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FLOWER POT MAN 〜ただ植物を愛でていただけの俺が、なぜか魔王と呼ばれています〜  作者: 卵座
第4章 - Into the Nocturne

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040 - メンデルの飢餓と痴女三人衆


 その日、俺は久しぶりにマップへ出ていた。


 当然ソロだ。

 メニーナやフルルはそもそもマップ攻略に興味がないし、ウーリも「最近配信サボりすぎ!」と言って自分の活動に集中している。


 そういうわけで、やってきたのは湿地帯を抜けた先「無法者の海岸」である。


 ボス踏破をするつもりはないが、せっかくメヌエラを倒したのだから散策がてらに。

 ここは名前の通りの海岸マップで、これまでと違うのは周りに木々がないこと。つまりメンデルのツルを使った高速移動が使いにくく、武器の扱いを鍛えるのにちょうど良いだろう。未踏破マップなので時間帯は常に夜だ。


「足場は前よりマシだな」


 あの湿地帯はどこに底なし沼が潜んでいるか分かったものではない濁り具合だったが、このマップは水が透明で深さが分かりやすい。また砂でしっかりと固められた足場もところどころにある。


「まぁ、砂を踏み込む感触には慣れないといけないけど……」


 慣れが必要なのはどこのマップも一緒だ。問題ない。

 


 見晴らしの良い海岸沿いを歩いていれば、やがてモンスターにエンカウントする。


 最初に目を引いたのは、揺れる無数の触手だった。

 ピンクやオレンジの入り交じるカラフルな触手を生やした下半身に、膨れた腹と滑らかな半透明のボディ。上半身は透けた女性の姿で、頭部にも同じ触手を蠢かせている。


 ──メデューサ?

 だがヘビじゃない、イソギンチャクだ!


「イソギンチャクメデューサ……いきなり変わり種すぎる……!」


 身構えると同時、複数の触手が一斉に伸びてくる。

 後方へと跳び退けば、地面に叩きつけられた触手が薙ぎ払われ、あたりに砂煙を撒き散らした。


 こちらからも仕掛ける。

 ツルによって脚部の筋肉を増強──跳ぶようにして距離を詰めながら、ヘイロウを組み立てて装甲の強化と殺人彗星(キリングハレー)を装備。300と700はいつものスタンダードな配分だ。


 棍による殴打──

 そして振り抜いた殺人彗星(キリングハレー)を多節棍モードに変形し、即座に切り返すような鞭打ち。


 二撃の強烈な打撃が「──パンッ!」と銃声めいた衝撃波を生む……が、どうにも手応えは浅い。


「こいつ、物理耐性持ちか……?」


 ぐにゃぐにゃと柔らかく、弾性を持つイソギンチャクの身体だ。打撃の通りが浅い。


 直後、下半身の触手が反応。無数の触手が低空を滑るように迫り、また同時に宙に浮かぶ無数の水球──水魔法だ。


蓮の傘(ロータス)


 水弾はスイレンの盾で弾き、触手は跳び上がって躱す。

 それでも高所まで追ってくる数本の触手は暗器靴〈月人の処刑(ムーンサイス)〉を展開し、足先の刃で切断。


 よし、切断は良く通る、が──


「げっ、刺さった」


 つま先立ちで着地すれば、濡れた砂の地面に突き刺さる刃。そりゃそうだ!

 さらに追撃してくる触手は殺人彗星(キリングハレー)を高速回転させることで追い払いながら、メンデルのツルを周囲に這わせる。


「メンデル、硬い足場を探してくれ……!」


 無数のツルが周囲の浜を撫で、この足先でも十分な着地が出来そうな地点──たとえば岩や石の埋まった地面を探索する。そしていくつかの地点に「ぽこんっ!」と咲く花。おそらく花の咲いた地点が足場だ!


「ナイスサーチ!」


 触手の猛攻を必死に躱しながら、花の咲いた一点へと着地。

 突き立てた足先の刃が「かんッ!」と甲高い音を鳴らし、直下に岩が埋まった感触を確かめる。


 そしてそのまま、着地の勢いを利用して再跳躍──急加速して距離を詰めれば、イソギンチャク女は驚いたように触手を防御へと回す。


「そいつを斬れることは分かってる」


 跳躍の勢いをそのまま乗せた蹴り技が、顔前を守る触手を一刀両断。そして20cm近い刃渡りは、容易にその顔面まで到達した。女の顔を斜めに撫で斬る。


「ぴぎゃっ──!?」


 はじめて悲鳴らしい悲鳴。

 同時に棍を地面に突き立て、棒高跳びの要領でその場を飛び退く。


 棒としての役目が済めば、殺人彗星(キリングハレー)は再び多節棍へと変形──すれ違いざまの三連打。首、背中、腰への鞭打ちが強烈な破裂音とともにイソギンチャク女を吹き飛ばす。

 

 花の咲いた足場へと着地。

 無論、体勢を崩したならそれだけでは終わらせない。


「もう一回」

「ぴぎぎッ!?」


 射出したメンデルのツルがその細い首を絡め取り、収縮。

 体幹の筋肉を一時的に超強化しながら、身体ごとひねるようにして思いっきりツルを引く。勢いよく引き寄せられるその身体を──


「──斬る!」

「────ッ!?」


 振り抜いた足先が、その首をすっぱりと切り落とす。イソギンチャク女は青い粒子となって消えていった。


「ふう。結構強いな」


 もう序盤のマップではないのだから当然だが、高い打撃耐性、それに魔法と触手の同時展開にはひやっとさせられた。

 一方、斬れ味の良い切断武器さえあれば対応しやすい相手でもある。相性のはっきりしたモンスターだ。



 その後も海岸を散策。

 夜の海というのはなかなか景観がよく、魚の骨や貝殻なんかも拾える。こういうのもたしか肥料になるはずだし……きれいなものは、インテリアなんかにどうだろうか。女子組と相談だ。

 

 他のモンスターは、たとえば海辺の泥で出来たゴーレムだったり、口の中に鉄砲魚を飼っているペリカンだったり、なかなか厄介なラインナップ。特にゴーレムの方はスタミナ吸収ができないので苦手だ。


 海の中にも魚型モンスターがいる気配はあるが……


「さすがに海中探索はまだ先かなぁ」


 塩は排出できるとはいえ、さすがに海に潜るのはメンデルが可哀想だ。このマップのボスはおそらく海の向こうにいるのだろうし、挑む予定もなし。今日は十分散策を楽しんだので、次からは他のマップを──



 ──と、考えたそのとき。

 何かが飛来した。



 暗闇の向こう、遠い海の先から聞こえた破裂音と、次いで飛来物。

 物凄い勢いで砂浜に叩きつけられた巨大な鉄球状(・・・・・・)のそれは──オレンジ色の炎を上げて爆発した。


「──ッ!?」

 

 地面が揺れ、爆ぜる音が耳を裂く。

 俺の身体は反応もできずに吹き飛ばされ、そのまま砂浜をごろごろと転がる。


 なんだ? まさか爆弾──いや、砲撃?

 そして立ち上がろうとしたとき、俺は自分の身体の異常に気付く。


「げっ、腕がもっていかれた……」


 肩から先の消えた右腕。

 その断面からは出血代わりに青白い粒子の煙が立ち昇っている。


 だが息を整える前に、次の着弾音。

 火炎を撒き散らし、爆風が砂を吹き上げる。


「まずいだろ、これ……!」


 俺は咄嗟にツルを射出し、遠くの地面に撃ち込む。自分の身体を引き摺るように横に滑り込み、そのまま岩陰に隠れて身体を小さく丸めた。


 間違いなく砲撃だ。

 海の向こうは相変わらずの夜闇で、そこに何がいるのかは依然不明──しかし、ログだけは嘘をつかなかった。


 

封鎖型(・・・)ボス〈白魚(しらうお)海賊団(かいぞくだん)〉が確認されました』


 

 ──海賊団?


「まさか海賊船か? しかも封鎖型ボス……!?」


 封鎖型が、ボスエリアの中からこの距離まで砲撃を飛ばしてきてるってこと……? そんなのアリか!?


 いや、とにかく今はここから脱出することだ。

 回復ポーションを飲み干し、HPを補充。スタミナも十分。再び砲弾が砂浜に落下し、的はずれな場所に爆炎を撒き散らしたその瞬間を狙って、俺は駆け出す。


 けれどその中腹で──俺の身体は、転んだ。


「あれっ?」


 俺の身体は、砂浜の上を再びごろごろと転がる。

 立ち上がろうとして、それもできない。足どころか腕も動かない。


 スタミナ切れ? いや、違う。

 これは以前もクランハウスで起こった、謎の行動不能状態だ。あのときは夜の魔力をメンデルに与えることで行動不能が治ったが──


「ひ、火を灯せ、ドレ=ヴァ──」


 ──俺がそう呼びかけるよりも前に、砲弾は飛来した。

 海の向こうからの発砲音から少しの間をおいて、転がる俺を精密に狙った射撃。


 あ、これ無理だ。

 そう思った直後──俺の視界は、オレンジ色の爆炎に包まれた。



 久々の死に戻りである。




 *****



 まぁ、さすがに無理ゲーというか、初見殺しというか……元より挑む予定のなかったボスだ。名前と性質を確認できただけでも良かったものとしよう。

 

 それよりも、謎の行動不能状態……というか、おそらくメンデルがスタミナだけでなく夜の魔力に対しても飢餓状態を発現するようになってしまった、という現状の方が問題である。

 1回ならまだしも、こう2回と続くなら偶然ではない。


 少なくとも今の時点では、「ドレ=ヴァロークの灯火」を常に灯し続けたほうがいいかもしれない。クールタイムの管理がちょっと面倒だけど……まぁ、この問題が解決するまでは、だな。

 

 そんな思考を巡らせながら、やがて視界の暗転が晴れる。

 俺はクランハウスの寝室へと転送され──


「あ、トビくん。死に戻り?」

「……は?」


 ──ベッドの上では、3人娘が脱いでいた(・・・・・)

 

 

 このゲームは脱げる(・・・)

 もちろん公の場では出来ないが、クランハウスのような個人の私室であれば脱衣が可能だ。


 フルルは下着同然のインナー1枚。ウーリとメニーナに至っては布切れひとつ身につけていない。


「な、っにしてんのお前ら……!?」

「ナニってお着替えだよ。ふたりが新しい装備仕立てたいっていうからさ。突撃してきたのはトビくんじゃん」

「そうですよう。それにしても珍しいですねえ、死に戻り」

「あ、あの……あんまり気にしないで、だ、大丈夫なので……」


 俺の問題じゃねえよ。

 お前らが気にしなさいよ、痴女3名。


 あとメニーナ、俺は今日からお前をまとも枠としては見做さないからな。


「き、着替えって……そこまで脱ぐ必要ないだろ」

「いやあ、メニーナがあまりにデカい(・・・)から実物が気になっちゃって。リアルスキャンからサイズいじってないんだって」


 そう指摘されたメニーナ本人は、ベッドの上に座り、恥ずかしそうにしながらも背は向けない。

 片腕だけでかろうじて先端の膨らみを隠しているが──その肉は到底腕の中に収まりきらず、むにゅと変形してこぼれた肉感がサイズをより強調してしまっている。


 ……リアルでこれなの? 嘘だろ?


 いや、そもそもメニーナが規格外なだけで、ウーリやフルルも十分以上にデカい。特にフルル、お前だけは中身通りのクソガキ体型であってくれよ。


「ウーリ、お前はせめて隠すくらいはしろ。そして全員服を着ろ」

「なんだよ、眼福だろ?」


 本当に全部見えてんだよ。

 フルルとメニーナは渋々と装備を着用し、ウーリは最後に嫌がらせのように「たぽんッ♥」と上半身を揺らして見せてから皆に倣った。最悪である。

 

 ようやくシャツを羽織ったウーリは、耳元に寄ってぽそぽそと言う。


イライラ(・・・・)しちゃったら言えよ? 処理(・・)してあげるからさ」

 

 そろそろいい加減にしとけよ、お前。

 思いっきり枕を投げつけ、「ぎゃっ!?」という悲鳴を無視して俺はベッドにダイブした。不貞寝である。疲弊した、この一瞬で。


 さて、メンデルのことを考えるのに集中しよう。


 ……ちなみに未成年はインナーから先は脱げないし、他人の裸もインナーを着用しているように見えるそうです。当たり前ですね。



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― 新着の感想 ―
メンデルの前であられもない格好してると嫉妬して蔓で体締め上げるかもしれないんで勘弁してやってくださいな
メニーナを今後豊穣の女神と呼ぼう……3人の中で豊かな実りが1番だし 薄々おもってたけど死に戻りしてもテイムモンスターはそのままの扱いなんだね。まあ流石にゲーム的にそのまま消滅なんてなったら運営が非難…
うーん、死に戻ったあんたが悪い!wwwwwwwwwwwwwwwwww
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