだけど。しかしネイラは「それが意味があるのだ」と苦々しい様子で頷いた。


「海上都市バルマリンを知っているか?」

「名前だけ。詳細は何も知らない」

「やつらはまさに、海上交易の中継地として発展した都市だ。元々は休憩所の役割を担っていた」

「……元々は?」

「うむ。次第にやつらは、さっき話したような交易の中継拠点として振る舞うように──すなわち交易の仲介をしてくるようになってな。まあつまり "ウチで休憩するならついでに交易にも噛ませろ" といった具合だ」


 そうして権力と財力を持つようになり、傲慢にも肥大化していった──とネイラは説明する。


 けれど、と俺は考える。

 それはまさに今、侯爵家が俺たちにさせようとしていることではないか。それを言えば──


「いいや、お前たちはそうはならん」


 ──と、ネイラは断定した。


「なぜわかる?」

「お前たちがぷれいやー(・・・・・)だからだ。たった数人、数十人でそんなことをしてみろ、他のことをする時間なんて残らんぞ? ()()()が好きなんだろう、お前たちは」


 交易は生き物だ、流れ作業化することなど絶対にできない。()()()()()()()()()()() ──とネイラは言い張った。


「……なんかすごいね、この人」

「げ、ゲーマーというものを正しく認知されていますね……」


 ウーリとシザーが呆れている。

 実際、他のNPCとは雰囲気がかなり違う。思考の柔軟さが桁違いだ。


 まあ実際は、交易プレイばかりを好む稀有なプレイヤーもいないことはないのだろうが……少なくともうちのクランはそうじゃない。


「さっきの距離の話は、たしかに大部分がまやかしだ。だが船乗りたちの安心感は大きく違う」

「一度の航海が短くなるから、だな」

「そうだ。航海の数は増えるが、一回の時間が減る──ストレスが軽減されるのだ。そしてこの島を中継地として使い始めると、やがて気付くだろう。余計なちょっかいをかけてくるバルマリンなどスルーして、直接ヴェルデブールに向かえばいいではないかと!」


 すごいな。バルマリンからしたら嫌がらせ以外の何でもない。

 つまり真の目的を航海を楽にさせることそのものではなく、バルマリンによる交易経路独占を崩すこと──ということだろうか。


「案ずるな、バルマリンからのやっかみは俺たち侯爵家が弾いてやる」

「ありがたいけど……それができるなら、そもそも余計なちょっかい入れさせないくらいのこともできるのでは?」

「できるぞ。実際、コルヴァラン家の船はやつらを突っぱねているからな」


 だったらなんでこんなこと──

 と顔をしかめた俺に、ネイラはぴしゃりと言った。


「経済とは健全でなくてはならん。不健全な経済はいずれ停滞する。ならば今のバルマリンの姿勢は当然正すべきであるし、そのためにこの島の立地はちょうど良い!」

「なんとも簡潔だ」


 そしてすごく真っ直ぐだ。


「俺たちのデメリットは?」

「海上都市バルマリンからの恨みを買うだろう」

「メリットは?」

「街の開発における全面支援、街で発生する莫大な収益や停泊料金がお前たちに入る。それから情報だな」

「情報?」

「交易拠点ではとにかく各地の情報が行き交う。たとえばトビ、今悩みごとはあるか?」

「ええと、そうだな……塩分の問題があるな。ウチの植物たち、海水程度ならギリ耐えられるが、それ以上の濃度の水には耐えられないんだ」

「ふむ、塩か……」


 顎に指を添え、ネイラは少し考えて答えた。


「北の砂地の方に、人が浮き上がるほどの塩湖がある。常夜がやってきて以来ますます塩は強くなり、最近では見たことのない()()()の魔物が居着いたらしい」

「……!」

「と、交易の最前線ではそういう新鮮な情報がゴロゴロと転がり落ちてくるわけだ」


 ……なるほど、途端に魅力的に思えてきた。

 このゲームはとにかくNPCからの情報が重要だ。プレイヤー同士の情報交換だけでは全く網羅しきれない、膨大な情報が各地に転がっている。


 そういう情報が自動的に(・・・・)転がり込んでくる環境、これはかなり悪くない。とはいえ──


「まあ決めるのはメニーナさんだけどな」

「なに?」

「えっ!? わ、私……!?」


 それはそうだろう。

 クランのボスはメニーナさんだ。


「ウチに何かさせようってなら、ボスを通してもらわなきゃ困るね」

「なんと、そうか! そうだったのか! すまないメニーナ、どうだ? 交易拠点の話は?」

「え、ええっ……!?」


 面白い。なんだこの状況。

 ウーリは堪えきれず吹き出している。


 身を乗り出して迫るネイラに、メニーナは引き気味にこくこくと頷いた。


「や、やりましょう! イイと思います、ケンゼンな経済!」


 うん、だろうと思っていた。

 ということで、俺たちは街を作ることになったらしい。



 ざっくりとした話が済むと、俺たちはネイラの主導で詳細を詰める。なにせ街を作るのに何が必要か、俺たちにはまったくのノウハウがないのだ。


「ひとまずは、こちらから職人の手配をしよう。放っておけば勝手に仕事をするだろうが、何かあればいくらだって口を出して構わん」

「柔軟だなあ」

「お前たちの土地だからな」


 まあ実際には王国の領海内ではあるのだが──王国に反旗を翻したプレイヤーが土地を占領したなら、国はそれを武力で退ける他になく、そんなことをしている余裕もない。ネイラはそんなふうに言う。


「プレイヤー視点の評価も欲しいから、生産にはビルマーたちも噛ませたいな。あいつらのクラン、ええと……」

「〈エンタープライズ:ベルベット&メタリカ〉」

「それだ」


 ウーリの補完に頷く。


「ああ、やつらか。ミラの交易組合とも付き合いのある、優れた職人たちと聞いている。ぜひ巻き込もう!」


 ネイラも認知しているようだ。

 それもそうか、そもそも交易組合の仕事を俺たちに持ち込んできたのはビルマーなのだから。


 とはいえ、生産職の方々にはまず封鎖型ボスを乗り越えてもらわねばならない。

 俺たちがキャリーするにしても、ボスに挑める同時人数は八人まで。うまいこと効率的なやり方を考えないと。それに──


「島周りの探索もしておかないとな。シザーとフルルは時間取れそう?」

「常にログインはできませんが、午後であれば。NPCを呼び込むのなら、周囲の安全確保はしなければなりませんものね」

「ボクも夜なら大丈夫です。あとはフレンドさんでも呼んだらどうです?」

「そうするか。タカツキとか呼ぼう」


 チョイスは一択。他に友だちがいません。

 ハイファットエンジンとかPEEK A BOOとか、あの人たちは友だちとはまた違うからなあ。



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