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FLOWER POT MAN 〜ただ植物を愛でていただけの俺が、なぜか魔王と呼ばれています〜  作者: 卵座
第5章 - Run the Abyss

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055 - 王都ボス巡りRTA②


 引き続き、クラン総出のボス狩りである。


 ここからは王都周りのマップであり、難易度がひとつ上がる。〈雨降らしのメヌエラ〉なんかがこのラインだ。


「精霊泉の隠し森、ここの徘徊型ボス〈ウィンディーネの遣い〉は各地の泉を巡回してたらそのうち見つかる。そういうわけで走って回るよ」

「了解」


 出てくるモンスターもそれなりの強度だが、大抵はシザーとフルルが一瞬で片付けてしまい、俺まで回ってくることはなかなかない。


 まばらな林の中の泉を回っていけば、やがてターゲットに遭遇。


『徘徊型ボス〈ウィンディーネの遣い〉が確認されました』


 泉の上空を浮遊する小さな水球。こいつがボスだ。

 俺たちが近づけば、泉の水はぐにゃりと形を変え、無数の腕となって攻撃してくる。


「ウィンディーネの遣いは周囲の水を自由に操る。決まった形の魔法を使うわけじゃない、かなりアドリブ多めのボスだから気をつけて。プレイヤーの水魔法にも干渉してくるから、メニーナはやることないかも!」

「わ、分かりました……! 迷惑かけないようにしておきます……!」


 メニーナには、HPが危なくなった味方にポーションでも投げてもらおう。それだけでも十分に助かる。


 一方、俺の役目はタンクと迎撃。

 襲ってくる水の腕には切断属性があまり効かない代わりに、打撃属性で水を散らすことが有効。多節棍モードの殺人彗星(キリングハレー)をぶんぶんと振り回し、とにかく味方に近寄らせない。


 なお、今回のメインアタッカーはシザーとフルルだ。


「腕には打撃、本体には切断が効くって不思議なボスですねえ」

「水のヴェールに守られ、打撃では核には届きません。狙うは中央の一点です。それとエンチャントによる属性付与が有効ですね」

「はあい」


 シザーは経験者らしい。

 先導し、フルルと共に攻撃を仕掛ける。


 相変わらずのナイフ捌きと、美しい抜刀術。

 フルルによる闇属性エンチャントの効果もあり、水球の中心を見事に切り裂く斬撃がボスのHPをガンガン削っていく。大きな水魔法はウーリが射撃で散らした。


「"洪水" 来るよ! トビくん、みんなを回収!」

「はいはい!」


 HPを大きく削ると、ウィンディーネの遣いは全方位への "洪水" を起こすようになる。

 木々にツルを撃ち込み、収縮力を利用して空中へと躍り出ると同時、フルルとシザーの身体を巻き取る。


「高い! 速い! 遊園地みたい!」

「トビくん、ありがとうございます」

「どういたしまして。さあ、もう1回行ってこい!」


 泉の水が全方位を薙ぎ払った直後、空中で放り出したふたりはそのまま落下攻撃を仕掛けた。

 空中でも一切ぶれることのないふたりの剣閃──水球の中央を見事に斬り裂く。


『〈ウィンディーネの遣い〉を撃破しました』


「す、すごい……本当にやることなかった……」

「ごめんねメニーナ、暇だったよね」

「い、いえ……鮮やかで、見てて気持ち良かったです……!」


 まぁ、たしかに難易度に対して綺麗にハマったボスだった。

 これはボスが弱いというより、メンツのプレイヤースキルの高さだろう。敵の攻撃に対する迎撃、撃ち落としの精度、百発百中でボスの核を射抜くフルルとシザーの技術が揃った結果だ。


「それにしても、トビくんは攻撃以外も器用にこなすのですね。水鞭への対処、実に見事でした」

「メンデルちゃんの腕力でゴリ押しが利くってだけで、能力的には実はサポートの方が向いてるよね。あちこちにツル伸ばしたりさ」

「まぁそうだな……味方を回収したり、敵を拘束したり。味方に火力が揃ってるならサポート回ったほうがいいのかもな」


 シザーという真正面火力が加わったおかげで、こちらもかなり動きやすい。

 

「よし、このまま封鎖ボスも倒しちゃおうか」


 ウーリのプラン通り、次に行く。




『封鎖型ボス〈エルダー・スパイダー〉が確認されました』


 木々が増え、次第に密林のように変わっていくマップのボスは「デカい蜘蛛」である。それ以上でもそれ以下でもない。

 高所に張り巡らされている無数の糸を伝い、縦横無尽に駆け回って攻撃してくる厄介な相手だ。


「さあ、ここはシザーに頑張ってもらうところだね」

「お任せ下さい」


 弾丸のように射出される糸弾を、シザーの居合いがすっぱりと斬り裂く。


 このエルダー・スパイダーの糸、斬撃によって無効化できる一方、一定以上の斬れ味を持つ武器でなければ逆に糸に絡め取られて使用不可状態になるらしい。かなり厄介だ。

 今回ばかりは殺人彗星(キリングハレー)が全く役に立たないため、月人の処刑(ムーンサイス)を最大限に利用していく。


「シザーは糸の対処、私とメニーナで射撃入れていくよ。トビくんとフルルちゃんは登って密着できる?」

「了解」

「はあい」


 エルダー・スパイダーの位置は常に高所。

 ツルを使ってよじ登れる俺と、何故かステップだけで高所に駆け上がれるフルルがメインアタッカーとなる。


「あ! ウーリさん! こいつ卵産みました!」

「すぐ燃やすよ! 気をつけてねーっ!」


 巨蜘蛛に攻撃を仕掛けながら、後方のウーリたちとも連携。

 こいつは移動すると共に「時間経過で子蜘蛛を発生させる卵」を産み付けるため、発見次第報告……ウーリが火属性エンチャントの射撃で焼却していく。


 卵を攻撃すると、その攻撃者にヘイトが向くため──


「ダメです、こっち向いてください」

「ヘイトちょろいな、こいつ」


 背中を見せた巨蜘蛛を、俺たちが一斉に斬り裂く。

 悲鳴を上げて鋏角をむき出しにし、振り返りざまの噛みつきは刃で弾いて処理。


 そして敵の足が止まれば……


「よし、落とすぞ」

「はあい」


 巨蜘蛛が足場としている糸を、俺とフルルが前後から断ち切る!


「よく落とした二人とも!」


 足場を失い落下する巨蜘蛛。

 落下地点で構えていた3人が一斉に袋叩きにし、俺たちもそれに続く。


 反撃のように巨蜘蛛は腹をせり上げ、網状の糸を広範囲に放とうとするが──


「私の役目ですね」


 ──しんッ! と不思議な風切り音を立てて放たれるシザーの居合い。

 巨大な網は一瞬にして細切れに。剥き出しになったその腹まで、ついでのように横一文字に斬り裂かれている。


「うわあ、神業……トビくん、あの人に勝ったんですねえ……」

「いや、あれちょっとズルだけどな」


 前回のシザー戦は騙し討ちで勝ったに近しい。

 何回かやったら全然負けもあると思います。


 まぁとにかく。


『〈エルダー・スパイダー〉を撃破しました』


 最後に全員でタコ殴りにしてやれば、詰みである。


「ちなみにこいつ、夜間だとどうなるの?」

「子蜘蛛が即座に孵化するようになり、卵を燃やすことでの雑魚潰しが利かなくなります。ただ弱点が炎なのは代わりませんし、代わりに子蜘蛛を倒すことで親のヘイトを取れるようになります」

「なるほど……いや、結構キツいな」


 かなりの混戦になりそうだ。


「ウーリ、次は?」

「徘徊型はこれで終わり。封鎖型をあと2マップ回りたいんだけど……夜まで時間ギリギリだなぁ。トビくん、私たちのこと運べない?」


 ……どうだろう。

 前回のダンジョン探索では2人まで運べたが、さらに倍か。夜属性エンチャントまで入れればいけるか?


 飴玉を噛み、毒の状態異常を延長した上でエンチャント・ノクスを自分にかける。さらに片眼球をメンデルに支配させ、これで精神汚染・状態異常のカウントを3に……全身にツルを這わせ、筋力を最大強化。


「これでもギリギリだから弓はしまってくれる?」

「はいはーい」


 さすがにあの巨大機械弓はインベントリに格納してもらい……ウーリ、メニーナ、フルル、シザーの4人を抱え上げる。

 俺はツルを走らせ、次なるマップを跳び回った。




『封鎖型ボス〈砂駆(すなか)るアスターク〉が確認されました』


 次なるマップは通称「砂塵平原」……砂原とサバンナが入り交じった様な地形のフィールドで、ボスは由来のよく分からない魔獣。

 チーターとか豹とか、ネコ科っぽい雰囲気ではあるが体躯は大きい。きわめて素早く、また砂嵐を起こす魔法を利用する。


「アスタークは砂と陽炎の中に姿を眩ませるけど、私の〈振動感知(クエイクセンス)〉で場所が分かる。方向を言うから、あとは……このメンツなら、攻撃してきた瞬間に反射神経でカウンター決めるだけだね」


 反射ゲーにしない攻略もあるけど、こっちの方が早いから──とウーリは言う。


 出現と同時、砂の竜巻をいくつも放つアスターク。

 さらに嵐の中に隠れるようにして姿をくらませ──ウーリが「右」と言った瞬間、フルルが同じ方向にナイフを振り抜いた。


 鋭い牙とナイフがぶつかり合い、生まれたほんの少しの隙に俺とシザーが斬撃を浴びせる。


「ギャアア──ッ!?」

「たしかに弾けますね。これなら多分出来ます」

「お前、本当に感覚が若いな……」


 反射神経……これだけは、どうやってトレーニングをしても加齢によって低下していく仕方のない要素。10代の若さとセンスを併せ持ったフルルが間違いなく最強だ。


 とにかく隠密からの奇襲はこれで攻略。

 アスタークの武器は、この他にゆっくりと近づいてくる砂竜巻、そして尾に砂の刃を形成、広範囲の薙ぎ払い。


 砂竜巻は上手いこと躱して立ち回りながら、危ないやつはツルで回収。さらに砂の刃については──


「メニーナさん、よろしく」

「は、はい……!」


 嵐の中から飛び出したアスタークの尾に、メニーナが水魔法をぶつける。

 水が染み込み、ややスローになる予備動作。水で濡らすことで、尾の斬撃は高火力の打撃によって相殺できるようになる。


 タイミングを合わせて──棍モードの殺人彗星(キリングハレー)を振り抜く!


「ぎゃうんっ!?」

「よし、トビくんナイスバッティング!」

「この猫ちゃん、おっきいくせにカワイイ声で鳴くんですねえ」


 ぶつかり合い、刃を粉砕する殺人彗星(キリングハレー)

 発生した大きな隙に、全員が一斉に攻撃を畳み掛ける。


 あとはこの繰り返し。


『〈砂駆(すなか)るアスターク〉を撃破しました』


「よし、あと1マップ! 時間ない!」

「行くぞ、早く乗れ!」


 時刻は段々と夕暮れに近付いてきている。

 ボス狩りなんて、本来こんなペースでやるべきではないのだが──あと1マップと言われると回ってしまいたくなるのが効率厨の(さが)である。


 王都にファストトラベルからの、即座に次のマップを駆け抜ける。ちなみに最後のボスと言うのは──


「メヌエラの攻略はあんまり考えてきてません! 既プレイのトビくんに任せる!」

「了解。ドラゴンフライも討伐済みだっけ?」

「ええ、ただ私は不参加だったので初見です。()()()()腐蝕対策はしてきましたので、お気遣いなく」


 そういうわけで、久しぶりのメヌエラ戦だ。

 水の中から現れる巨大なアメフラシ。咆哮と共に腐蝕の雨を降らせる。


 まぁとはいえ、メンバー5人、既プレイ、しかも日中と 負ける要素はひとつもなく──


 ツルを使ってあっという間にその巨体をひっくり返し、皆で弱点に総攻撃を叩き込めば、メヌエラは呆気なく沈んだ。


『〈雨降らしのメヌエラ〉を撃破しました』




 *****



「だあああっ、疲れたーっ! やりきったーっ!」

「お、お疲れ様ですウーリさん……本当に半日で回れちゃいましたね……」


 クランハウスのベッドにダイブし、大の字で転がるウーリ。本当にお疲れ様だ、お前はすごいよ。


 今回のウーリ、フルル、シザーはしっかりスキルスロットを8まで拡張し、メニーナもあと一歩というところ。上出来すぎる成果だ。


「ウーリ、本当にお疲れ様です。本日はご招待いただきありがとうございました。夕食もあるので、私はこのあたりで……」

「あ、ボクも。ご飯食べてきまーす」

「うん、お疲れ。また遊ぼう」


 フルルとシザーはログアウト。


「メニーナさんはいいの?」

「あ、わ、私はこのあと……ご近所の方からお食事のご招待を頂いていて、ですね……」


 ウチのオーナーはNPCとの交友を広げに広げているようです。すごいな。そんなイベントもあるのか。


「トビくん、このあと空いてる?」

「なんだよウーリ、お前は疲れてるんじゃないの」


 ベッドの上から声をかけてくるウーリに答える。


「疲れてるけど、実はこのあと予定入れちゃったんだよね〜……できればトビくんにも同席してほしいなって」

「へえ。相手は?」

「ビルマー」


 おっと。顔見知りか。


「トビくんさぁ、ちょっと前に〈白魚の海賊団〉ってボスにやられてるよね。そいつのリベンジ、行かない?」


 なんだか面白そうな話が降ってきた。




 *****


 

 第5章 - Run the Abyss


 好感度/王都市民:信仰

 好感度/王都交易組合:中立

 好感度/王国騎士団:恐怖


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