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FLOWER POT MAN 〜ただ植物を愛でていただけの俺が、なぜか魔王と呼ばれています〜  作者: 卵座
第5章 - Run the Abyss

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056 - ボロボロの好感度


 今回のビルマーからの要件は、端的に言えば「海賊のせいで流通が滞ってるからなんとかしてほしい」ということらしい。


 まずはビルマーと合流。

 このあと、一緒に「王都交易組合」なる集会へと向かう予定だ。


「おお、トビさん! お久しぶり……でもないですね、一昨日ぶりです」

「うん、実はそうなんですよ」


 つい一昨日、ビルマーにはムーンビースト素材をすべて預けるために会っているので、全く久しぶりではない。というか俺にも連絡くれれば良かったのに。


「いやあ、任された依頼もこなしていないうちに頼み事をするのは気が引けてしまい……すみません、水臭かったですね」

「全然いいのに。ウーリから大体のことは聞いてますけど、詳しい話をお願いしても?」

「ええ、勿論です」


 ビルマー、ウーリ、そして俺の3人で並び歩き、目的地へと向かいながら話を聞く。


「王都西側、トビさんもよく知る湿地帯の先の〈無法者の海岸〉なんですが……そのさらに先にある海上都市との交易経路なんです」

「封鎖ボスを倒せばそいつが解放されるわけか」

「交易ねえ……結構デカい規模の話だよね。港があるの?」

「たしかマップ端に港町の跡地があるはずです。解放され次第、プレイヤーによって復旧できるようになるでしょうね」


 なるほど。となると本当に交易船が行き交うレベルの大きな取り引きができるようになるわけだ。


「そもそも交易システムなんてあったんだな」

「ええ。このゲームには、NPC商人からしか手に入らないアイテムが無数にありまして……流通をなんとかしないと、それが高騰したままなんですよ」

「今、元の値段の20倍とかなんでしょ? まぁ生産職としてはどうにかしたいとこだよね」


 20倍……!?

 いや、NPCたちがあの危険な夜の中を旅して運んできた商品と考えれば、それでも安い方なのだろうか。


「いいじゃん、楽しそうだ。港跡地っていうのも街作りコンテンツに繋がりそうだし」


 ウーリは乗り気だ。

 それにしても、街作りコンテンツなんてあるのか?


「あるよ。ワールドの中にはプレイヤーが自由に手を加えられるエリアがいくつかあって、そこで街を作れるんだよ。β版の後半で実装されてたよね」

「生産職が待ち望んでいるコンテンツですね。何千人というプレイヤーとNPCが連携して街を計画するんです。本当に楽しいですよ」

「おお、たしかに楽しそう……」


 まだまだ知らないことがたくさんだ。

 コンテンツの尽きない良いゲームだなぁ。


「……というのがまぁ、俺たちプレイヤーの都合です」

「ほう?」

「実際にはNPCの方が困っています。彼らにとっては命懸けですし……今回俺に相談をもちかけてくれた〈王都交易組合〉には、日頃からお世話になっていましてね。彼らの旅路を早いところ安全にしてやりたい、という気持ちもあります」


 やや苦々しく笑ってビルマーは言う。


 なるほど。たしかにそれは大事だ。

 特にうちのクランは、オーナーのおかげで「NPCの事情を第一に」という方針なので……そんな話とあらば、聞かないわけにはいかない。


「トビくん、気合い入れますか」

「そうだな。では行きましょう、ビルマーさん」

「ええ。よろしくお願いします」


 やがて例の組合にたどり着く。

 俺たちは改めて姿勢を正し、集会所へと入っていった、はずだったのだが──



「──ッ!?」

「お、おい! なんだそいつは……!」

「ビルマー……お前、なんてもんを連れてきやがった……!?」


 大きな円卓の置かれた集会所。

 商人、貴族、船乗り……そこには様々な格好のおじさんたちが10名近く集まっていたが、その表情に共通しているのは「恐れ」と「排斥」だった。


 彼らは「がたんっ!」と椅子を鳴らして一斉に立ち上がってこちらを見る。壁に控えていた衛兵らしき数名は、抜いた剣の切っ先をこちらへ向けまでする。


 ……おいおい。

 なんだか思っていた出迎えと違うぞ。


「ち、ちょっと待って……皆さん、落ち着いてください! この方はトビさんとウーリさんです! ほら、以前からお話していた──」


 そんなふうに場を収めようとするビルマーの背後で待機しつつ……俺とウーリは顔を見合わせた。


「まぁ正直……」

「心当たりはあるよねえ」


 うん、と俺は頷く。

 間違いなく〈月の狂気(ルナティック)〉によるNPCの好感度低下だ。


 とはいえ、ここまであからさまなのは初めて。

 たとえば街を歩いているときでも、すれ違うNPCたちにこんな反応をされることはまずない。一体違いはなんだろうか?


「アレじゃない? 魔法を使えるか使えないか、みたいな」

「ああ、それはありそうだな……」


 ここにいるNPCたちは、皆どこか(くらい)が高そうに見える。

 貴族らしい装いの老人や、金持ちの商人。ウーリの視線の先にいる船乗りらしき男も、青色の宝石を嵌め込んだ杖を握っている。


 育ちが良く、魔法の素養がある者たち。

 それはつまり、俺の中の "夜の魔力" を見てしまった者たちとも言えるかもしれない。



 ……なんてことをウーリと話していれば、ビルマーがおじさんたちを上手いこと落ち着かせた頃合いだった。

 彼らは順々と腰を下ろし、中央の貴族らしき老人がひとつ咳払い。兵隊たちはひとまず剣を下ろしてくれたが、納刀はせず警戒したまま構えている。


「……取り乱してすまんかったな。トビさん、ウーリさん、どうか座ってくれ」

「言葉に甘えて座ろっか、トビくん」

「ああ、そうだな」


 老人の言葉に従い、大人しく用意された席に着く。

 その隣に、申し訳なさそうな表情で座るビルマー。悪いのはどう考えても俺なので、どうか気に病まないでほしい。


「ううむ……我々がなぜ君たちをこうも警戒したのか、その顔では自覚があるようじゃな」

「まぁ、そのあたりは覚悟して修得した魔法ですから」

「そうか。たしかに理性も働いているように見える……驚くべきことじゃ」


 目を細め、じっとこちらを観察する老人。

 話の内容からしても、この人も〈月の狂気(ルナティック)〉のことは知っているようだ。その上で俺という存在を疑問視している。


 ……「理性が働いている」か。

 どうやら本来、〈月の狂気(ルナティック)〉に憑かれた人間は正気でなくなるようだ。では俺がなぜ無事なのかと言われれば……それはプレイヤーだからだろう。


 俺以外のプレイヤーが〈月の狂気(ルナティック)〉を取得しても、おそらく結果は同じ。

 なぜならば、ゲームの中だろうがプレイヤーに「()()()」を疑似体験させることは倫理的にやってはいけないことだからだ。どの国でも法律で禁止されている。


 つまり俺たちは、ゲームと法の倫理規制に守られることで〈月の狂気(ルナティック)〉をただのデータとして享受できる。この世界観においては、きわめて例外的に。


 そういうことなのだろうと、俺は考察する。


「ま、まぁたしかに驚きはしたが……元々分かってたことだろ。なんたってそいつ、グレゴール薬師商会のボスだぜ?」


 船乗りたちの中でも、一番治安の悪そうな格好の男がそう口を開く。


「そ、そうなのか? あの商会のボスはメニーナってデカい女だと聞いていたが……」

「いやいや、こいつが実質的なボスなんだよ。ノックスリリィの元締めだ」

「そういやあ……薬師商会の男が、あの辺りを土塊(つちくれ)の化け物から守ったって話が……」

「ま、まさかこいつか!? 忌み花の守護者さまってのは!」

「俺のダチは魔王さまだって呼んでたぞ?」


 ……なんかすごい噂の広がり方してないか?

 この集会所、ウチのクランハウスから随分遠いのに、こうも簡単に広がるものか……というか「忌み花の守護者」ってなんだよ。隣のウーリはぶはっと噴き出して笑っている。


 ちなみに「魔王」と呼ばれていることには薄々気付いています。そのダチ、多分プレイヤーだろ。


「いやあ、よく聞いてるぜ。あの辺りを歩くと、どいつもこいつもアンタの話しかしねえ」

「ああ。我らが忌み嫌う "夜の魔力" をその身に纏い、どういうわけか街を守ってみせた男だと」

「の、ノックスリリィを自由に咲かせられるってのは本当なのか?」


 食い気味に聞いてくる男に、俺は「ええ、まあ……」と引き気味な言葉で答え──代わりに手のひらに花を咲かせてみせる。

 腕を這い回る灰色のツルに、無数に咲く黒い花。全面に脈打つ黄金色。それを見た組合員たちはぎょっとして、けれど興奮した様子だった。


「ほ、本当に咲かせやがった! しかも魔法じゃねえ、どういう奇跡だ!?」

「はあん……こりゃあたしかに、騎士ヴァロークの後継だなぁ」

「ああ、あの騎士様も妙なお人だった。夜の下で生まれた魔の花を、夜を倒すために見事転用して見せた。亡くなったと聞いたときは、惜しい人を思ったが……」


 ……故ヴァローク氏、そういう感じの扱いだったのか。あんな薬草園を構えて独自の研究をしてたくらいだから、かなりの変人だったのかもしれない。


 それよりなんだか、好感度が一気に回復してきてないか? あのノーム戦で街を守ったからか、あるいはメニーナのご近所付き合いのおかげなのか。


「トビさん、ウーリさん。こちらの失礼はあったが、あなた方が海賊退治を請け負ってくれる……ということで良いのか?」

「ええ、勿論」

「ビルマーから大体のことは聞いてきたんで、あとは詳細な段取りが聞きたいです!」


 貴族らしき老人は、ウーリの言葉にこくりと頷くと、まずは名を名乗った。


「我が名はミラ・コルヴァラン。コルヴァラン侯爵家の末席に預かる者じゃ。この交易組合の代表者と考えてもらって結構……アダン、本件はお前に預ける」


 ……おいおい、侯爵家?

 なぜそんな大貴族が街に降りてきてるんだ──などと考える間もなく、「アダン」と呼ばれた船乗りがミラ老人の言葉に頷く。


 アダンは俺たちの所属に最初に言及した、治安の悪そうな様相の男だ。


「おう、俺が船を出す。アンタら二人を運ぶ、そんで海賊を倒してもらう。分かりやすいだろ?」


 分かりやすいけども。

 他に作戦とかないのか。


「トビさんの装備は今日明日にでも整えますので……どうかよろしくお願い致します」


 ビルマーにもそう背中を押され、とにかく俺たちは〈白魚の海賊団〉撃破のために動き出す。


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― 新着の感想 ―
オープンテスト?が地獄絵図だったのは覚えてるけどβテストに関して言及あったっけ?
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