038 - えっちなことをしてあげよう実践編/エピローグ
その後の話。
王都の一角がめちゃくちゃになった大事ということで、いろいろと面倒な後処理はあったものの……ひとまずリザルト確認からだ。
まず経験値。これがもう莫大だ。
新しいスキルを3つでも4つでも取得できそうなくらいに潤沢だが、それよりもスキルスロットを拡張できるようになっていた。ということでスロット数を+1しておく。
今までのボス討伐数的には、ボスを2体倒して+1、6体倒して+2か? 法則性の見出しにくい増え方だが、次の拡張は最低10体、あるいはそれ以上という感じだろう。先は長そうだ。
加えてもうふたつ、熟練度の溜まったスキルもある。
『スキル熟練度が規定値を超過しました』
『〈滋養強壮〉および〈休息〉を統合進化させることができます』
『〈軽業〉を進化させることができます』
朗報、さらにスタミナ強化!
〈休息〉は静止状態でHPとMPが徐々に回復していくスキル。戦闘後やノックスリリィ量産中、復興作業の合間なんかに実はちまちま使っていたので、今回でようやくといったところか。〈滋養強壮〉はもっと前からカンストしていたような気がしなくもない。
前回同様、統合進化は選択肢がなかったので即決だ。
〈劇薬覚醒〉
特殊な薬水の体内合成によって肉体と精神の覚醒を促す高位統合スキル。
常に高エネルギー状態を維持し、より強力なスタミナ増加、静止時のHP/MP/スタミナ回復効果を獲得する。また睡眠と気絶に対して強い耐性を獲得する。
……なんか危ない感じのスキルになってない? 合法なやつだよね?
というのはまぁ冗談としても、「特殊な薬水の体内合成」という要素は一体どこから来たのだろう。〈滋養強壮〉と〈休息〉、どちらも薬関係のデータではないわけだし……
もしかして、ただスキルの熟練度を上げることだけでなく、さまざまな薬草やポーションに触れた経験がスキル進化の必要条件に含まれている──なんてこともあるのだろうか?
「だとしたら、どれだけ分岐があるんだ……?」
すべてのスキルが発見されるまで、余裕で1年以上かかってもおかしくないレベルの作り込みだ。
まぁそれはさておき、〈軽業〉は3派生。
〈浮雲歩き〉
空中を踏みつけ、再跳躍することができる。ただし使用のたびにMPを消費する。空中姿勢制御の能力は失われる。
〈嵐雲渡り〉
空中姿勢の制御に加え、跳躍時の移動速度、空中攻撃の威力を強化する。また風圧・気流の影響を軽減する。
〈脱兎の如く〉
空中姿勢の制御に加え、後方跳躍時の移動速度を大きく強化する。また跳躍回避時にわずかな無敵時間が発生する。
「〈浮雲歩き〉はユニークだけど……」
ツルを使った移動ができる以上、2段ジャンプや3段ジャンプはそこまで魅力には感じない。空中姿勢制御の方が俺にとっては大事だ。
〈脱兎の如く〉の方は「逃走・回避」に特化したスキルのようだが、個人的には積極的に攻撃を仕掛けられるスキルの方が肌に合う。
そういうわけで〈嵐雲渡り〉を取得。
今回はシンプルな強化がありがたい。
Name:トビ
Race:人族
Slot:7
Skill:〈★魔花使い〉〈★箱庭支配〉〈★劇薬覚醒〉〈★捕食者〉〈★嵐雲渡り〉〈★蹴術使い〉〈★異常耐性〉〈支配耐性〉
綺麗に整理されたなぁ。大変に満足です。
くわえてもうひとつのリザルト確認、ドロップアイテムも見ていこう。
まずは諸悪の根源、調霊針。
Item:満たされた調霊針
Rarity:ボスドロップ
月詠み巫女の仕立てた悪性の調霊針。
地脈・精霊の力を十分に吸い上げ、あとは奉ずるのみである。
アイテムとしてはすでに完成されており、これを用いて何かを作り上げることはできない。
……これも月詠み巫女関係?
テキストを見る限り、あの犯罪クエストの依頼主が月詠み巫女であるようにも見て取れる。もしかして、あいつらってゲーム世界観的に結構大事な存在なのだろうか。
「奉ずる、つまり何かに捧げるための針か……」
アイテム制作には使えないと断言されてしまっているので、残る使用方法としては、何かの贄や供物のように使うのかもしれない。そんな機会がないことを祈ろう。
さてもうひとつ。
Item:狂化ノームの残滓
Rarity:ボスドロップ
土精霊の魔力をたっぷり浴びた肥沃な泥。
畑の土に混ぜ込むことで、恒久的に植物成長速度を向上させる。
──これは。
今まで手に入れた中でも、ダントツで嬉しいボスドロップが来た。
*****
そういうわけで、せっかくなので手に入れた土を潤沢に使ってしまいながら、俺たちの後処理のほとんどは薬草園の仕立て直しとなった。
一度はノームにひっくり返された薬草畑をなんとか復旧し、家の中に入り込んだ砂を改めて掃除する。一日では到底片付かず、二日目の午後にしてようやくだ。
「ああ、やっと終わった……!」
「お疲れさま〜」
時刻は夕暮れ。
クランハウス上階、最後の寝室の清掃・換気を終える。
窓から見える景色は未だ崩れたままの町並みと、さらに向こうにはメンデルのツルが絡みついた一面の住宅街。
切り離したメンデルとノックスリリィは、街と一体化したオブジェクトとしてゲームに認識されてしまったようで、未だ消滅する気配もなく地域住民たちからありがたがられているらしい。
採取ポイント化はしていないようなので……プレイヤーが押しかけて住民たちに迷惑をかけるということがないなら、まぁそのままでも良いのだろう。気恥ずかしさはあるけれど。
「メニーナ、例のノームは大丈夫なの?」
「あ、はい。昨日まで休眠していたんですけど、今朝見てみたらお友達と遊んでました。ほら……」
俺が身体を預けている窓に、女子組も一斉に身を乗り出して下を覗く。ぎゅうぎゅうで狭苦しい。
メニーナが指差す先では、薬草園の上をぱたぱたと走り回る小人たちの姿があった。
「……どれが狂化したノームなのか分かんないや。フルルちゃん分かる?」
「全然見分けつかないです」
「えっ!? そ、そんな……ほら、今さっき池のそばを通り過ぎてった子ですよ……?」
うーん。俺にも見分けがつかない。
多分、それが出来るのはメニーナだけだと思う。
「でもまぁ、ノームも街も助けられたなら良かったよ。トビくんも頑張った甲斐あったね」
「ああ、そうだな」
さすがに最後は死んだかと思ったけど、他所のクランの皆さんにも助けられた。ウチの連中も含めて、全員、本当に頼りになった。
最初はクランなんて作っても持て余す……なんて思ってたけど、なかなか悪くない。
「今日からはノックスリリィの栽培もノームたちに任せちゃうし、しばらくはのんびりし、て………」
……って、あれ。
なんだ? 力が入らない。
気付けば俺の身体はくらりと傾いて、床に崩れ落ちそうになったところを──
「わ、わわっ……と、トビくん……!?」
「えっ、なに? 大丈夫?」
「どうしました?」
──俺は3人に受け止められた。
ふにゅん、とメニーナの巨体に身体を抱かれ、ウーリとフルルがどうしたと顔を覗く。背中に伝わる感触が異様に柔らかい……いや、そうじゃなくて、なんか色々と不味くない?
「スタミナ切れ? ちょっとまってね、回復アイテム探すから」
「立たせとくの危なくないですか?」
「そ、そうだね……と、とりあえずベッドいきましょうか……」
待て待て、余計に危うい。
けれど抵抗しようにも身体に力が入らず、俺の身体はされるがままにベッドに転がされた。
正座したメニーナの太ももが後頭部の下に差し込まれる──いわゆる「膝枕」という体勢で、そこにウーリとフルルが四つん這いでやってきて覗き込む。顔が近い。
「はい、口開けろ〜」
「い、いや……自分で……」
「それができないからこうなってんでしょうが」
ウーリの手でスタミナ回復のポーションを口の中に流し込まれ、こくこくと鳴らす喉をフルルにじいっと見つめられている。しかし……
「……?」
「えっ、まだ動けない?」
俺の行動不能は回復しなかった。
まさか、スタミナ切れじゃないのか?
俺が頷けば、ウーリは首を傾げる。
「え〜、なんだろう? 状態異常とかじゃないもんね。フルルちゃん、何かした?」
「何もしてないですよう。時と場所くらいわきまえますって」
最後のは嘘だろ。
今日ログインしたときも背後から襲いかかられて死にかけたぞ。
そんなことを話している間も、俺の身体はだらりと脱力したまま動けない。ウィンドウは開けるのでログアウトや一連のシステム操作はできるのだが、やはり飢餓状態と同じように身体の操作が利かないという感じだ。
ウーリの手が、手慰みのように俺の頭を撫でている。
「だ、だから当たり前みたいに触んなって……」
「どうかなぁ。本当に嫌だったら感情指数検出の警告が出るんだから、ツンデレはすぐバレちゃうよ。フルルちゃんも今のうちに触っとく?」
「イイんですか? では……トビくんとっても頑張りましたから、いっぱい甘やかしてあげますねえ」
フルルの指先は首筋をつうと撫ぜ、にまにまと俺を見下ろしている。段々と鎖骨を伝うように下り、そしてまた首へと戻って来る。
待って、怖い怖い。
これは撫でるとかじゃない。絞殺の予備動作だろ。
「じ、じゃあ私も……」
「メニーナさん?」
アンタまで何をノッてんだ。
大きな手のひら、けれどほっそりとした白い指先が俺の手をぎゅっと握り、隙間なく五指を絡める。もう片手は胸板を撫で、すうと下へと下っていく。恐る恐るという触れ方だが、それが余計に何か……まずい感じだ。
「トビくん、そこからだとメニーナさんの顔が見えなくないですか?」
「本当だね。おっぱいばっかり見るなよ〜」
「み、見てな……いっ……」
頭がぼうっとする。
フルルの言う通り、膝の上から見上げた視界は「──だぷんっ」としたメニーナの大きな膨らみでいっぱい。視線を遮るように、ウーリとフルルが至近距離から顔を覗き込む。
顔に吹きかかるふたりの甘い吐息に、手つき。
フルルは頬を、ウーリとメニーナは左右の内ももをすりすりと撫でる。ゆるく、開かせるように。
「フルルちゃんは未成年だから、際どすぎるところ触っちゃダメだよ〜」
「はあい」
「あ、あの、これっ……ど、どこまで出来ちゃうんですか……?」
「合意の上なら、実はどこまででも出来ちゃうんだなぁ。だからメニーナがしたいところまでかな?」
「な、なるほどぉ……!」
……マジか、こいつら。
段々、冗談じゃ済まない領域まで踏み込みつつある。
首元に唇を這わせ、ちゅっ……ちゅう……と小さなキスの雨を降らせながら、上目遣いでこちらを見つめてくるフルル。左右の鼠径部に爪を立て、かり、かり──とひっかくウーリとメニーナの妙な連携に、俺の腰がひくんと浮いて跳ねる。
それを見て、ウーリはじっと目を細めた。
すり、すり──とさするような手つき。
かり、かり、かりかりかりッ──煽り立てるような爪使い。
蛇の瞳がこちらを見透かし、細い舌がぬらりと唇を舐める。
「トビくんはどこまでしたい? 私たちはなんでもしてあげるよ……?」
──あ、まずい。
本気で喰われる。
ただそのとき、自分の中で何かがざわめいた。
ほんの一瞬、力が戻って来るような感覚。ふと視線を動かせば、窓の向こうに見えていた夕陽がちょうど沈んだところだった。夜が来る。俺の中で、メンデルが少しだけ喜んでいる。
「……夜?」
そういえば……メンデルが好むものが、エネルギーや肥料の他にもうひとつだけあった。
夜の魔力だ。
最近は特に感情表現が分かりやすく、与えれば花を咲かせて喜んで見せる。
ひょっとして、足りないのはスタミナではなく……夜の魔力なのか?
「ひっ……火を、灯せ、ドレ=ヴァローク……!」
「え?」
「うわっ!」
「きゃっ……!?」
瞬間──腰にくくりつけたランタンが青い火を灯すと同時、メンデルは蠢いた。花を咲かせたツルが俺の身体をぶちぶちと突き破って現れ、それに驚いたフルルとメニーナが仰け反る。
そして、俺の身体の力もまた戻った。
ベッドの上で上体を起こし、未だ足には弛緩した感覚が残るが、腕の力で身体を這わせる。彼女たちと少しの距離を取る。
「……っは、あ……あっぶない……」
危ない、本当に危ないところだった。
あのまま流れに流されるまま、美味しく頂かれるところだった。
「あっ、と、トビくん……ご、ごめんね……? 嫌でしたか……?」
気まずそうにこちらの様子を窺うメニーナと、「ちぇっ」と残念そうにするウーリにフルル。
いや、まぁ、嫌っていうか……こんなノリだけでヤっていいことではない気がする、というか……。
「嫌ではないけど……あー、メニーナさんこそ嫌じゃなかった……?」
「え? いえ、私はその……」
さっきまで俺の頭を乗せていた太ももを、むにゅ──と擦り合わせて、メニーナは俯きながら言う。
「……戦ってるときは、あんなに強くてかっこいいトビくんが……あ、あんなふうに、へにゃへにゃに動けなくなっちゃって……お、男の子なのに、女の子の私に力で勝てなくなっちゃうなんて……」
「とっても……可愛かったです……♥」
目元の半分以上を隠してしまう、重たい前髪。その向こうに覗く、細まったメニーナの瞳が──じい、と潤んだように俺を見つめていた。
「……ウーリさん、どう思います?」
「あの子が一番性欲強そうじゃない? と思っております」
女子2名、そんなこと言ってあげないでください。
まぁ、若干締まらない感じにはなってしまったが……薬草園の整備、クラン創設、そして暴走ノームの鎮圧と続いた一連の騒動は、これにてひとまず幕引きである。
……それにしても、今のはなんだ? スタミナ問題が解決したと思いきや、今度は別の不具合が出てきてしまった。こいつはどうしましょうかね。




