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FLOWER POT MAN 〜ただ植物を愛でていただけの俺が、なぜか魔王と呼ばれています〜  作者: 卵座
第4章 - Into the Nocturne

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045 - 月詠みルルーディル


 驚くべきことに、この〈月隠れの神殿〉には徘徊型ボスが3種類もいる。

 通称 "月詠み三姉妹" ──いずれも〈月詠みラナエル〉と同じく「月詠み」の名を冠した人型ボスであり、今回のマップ攻略には彼女らの撃破が必須となる。


 というのも、この "月詠み三姉妹" を放置しておくと、コイツらはボス戦中盤に乱入イベント(・・・・・・)を発生させるらしい。


 ただでさえ強いレイドボスに加えて3体の徘徊型を同時対応……なんてことは到底やっていられないため、まずは三姉妹を速攻で倒し、即座に最終ボスに挑戦する必要がある。これによってイベントを防ぐことができると検証済みだ。


「──っちゅうことじゃから、部隊を2つに分けて短時間での撃破を狙ってく。時間かけすぎると復活すんねん、アイツら。本当なら3部隊に分けたいとこなんやけど、まあ事故率も考えて安全択じゃな」


 4階層へと続く階段前で、皆にそう説明するレッドバルーン。

 とはいえ内容は事前に通達されていた通りなので、この場に取り乱す者は誰もいない。


 レッドバルーンは、自分のクランメンバーのひとりに声をかける。


「どや? 見つかった?」

「ええ。3体とも、大まかな場所は特定できました」

「おう、なら近いとこから行こか。マップ情報、皆に送ったげてや」


 ハイファットエンジンの構成員──索敵係らしい男の腕にぶら下がるのは、今さっき地下から戻ってきたケイブバットだ。なんとテイムモンスターらしい。

 高い機動力とエコーロケーションによる広範囲索敵、高所からの攻撃支援を両立でき、使役コストも少量の血液供給──ゲージ3%程度のHPを与えるだけで済む。使い勝手はかなり良さそうに聞こえる。


 なんというか、メンデルのコストの重さを再認識させられる話だ。


「ピカブ、トビくんたち任せんで。ドラフラは俺らと行こ」

「オーケー。よし、トビくん。おじさんちょっと燃費悪いから、前線がっつり任せちゃうね」

「了解です」


 俺たちとドラゴンフライを分けてくれたのは、まぁ間違いなくレッドバルーンの気遣いだろう。

 とにかくラグドールとオン・ルーを中心としたPEEK A BOOグループに合流。送られてきたマップ情報から、大まかな敵の位置を確認する。


「トビくん。夜属性耐性のポーションは……今じゃなくて、本戦前に皆さんに配ればいいですかね?」

「ああ、それでいいよ」


 どうせ、今渡してもみんな温存するだろうし──とフルルに言いながら、さっそく地下4階層へ。


「さて、皆で足並み揃えて歩くでもいいけど……どうする? トビくん、もし急げるなら先に突っ走って始めちゃってもいいよ」

「……いいんですか? それ」


 事故率を下げるために、この人数を確保したのでは。


「大丈夫、大丈夫。だって君、ラナエルに勝ってるんだから。我々もオン・ルーのスピードを持て余しててね……彼ならキミの速さについていけると思う」


 というか正直、ダラダラ歩いてるほうがターゲットを見失って事故る率高いんだよね──とラグドールは補足する。


「へえ……まぁ、そういうことなら走りますか」

「一緒できるの光栄です。ワン、ワン、ワオーンッ!」


 オン・ルーが遠吠えをすると、その身体が巨大なオオカミへと変貌していく。そこに跨るラグドール。


 よく考えると、俺もメンデルによる "変身" を使えば、2人か3人までは運べるはずだ。真似させてもらおう。

 そういうわけで、全身にメンデルのツルを纏わせ、夜の炎による強化も上乗せする。


「おお、噂の魔王モード完全体……!」

「トビさん、顔怖っ!」


 そういえば、ノーム戦では完全な変身は見せなかったか……いや、だとしても魔王ってなんだよ。


 さて、ウーリ、シザーは連れていくとして……練習中のタカツキも混ぜてやりたいな。


「おお、トビくんに乗せてもらうのドレヴァロ戦以来!」

「失礼します、トビくん。重くないですか?」


 両肩に背負うウーリとシザー。

 シートベルトのようにツルで腰を括り付ける。


「あの、なんで俺がお姫様抱っこなんすか……?」

「お前が一番軽いから」

「えっ……?」


 ウーリの抱える巨大弓に、シザーの刀も結構な重さだ。最終的にタカツキが一番軽いという不思議現象が起きている。

 ついでに言うと、加速時に一番振り落とされそうなのもタカツキなので……まぁ安全面も考えて。


「トビくん、ボクは!?」

「お前は自力で追いつけるだろ」

「まぁ、そうですけど……ウーリさん! トビくんがさっきからボクに冷たいです!」


 ウーリに頼るな。

 お前は自分の喧嘩っ早さを反省しなさい。


 むうと膨れるフルルを置いたまま、俺とオン・ルーは同時に飛び出した。


 ツルを射出し、壁に撃ち込み──収縮力を利用して急加速。この繰り返し。宙を飛び回るように通路を駆ける。


「なんか前より速くなってる! 風が気持ちいいーっ!」

「ランタンの強化分が乗ってるからな」

「こ、これは確かにすごいですね……すみません、少し掴まります」

「ああ、いいよ」


 もう慣れっ子なウーリに対して、若干ビビっているシザーはぎゅうと俺の頭にしがみつく。タカツキは「うおおおっ!?」と悲鳴を上げていた。大丈夫、お前は俺が守る。


 一方、オン・ルーのスピードも負けていない……というか「まだまだギアは上げられるが俺に合わせてくれている」という様子の並走だ。獣化スキルとやら、相当速いな。


「トビくん、そろそろマップの地点です。感知スキルはありますか?」

「俺はない。ウーリが代わりに持ってる」

「任せて、ちゃんと見てるよ」


 俺たちが担当するボスは〈月詠みルルーディル〉──ラナエル同様の暗殺者スタイルのボスで、初撃を防ぐには高い感知スキルが必須になる。

 高い体温を持つ人型ボスなので、中でもウーリの〈熱源感知(サーモセンス)〉は特に相性が良い。


「あ、今見えた! 後ろから来てる!」

「了解!」


 俺には未だ、その姿は見えない。

 だがウーリの合図と同時に、多節棍化した殺人彗星(キリングハレー)を展開──ぶんぶんと風を斬る棍の高速回転が、何かを「キンッ!」と弾いた。


 刃を弾かれ、後ろに飛び退いた月詠みの姿がようやく見えるようになる。



『徘徊型ボス〈月詠みルルーディル〉が確認されました』



「よし、見つけた」


 その外見はラナエルとほぼ同じ、黒ローブを深く被った女性型。

 ただし得物は双剣ではなく、ラナエルよりもやや大振りな片手剣。加えてもう片手にクナイのような飛び道具をいくつも構える。


 そして直後──剣閃がぶつかり合った。

 ルルーディルの振るう剣筋と、それを相殺するように放たれたシザー・リーの抜刀術。


「はじめましょう」

「ようし、ではおじさんの魔法をみんなに分けてあげよう。エンチャント・フレイム・アクア・ウィンド・アース・サンダー・ライト・ダーク」


 ──!?


 ラグドールによってばらまかれるバフ魔法の数々。

 それは武器に、あるいは全身に及び、色も効果もぐちゃぐちゃに混ざってよく分からない……というかこの人、スロットに魔法スキルしか入れてないのかよ!


「ありがとうございます、刀が軽くなりました」


 バフがかかった瞬間、鍔迫り合いのパワーバランスは一気に崩れ、シザーの方に軍配が上がった。

 ルルーディルは跳ねるように後退し、同時に空中で無数のクナイを散らす。


「いい飛び道具だな。タカツキ、あれがお手本」

「さすがにハードル高いっす!」

「うん、まぁだよね」


 さすがにボスの動きを完コピしろとかは言いません。

 多節棍を回転させ、クナイを弾く。自分とウーリを守りながら、スタミナ温存のために変身を解除──同時に距離を詰める。


 振り抜いた棍はするりと躱されるが、同時に放たれるのはウーリの矢。杭のような金属矢をルルーディルは剣芯で受け──


「残念、そいつは避けるのが正解だ」


 ──ルルーディルは、体幹を一気に崩された。

 ドゴンッ! と強烈な衝突音が轟き、その半身が仰け反る。


 ウーリの射撃は決して受けてはならない。あの巨大ノームさえ数発で仰け反らせた大砲だ。そして──


「タカツキくん今! 」

「タカツキ! こういうときは両手でいいぞ!」

「タカツキさん、何かあってもフォローするので恐れずに」

「う、うっす……!」


 ──もはやタカツキの訓練が主目的となりつつあるこのボス戦。俺の友達はみんな面倒見が良いのだ。


 大きくよろめいたルルーディルの懐に潜り込み、胴を切り裂くタカツキの一閃。さらにその首元をオン・ルーが噛み千切る。


「バウッ!」

「おお、大ダメージ」


 さらに追撃を加えよう──としたところで、ウーリが叫んだ。


「タカツキくん回収して! トビくん!」

「…………ッ!」


 ウーリの目でしか判断できないもの……それは温度の変化。

 ドレ=ヴァローク戦での火炎放射を思い出し、俺はツルでタカツキを巻き取る。


 咄嗟に引き寄せ、距離を取らせた瞬間──ごうと炎が燃え盛った。


「うおおっ!?」

「ワオーンッ!?」


 夜の魔力が混じった黒い炎。

 ラナエルが風と夜の混成魔法を使ったように、ルルーディルの属性は炎と夜だ。タカツキの退避は間一髪で間に合い、オン・ルーに引火した炎もラグドールが水魔法で消化している。


 ルルーディルは片手剣とクナイに黒い炎を纏わせ──


「えいっ」

「────ッ!?」


 ──瞬間、フルルの足払い(・・・)に引っ掛けられた。


 相変わらず、気配のひとつもない最上級の隠密だ。

 器用に足元を崩し、同時に背中にナイフをぐさりと突き立てルルーディルの体勢を崩すフルル。


 ルルーディルは転倒と同時に片手剣を背後へ振り抜くが──その手首を鞭と化した殺人彗星(キリングハレー)が絡め取り、そのまま地面の上を引き摺り回す。


「フルル、早かったな」

「はい! トビくんに走らされました!」


 ごめんって。


「それと、前後からスケルトン来てます。前方はボクが何体か倒しておきましたけど、対処した方がイイです」

「ありがと! 後ろを私とフルルちゃん、前をルーくんで行こうか」

「はあい」

「ワン! ワン! ワン!」


 ウーリの手早い割り振りで、それぞれがスケルトンの対処へと駆けていく。

 つまりルルーディルの対処は俺、シザー、タカツキ、ラグドール。


「な、なんで俺がボス戦を……!?」

「せっかくの人型だ、ここで経験値にしとこう」

「先程は良い剣筋でした。大丈夫ですよ」

「そうそう、君だってラナエルを倒してるわけだから」


 ルーキーの背中を押す優しいプロたち。

 なんて贅沢な授業なんだ──などと思いながら、鞭で絡めとって引き寄せたルルーディルへと振り抜く足先。月人の処刑(ムーンサイス)を展開し、刃と刃がぶつかり合う。


 キンッ! キンッ! キンッ! とリズム良く刃を交差した直後、その隙間を縫って放たれるシザーの居合術。

 目にも止まらぬ速度の抜刀が、残像としてのみ捉えられる刃をその場に置き、ルルーディルの肩口をばっさりと切り裂く。


「うおおおっ! 俺だってやったるわァ!」


 いよいよ覚悟を決めたらしいタカツキによる追撃。

 踏み込むと同時に長剣を縦に振り下ろすが、ルルーディルはそれを片手剣で受け流す。そして──


「タカツキ! 投げナイフを避けるには!」

「──ッ! 読めば避けれる(・・・・・・・)ッ!」


 ──ルルーディルが背に隠した片手に、妙な動き。

 そして直後、手首のスナップだけで放たれた無数のクナイを──タカツキは身体を逸らして躱した。


「よーし! ナイス!」

「ッしゃあ!」


 しっかりとクナイを躱しきったタカツキは、今度こそ剣閃を命中させる。

 一方、近寄った俺たちを焼き尽くそうと炎を膨らませるルルーディルだが……


「待たせたね。メイル・シュトロームッ!」


 その炎をかき消し、さらにルルーディルの身体を貫く巨大な渦潮の槍(・・・・)が放たれた。


 炎に特攻を持つ、水の魔法。

 ルルーディルの身体は跳ねるように浮き上がり、そこにタカツキの剣撃が再び突き刺さる。


 俺もまた地面を跳ねるように蹴り出し、遠心力をかけて振り抜く一撃を左から──そして右からはシザーの剣閃が挟み撃つ。

 前後左右から叩き込まれる猛攻に、ルルーディルの身体は無数の青い粒子を散らす。


「タカツキくん。斬り込みは超イイけど、終わり際がちょい雑だねえ」

「す、すんませんッ!」

「ああ、いや責めてるわけじゃなくて……ふむ。おじさんも白兵戦あんまり上手くないんだけど、どう説明しようかな」

「いわゆる "残心" というやつですね。タカツキさん、このゲームの武術スキルは攻撃軌道こそ自動補正してくれますが、攻撃後の動きは己で覚える他ありません。これが終わったら、私の映像ログをいくつか送付しておきます」

「あ、あざーっす!?」


 本当に贅沢だなお前!

 なんて手厚いレクチャーなんだ。

 

 と、まぁそれはさておき──かなり良いダメージ。

 しかしながら、敵も徘徊型ボス。ただで倒れてはくれない。


 その一瞬、ルルーディルの姿がぶれたと思えば掻き消えた。この場合、ヤツが現れる先は──


「誰かの背後、だっけか」


 全員が一斉に、各々の攻撃を自分の後方へとフルスイング。ヒットしたのは──


「おっ! おじさんかぁ。最後にヘイト稼いじゃったかな?」

「────ッ!」


 ──地面から発生した水の槍が、ラグドールの背後に出現したルルーディルの身体を再び貫く。

 一方ルルーディルの方も、その身に黒い炎を滾らせ、ごうと放つが──ここは俺の出番だ。


苔生す揺籃(クレイドル)


 ミズゴケを纏わせたツルを無数に走らせ、ラグドールとルルーディルの間を隔てるように壁を形成。咲き乱れたノックスリリィが夜属性を吸収、ミズゴケは炎属性を軽減する。


「うん、トビくんありがとう! 今のは当たったら死んでたかもしれない!」

「どういたしまして」


 そしてツルによる壁の役割は、ラグドールを守ることだけではない。


 目眩し。

 未だルルーディルは気付かない。ツルを隔てた向こうで刀を構える、もうひとりのプレイヤーの存在に。


「よく見てろよタカツキ、これが現代日本競技シーン(・・・・・・・・・)において最も速い(・・・・)抜刀術だ」


 ──まぁ、見ようとしても見えないかもしれないが。


 ちゃきん──と小さな音が鳴った。

 それは鞘から刀を滑らせ、引き抜き、そして納刀(・・)するまでの一連の動作──すなわちシザー・リーの居合術(・・・)


 その直後、ツルの壁は斬り裂かれ──

 壁の向こうにいたルルーディルの身体もまた、すっぱりと斬り裂かれていた。


 肩から腰までを斜めに両断されたその身体が、ふたつに崩れながら消えていく。



『〈月詠みルルーディル〉を撃破しました』



 ああ、綺麗だ。そして懐かしい。

 数年前よりさらに研ぎ澄まされている。


「シザー」

「なんでしょう」

「俺、やっぱりお前が大好きだ」

「……は、はい!?」


 シザー・リーという芸術品のような友人を、俺は心の底から敬愛する。


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― 新着の感想 ―
 そりゃあ……は、はい~っ!?……になるわな。たぶん、口に出たより内心の方がもっと吃驚している。
言い方ァ!www
これはアカン。一回くらいならフルルに刺されてもいいかもしれない。女性陣が許可する
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