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FLOWER POT MAN 〜ただ植物を愛でていただけの俺が、なぜか魔王と呼ばれています〜  作者: 卵座
第6章 - Welcome to Verdebourg

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075 - 大貴族来航


 本日もログイン。

 なんとも平和な日々だ。スローライフというのは悪くない──いや、想像以上に楽しい。


「ぶももっ……」

「ありがとう、こがねちゃん(・・・・・・)


 薬草園に出ると、今日も黄金の果実を手渡してくれる〈金の成る木〉。名前はメニーナが勝手につけていた。分かりやすくていい名前。

 薬草たちが立ち歩くようになって、こうして向こうから収穫物を手渡しにきてくれることが増えた。


「これ、便利だなあ」


 列をなしてやってくる彼らから今日の薬草を受け取り、頭を撫でて帰す。

 するとやつらはノルマが終わったとばかりに帰っていって、土に埋まって眠ったり、ノームたちと遊びに出たりする。


「トビくん、元締めみたいだね」

「元締めって言うな」


 上納金回収じゃないのよ。

 ウーリは薬草園の端に設置したウッドベンチでくつろいでいる。


 こういうアイテムは大抵はウーリかフルルが持ち込んだものだ。おかげで敷地内はごちゃごちゃしてきたが、これはこれでいい雰囲気である。


「ウーリは何してんの?」

「だらだら雑談配信」

「配信中かよ」

「トビくん、リスナーに挨拶して」


 おはようございますと手を振っておく。

 それにしても、この平日昼間から、ただの雑談で人が集まるのか。すごいな。


「今はなんの話してんの?」

「デイブレでおいしいぶどうの品種知らない? ってリスナーから情報収集してる」


 諦めてなかったのか、お前。


「トビくんの島に住みたい! って人いっぱいいるよ」

「ええ? どいつもこいつも……」


 NPCにも妙なフラグが立っているというのに。


「あとクックノール倒したいから手伝ってくれって言ってるやつもいる」

「それは自分でやれ」

「だってさ」


 お前のリスナーなんて大体ゲーマーだろ。自分でチャレンジしてみなさい。初見なんてそれが一番楽しいんだから。


「あ、ビルマーたちのキャリーはしてあげてね? トビくん」

「そうだな。生産職はしょうがない」


 来てもらわないと、いつまでも水道周りが復旧しないからなあ。


 ともあれ、黄金の果実、薬草はこうして収穫。

 ノックスリリィの方はノームが勝手に回収・販売してくれているので、俺が何かする必要はない。


 ちなみにノックスリリィも他の薬草と同じく歩き回れるようになっていたが、地下室の暗闇が落ち着くのか普段は土に埋まってじっとしている。



 その後も、のんびりとした生活が続いた。

 薬草を育て、摘んだハーブで料理を作ってみたり、魚を釣ってみたり、たまにフルルに斬りかかられて模擬戦になったり──



 そして数日経ったその日、ヴェルデブールに()()がやってきた。



 最初に気付いたのはフルルだった。

 船の音がすると言うので浜辺のほうを見れば、大きな商船が島へと向かってきている。


 プレイヤーの所有物──という規模の船ではない。NPCだ。それも相当な金持ちだろう。


「……騎士団がここまで追ってきた、なんてことはないよな?」

「違うだろうね。武装は積んであるけど、どれも布がかかってる。攻撃の意志はないってことだと思う」


 ウーリの言葉になるほどと頷き、俺たちは船の動向を観察する。


 船はしばらく正面からこちらへ向かってきたが、やがて迂回をはじめる。砂浜ではなく、横側にある停泊所に向かうつもりなのだ。


「ボクたちも行きましょうか」

「ね、念のため、ウィンディーネちゃんを描いておきますね……?」

「うん。メニーナさん、お願い」


 海上戦闘に限れば俺でも勝てる気がしない〈ウィンディーネの遣い〉を描き上げ、具現化するメニーナ。

 こちらもフルメンバー揃っていたのは幸いだ。刀、ナイフ、機械弓、それぞれの武装をした皆と共に、俺たちは停泊所へと走った。


 かつて海賊たちによって建造された、古い木造の停泊施設だ。

 足の部分はほとんどが腐ってしまっていて、再利用するならメンテナンスは必須。このあたりは近いうちにビルマーに相談する予定だった。


 向かってくる船はといえば、ゆったりとしたペースだ。たしかに敵意は感じない。

 やがて船は器用にも崖際にボディを寄せ、数人の護衛らしき騎士、そして身なりの良いスーツの青年が「ぴょんっ」と停泊所に飛び降りる。


 危ないですよ──と声をかける前に、青年はこちらを向いて口を開いた。金色のマッシュヘアが潮風に揺れる。


「おいおい、ミラの言ったことがまさか本当だったとは……海賊たちから諸島を奪い返してくれたのだな。いやあ、これはめでたい!」


 にこやかに笑う金髪マッシュ。

 低く、はっきりとよく響く声だ。


 ……それに、ミラ?

 侯爵家のミラ・コルヴァランのことだろうか。つまりこの人は王都交易組合の──いや、あの身分の相手に呼び捨てとなると、侯爵家の関係者か?


「トビってのはそこの男だな? 俺はネイラ……ネイラ・コルヴァランだ。現在、()()()()()()()()()()を務めている。会いたかったぞ、さあ俺と商売をしないか!」


 おい、嘘だろ。

 関係者どころじゃない、当主様ご本人がやってきた。




 *



 立ち話もなんなので──

 ということで、彼らはひとまず薬草園にお招きすることになった。


 正直、客人を呼べるほど整った環境ではない。

 しかしネイラ侯爵はウチの薬草園に興味津々な様子で、これはこれで良いもてなしにはなったのかもしれない。


「豊かな島だな。庭もよく手入れされている。名はあるのか?」

「島にはヴェルデブールという名前をつけました。庭にはこれといった呼び名はありませんが……ヴァローク氏の遺した施設なので、ヴァロークの薬草園と安直に呼ぶことが多いです」

「ヴァロークか、懐かしい名だな。後継がいるとは知らなかったが」


 ……侯爵に認知されているのか、故ヴァローク氏は。知れば知るほど分からなくなっていく。


「おいトビ、なんだあの木は! 歩いているぞ! いいのか野放しで!」

「あれは一日一回黄金の果実をくれる子です。こがねちゃんといいます」

「黄金の果実!? 手懐けているのか……!」


 落ち着きなくはしゃぐ当主様。なんというか、やんちゃな子供を相手している気分だ。実際の年齢は二十代半ばといった感じだけど。


 塔の中をさっと片付け、急遽一階にテーブルと椅子を設置。ネイラ侯爵には上座に座ってもらう。この世界にそういう文化があるのかは知らないが、なんとなくだ。


「ええと、侯爵様。それで、今回はどういったご要件で──」

「待てトビ、さっきから……なぜそんな言葉遣いなんだ?」


 俺の言葉を遮って、ネイラは言う。


「いや、まあ……だって貴族じゃないですか、あなた」

「そうだな。だがお前は王国に喧嘩を売ったんだろう? 王国の元で国庫に税を納めていた頃ならともかく、今のお前たちにとって俺は敬意を払うべき相手ではないはずだ。ネイラと呼べ」

「ええ……」

「俺もトビと呼ぶ」


 なんなんだ、この人は。

 差し出された椅子に、ネイラは足を組むように腰掛けて不遜な態度だ。


 とはいえ、この様子を見るに傲慢というわけでもないらしい。そばにはお付きの騎士がふたり、じっと立って控えている。


「……このヒト、本当に貴族なんですか?」

「ミラ様ってお爺ちゃんも貴族っぽくなかったから、コルヴァラン家ってこういう感じなのかも」


 フルルとウーリは好き勝手言っている。丸聞こえだぞ。ネイラは笑っているが。


「……分かった、ネイラ。それで要件は? たしか商売とか言ってたな」

「うん、話が早いな。そうだ。当初は夜百合の取り引き相手として、ミラに紹介を受けた。ゆえにこうしてはるばる探しにきたわけだが──」


 夜百合、つまりノックスリリィか。

 俺たちが薬草園ごと立ち去ったことで、王国への供給はたしかに減る。市民に花飾りを配る試みは続ける予定だが、国や貴族たちにノックスリリィそのものを販売することはなくなるだろう。


 だが、とネイラは続けた。


「──この島の様子を見て気が変わった。夜百合はもういい、それよりもトビよ。ここを街として発展させるつもりはないか?」


 支援は惜しまないぞ、とネイラは笑って言う。




 *****



 第6章 - Welcome to Verdebourg

 

 現在地:ヴェルデブール

 経済状況:免税によりクラン収益倍増

 後援NPC:ヴァローク婆/コルヴァラン侯爵家



カクヨムのほうで新連載「暴食魔王 with the スワンプマン 〜異世界に憧れた魔力なしは、人体改造によって最凶の魔術を手に入れる〜」を執筆しはじめました。かっこいいがあります、えっちもあります。もしよければ覗きにきてください。


https://kakuyomu.jp/works/822139837818311112

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