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FLOWER POT MAN 〜ただ植物を愛でていただけの俺が、なぜか魔王と呼ばれています〜  作者: 卵座
第3章 - The Evening Duties

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036 - えっちなことをしてあげよう予告編


箱庭支配(ガーデンルーラー)

 育成した植物を中心に構成される「庭」において、環境調整やデザインを管理するための高位統合スキル。

 既存の機能に加えて、植物の成長速度がさらに向上し、土壌・水質・大気状態の調整幅も広がる。


 

 このスキルにおける「庭」とは、一体どこからどこまでを指すのだろう。


 育成した植物を中心に構成される「庭」──

 おそらくこれは、自分の所有地でなくても他人から頼まれた土地、レンタルした土地なども「庭」として扱えるようにするための文言。


 けれどもし、メンデルそのものが「トビによって育成された植物」として扱われるのなら──


「──ここは、俺の "庭" になる」


 スキルの拡大解釈。

 俺は自分の "庭" を広げるために、無数のツルを這わせた。


 戦場周りの建物すべてが、メンデルのための土壌だ。

 壁を這うように大量のツルを伸ばし、亀裂や土に根を張り、補強する。


 メンデルのツルによる補強に、夜の魔力による装甲強化。

 さらに「庭内の土壌調整」──つまりは根を張った建物の強度やパラメーターをウィンドウから管理する。


 ひたすらに硬く、強く、衝撃に耐えうるように。


 ごっそりとスタミナがすり減っていく感覚がある。

 口の中で飴玉を噛み、ノックスリリィ栽培で余った食料品もすべて放出。メンデルのエネルギーへと変換していく。だが──


「チッ……こっち向きやがった……!」


 ──ノームがこちらへと走り出す。

 すべてのリソースを「メンデルを広げる」ことに割いている今、俺は無防備だ。


 あっという間に目の前に迫る巨体に対して、躱すことも、防御することも間に合わない。

 

「ウォーターアロー!」

「えっ、メニーナさん!?」


 動いたのはメニーナ。

 あたりには無数の水の矢が降り注ぎ、そしてノームのヘイトがメニーナへと一瞬で切り替わる。


「水の矢に肥料を混ぜてばらまきました! 使ってください!」

「そ、それはいいけどメニーナさん! 死ぬって!」


 栄養をたっぷり含んだ水を吸い上げたメンデルは、嬉しそうに葉をざわめかせる。だがそれどころではない。

 たしかにそれなら俺は守られるけど──今度はメニーナさんが危なくなるだけ。メニーナさん、アンタは覚悟がキマりすぎだ!

 

 ノームは土煙を上げてUターン、そしてメニーナとの距離を一瞬で縮める。跳躍するような突進。

 そんなノームの頭を──何かが撃ち抜いた。


「……っ!?」


 ──ごうん、と低い風切り音。

 ノームの頭部を横殴りにするように放たれ、突き刺さった黒鉄色の矢。


 その大きさはまるで槍、あるいは杭だ。

 騎兵用のランスにも似たその矢は、命中と同時に破裂音を轟かせる。


「ウーリ……!」

「超遅れたーッ! ごめーんっ!」

 

 メンデルのツルによって補強された建物の上に降り立つウーリ。夕陽のような朱色の髪が美しくなびく。

 巨大なコンパウンドボウを引き絞り、弓とは思えぬ強烈な射出音と共に連射される矢の数々。

 

 それは幾度も撃ち込まれ、頭を殴りつけられたノームの巨体は地響きとともに仰け反る。

 メニーナへの攻撃は見事に止まった。


 怯んだノームは再びヘイトを変えて咆哮。

 今度はウーリの立つ建物に向かって突っ込んでいく。ただし──


「これで間に合う……!」


 メニーナ、ウーリの時間稼ぎによって、全域の補強が完了!

 ウーリはぴょんと跳ぶように突進を躱し、ノームの巨体に激突された建物は──


「よし、耐えた!」

 

 ──びくともしなかった。

 建物と地面を一体化させるようにツルが這い、街の地盤そのものが衝撃を吸収、分散させる。


 どっと歓声を上げるギャラリーたち。

 苛立ったように咆哮を上げるノームを背後に、俺は自分の身体に繋がったツルを断ち切り、メニーナの駆る土騎獣に回収された。メニーナはギャラリーたち──特にNPCたちに対して叫ぶ。


「皆さんのお家はトビくんが守ってくれます! だから今は生き延びることを最優先にしてください!」


 ……メニーナさん?

 なぜ俺の名前を出したんですか?


「そ、そうか……アンタらがそう言うなら……!」

「ありがとうなぁ、お花の兄ちゃん! バケモノ退治任せるぞ!」

「行くぞ、俺たちが居ちゃあ邪魔だってよ!」

 

 ま、まぁ……それで避難してくれるならいいんだけど……。

 

 いずれにしても、これで多少は気を遣わずに戦えるようになった。

 戦闘は再開され、特に調子を崩されたノームは劣勢。全身にひび割れが伝播し、プレイヤーたちもここぞとばかりに猛攻を仕掛けている。


 俺と同様、道中でウーリもまた回収し、俺は土騎獣の上でメニーナとウーリに前後を挟まれる形だ。

 柔らかい。いろいろと。


「わお。トビくん、幸せな場所にいるねえ」

「今そういう話する?」


 まだボス戦終わってませんよ。


「いやいや、大事な話だって。メニーナ、センシティブフィルター切ってる? オンにしてると、このくらいの接近でも弾かれちゃうから気をつけてね」

「あ、だ、大丈夫です……たしか切ってたと思います……!」


 ……そういうのも大事だけども。

 ちなみに俺とウーリはしっかりオフだ。そうでなければドレ=ヴァローク戦でウーリを抱えて跳び回ったりなんて出来ない。


 そういえば……さっきフルルを抱きとめても何の警告も出なかったから、あいつもちゃんとオフにしてるのか。

 未成年はフィルター変更に保護者の許可が必要なので、そのあたりは言いくるめたのだろう。まぁなんとなく、あいつはリアルではいい子ちゃんを演じているタイプな気がする。


「トビくんは大活躍だったね。あとでご褒美にえっちなことしてあげようね」

「そ、そうでした……! トビくん、ありがとうございます……!」

「うん。いいけど冗談でもやめてね」


 メニーナさんもなぜ何も反応しないんだ。アンタだけは否定してくれよ。

 なおこのゲーム、フィルターをすべて切ると本当に「えっちなこと」が出来てしまうので、要注意である。


 閑話休題。

 

 現状、たしかにプレイヤー優勢だが、ここまででも死に戻りは多数。徘徊型ボスは封鎖型と違って挑戦人数の制限がないため、何とか命のバトンリレーが成立しているにすぎない。


 それに……ノームの攻撃もやや変化している。

 第二形態と言うべきか、ただの突進ではなく魔法を使うようになってきた。こちらにも飛んでくる巨大な土塊の弾丸を、騎獣がするりと躱しながら接近する。


「さて、こっからはもう火力で押し切るつもりで……」

「あ、トビくん。そ、それなんですけど」

「ん?」


 ガンガンいこうぜ──と方針を固めようとしたところで、メニーナが口を挟む。


「このまま、ダメージだけで倒したら……多分、ノームちゃんが死んでしまいます」

「…………」

「なんとか針を取り出してあげることはできませんか……?」


 無理を言っていることは分かっているのだろう。その声はやや自信なさげだ。

 メニーナの膝や肩にしがみついているノームたちが、一斉に俺の方を見る。


「やれるかも……ってやり方はある。上手くいくかは分からないけど」

「ほ、本当ですかっ?」

「ああ。今度はあいつの身体を "庭" にする」

「に、庭……?」


 スキル〈箱庭支配(ガーデンルーラー)〉による土壌への干渉。

 さっきの場合は、あたり一帯の建物壁面をツルで侵蝕することで、壁を "庭の土壌" としてスキルに認識させて強度のパラメーターをいじった。このあたりの建物が、園芸系スキルの干渉範囲内である石や土、粘土などによって作られていたからこそ出来たことだ。


 今度は、あのノームの土の義体に同じことをする。

 メンデルを侵蝕させて、あの巨体を俺の "庭" であるとスキルに誤認識させることで、土の中の構造をいじくる。


「ノームは土の中にいる……ってことでいいんだよな?」

「は、はい。あの大きな身体は土魔法で作った鎧、あるいは乗り物のようなものです。本体のノームちゃんは中にいて、小さいまま……だと思います」

「了解。だったらやってみる価値はある」


 本体が異形化していないなら、針との分離を試みることは出来るかもしれない。それも土壌への干渉が出来るようになればの話だ。


「問題はスタミナだな。さっきも相当キツかった」

「さすがにデカすぎるからね。もう少し体積を削ってから挑戦したほうがいいかも。フルルちゃん、いる?」


 ウーリが呼びかければ──


「いますよう」

「うおっ……!?」


 ──フルルは現れた。

 現れたと言うか、ずっとそこに居たかのように土騎獣の尻に立っていた。


「フルルちゃん、他のプレイヤーたちに伝えてきて。ヒビが入って砕けそうな部位を落として、体積を削ることを優先してって」

「はあい、了解です」


 たんっ、と蹴るように跳んで、フルルの身体が弾丸のように消えていく。


「いたのかよ、あいつ……」

「う、ウーリさん……よく感知できましたね」

「ううん、感知できてないよ。いるかもって思ったから話しかけてみただけ」


 いなかったら恥ずかしい感じになるところだったぁ、よかったぁ、とウーリはへらへら笑う。

 それにしても、感知系スキルを2つも取得しているウーリが感知できないとは……フルルの隠密性能はかなり高いらしい。


「それじゃあ私たちも削りにいこうか。狙い目は首から先だね。三角帽子をかぶったあの頭、落とせばかなり体積が減る」

「了解。首が落ちたら侵蝕を始めよう」

 

 これまでの猛攻で、かなり深いヒビの入った首筋──たしかに狙い目。

 死海露玉の毒ダメージ分をポーションで回復後、俺はツルを射出して跳ぶ。ウーリはメニーナ運転の騎獣に乗ったまま流鏑馬だ。

 

 飴玉を噛んでスタミナを補充しながら、再度ヘイロウを組み上げて武器を展開。この際、装甲はもう不要だ。

 射出、収縮、急加速──攻撃を開始する。


「せーのっ!」


 加速の勢いをそのまま乗せた棍の殴打──

 そしてウーリの重射撃が、ひび割れた頚部へと同時に撃ち込まれる。

 

 


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― 新着の感想 ―
強弓?剛弓?巨大なコンパウンドボウみたいな見た目なら強弓の方かな? まあどちらも同じではあるけどニュアンス的な意味では違いはあるし…
えっち(H)はえっちでもHELLの方だがなぁ〜!!!!って残虐プレイに移行したりしない?
えっちなことに関しては主人公が全身触手人間もとい蔓使いだから……今のところないけどPVPで相手を捕食したらレーティング的にはちょっと怪しいことになりそう。そしてフルルが羨ましそうな眼差しを送りそう。 …
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