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FLOWER POT MAN 〜ただ植物を愛でていただけの俺が、なぜか魔王と呼ばれています〜  作者: 卵座
閑話:競技シーンについて勉強しよう!

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039 - 閑話:競技シーンについて勉強しよう!

「MMOで競技シーンってどういうこと?」という疑問に答える短い解説回です。読み飛ばしても問題ありません。明日から通常通りの更新に戻ります。


 その日は、ウーリもフルルもまだログインしていない早い時間だった。

 早朝からクランハウスの手入れをしていたメニーナは、俺に気付くと寄ってくる。


「あ、トビくん……おはようございます」


 メニーナの距離は、以前よりも近くなった。

 挨拶を交わしながら、自然と手をにぎにぎと握り、指を絡める。


 その様子はよく懐いた小動物のよう──

 といえば可愛らしいが、実際にはメニーナの背丈は俺より10cm以上高いので、その視線はじっと俺を見下ろし……さらにこの距離感では「ぶるんっ♥」と重たげな胸部装甲が目の前にせり出してくるわけなので、こちらとしては気が気ではない。


 ちなみにこのメニーナさんは、密かにファンが増えつつあるとウーリから聞いている。大勢の小人ノームたちを連れて戦っていたところ、今回でばっちり見られてしまったからなぁ。


「あ、あの……トビくん………」

「えっ、ああ、ごめん。なに?」


 ぼうっとしていれば、メニーナがおそるおそると言う。


「もしよかったら……トビくんとメンデルちゃんを、描かせてもらえませんか?」

「え?」


 絵のモデルです──とメニーナは言った。




 *****



 今までも何度かリアルの話をすることはあったのだが、改めて聞くとメニーナさんは美大生らしい。ただし休学中。このゲームも休憩がてら、ということだ。


 俺はメニーナに言われるまま、特に気張ることもなく椅子に腰掛け、メンデルを咲かせる。

 

 声をかければ、特別な指示を出さずとも顔をぶちぶちと突き破って一面に花を咲かせ、ずるりと数本のツルを垂らすメンデル。こいつもメニーナのことは結構気に入ってる気がする。


 そんな俺たちの様子を、メニーナはキャンパスと絵の具を使って写し取っていく。


「あの、と、トビくんは……元々プロの人、だったんですか?」


 雑談のきっかけはメニーナの一言だった。

 メニーナのお絵描きに付き合う間、のんびりとしたペースで会話がはじまる。


「うーん、まぁプロというか、その卵というか……セミプロ? 色んなところから支援はもらってたけど、正式なライセンス契約はなかったね」

「やめちゃったんですか?」

「うん、やめた。人間関係がゴタゴタしちゃって」


 概ね事実である。


「ウーリさんやフルルちゃんからも、たまにそういうお話を聞くんですけど、私あんまり分かってなくて……そもそもMMO? の競技シーン? っていうのは特殊……なんですか……?」


 すごい。疑問符だらけのセリフだ。

 色々と分からない単語があります、という感じなので、俺はひとつひとつ答える。


「MMORPGっていうのは、今俺たちがやってるデイブレみたいなゲームね。マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロールプレイングゲーム……覚えなくていいけど、まぁみんなでひとつのRPG世界を冒険しましょうねってゲーム」

「ふむ、なるほど……?」

「競技シーンは、デカいVRスポーツの大会みたいなことだと思って」

 

 厳密には色々あるんだが、このあたりの定義はゲームタイトルによって違ったりもするので難しいのだ。割愛。


「で、まぁ今でこそMMOの競技シーンは盛り上がってるけど、少し前までは全然違ったんだよ」

「……どうしてですか?」

「MMOって “育てる” ゲームなの。時間かけてレベル上げたり、装備を集めたり、キャラの強さがそのまま勝敗に直結するタイプ。だから技術っていうより、プレイ時間と課金が重要なジャンルだった」

「ええと……上手い下手が関係なかったってことですか?」

「そう。PvPコンテンツも "相手よりスペックが高ければ勝てる" みたいな感じ。だから競技向きじゃなかった」


 競技シーンといえば、やはりFPS、格ゲー、MOBAなんかの「プレイヤーの戦術やテクニックがそのまま勝敗に直結する」ジャンルが昔から強い。俺やウーリもFPS畑出身だ。

 レッドバルーンや〈PEEK A BOO〉のオーナーも、たしか元々MOBAの人だったかな。あの人たちは何をやらせてもプロレベルに仕上げてくる適応力の怪物みたいなプレイヤーなので、あまり参考にはならないけど。


 メニーナは説明を噛み砕いて頷いたが、すぐに首を傾げる。


「……じ、じゃあどうして……今はあちこちで大会が?」

「うん。理由は単純で、プロゲーマーが “広告” として強くなったから。昔で言うサッカー選手や野球選手みたいに、消費者やチームスポンサーへの影響力が無視できないくらい大きくなって、MMOの運営側もその人気にあやかりたくなったわけだ」

「つまり……MMOの方から競技シーンに歩み寄った、ってことですか?」

「そんな感じ。具体的には、競技化を見据えてゲームシステムを “技術重視” に寄せるMMOタイトルが増えてきた」


 メニーナが首を傾げるので、具体例をあげて続ける。


「たとえばデイブレで顕著なところとしては、能力値の概念がない。種族による性能差くらいで、あとはどのキャラも肉体条件が一緒。経験値を稼いでスキルをどれだけたくさん取得しても、最終的にはスロット数が限られる」

「た、たしかに……経験値の差が出にくいですね」

「うん。これは俺の想像だけど……もし今後デイブレで大会が開かれるってことになったら、大会中はスロットスキル入れ替え不可・スロット数は同条件に固定・持ち込めるアイテムの価値もAIが数値化して同条件に固定、みたいなレギュレーションで戦うことになるんじゃないかな」

「な、なるほど……!」


 まぁ実際には、未発見データの存在やスキル熟練度などといった多少の誤差は発生するが……このくらいのアンフェアはむしろギャラリーの好むところで、現代MMO競技シーンの "らしさ" でもある。


「まぁ “競技向けに調整されたMMO” ってジャンル自体、ここ10年の間に登場した新ジャンルだから……みんな手探りだけどね」

「本当に今が黎明期なんですね……」

「うん、まさに。ちょうどこの前いっしょに戦ったハイファットエンジンやPEEK A BOOなんかは、最初期のMMO競技シーンを開拓したパイオニアチームだよ」

「そ、そんなにすごい人たちだったんだ……!」


 そうなんです。超古参なんです。

 レッドバルーンなんて、リアルはもう40代近いか? あの年齢の衰えた反射神経、かつアクション要素の少ないMOBA出身のプレイヤーが未だゲームジャンルを跨いだ前線を張り続けているというのは、本当に化け物みたいな偉業なのだ。


 ちなみに、そもそも複数のゲームを跨いでプロ稼業をこなすプレイヤー自体かなり少数派。大抵のプレイヤーはひとつのゲームに骨を埋める覚悟でプロを目指す。

 たとえば最近では〈PEEK A BOO〉がデイブレ部門のチームを立ち上げたという話だが、この場合も新たにスカウトした「デイブレ専門のプロ志望プレイヤー」を中心にチームを編成しているはずだ。ほとんどの事務所は、複数のゲームタイトルに対してそれぞれの専門チームを抱えている。


「と、トビくんなんて、またスカウトが来ててもおかしくなさそうですけど……」

「あー、どうだろう。当時の連絡用アカウント、入れなくなっちゃって見てないんだよな」

「ええ……?」

「寝惚けてパスワード誤入力しまくってたら締め出されちゃって」

「なにしてるんですか……」


 メニーナは呆れたように言う。

 いえ、本当に。おっしゃる通り。大人しく生体認証にしておけばよかったと後悔しております。


「それにしても、なんで急に俺やメンデルなんて描きたくなったの?」

「ああ、それは……実は最近、このあたりの住人さんたちとお話することが多くて。趣味で絵を描いているってお話をしたら、ぜひノックスリリィの絵が欲しいと」


 ……メニーナさん、ご近所付き合いみたいなことまで始めてる? どれだけNPCとの交流を広げれば気が済むんだ。


「ただ花を描いても良かったんですけど……と、トビくんとメンデルちゃんの方が、可愛いですし……」

「あ、ああ……そう……」


 メニーナに可愛いと言われると、以前の記憶が蘇って何だかぞわぞわとするが……まぁ、メニーナが楽しいならよしとするか。


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― 新着の感想 ―
かわいいかな……? かわいいかも……?? しかし需要あるなら絵は売れそうだけど数がな……浮世絵みたいに版画で出来ないかな? 3か4色で作れ――あ、これ偶像崇拝だわ。
全身が植物に侵食された異形が可愛いのか……?
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