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FLOWER POT MAN 〜ただ植物を愛でていただけの俺が、なぜか魔王と呼ばれています〜  作者: 卵座
第3章 - The Evening Duties

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035 - オーナーの仰せのままに


 一斉に駆け出した俺とフルル。

 メニーナから『周囲の安全が確認できたので通話をかけます』と改めてメッセージがあったのは、それからすぐのことだった。


 フルルにも聞こえるように通話設定を整え、俺は着信に応じる。


「メニーナさん大丈夫!? なんか向こうですごい音と……砂煙があちこち上がってるんだけど!」

『わ、私は大丈夫です! でも、街が大丈夫じゃなくて……とにかく薬草園、じゃなくて……お、音のする方向に走ってください! 私も迎えにいきます!』

「了解!」


 ……迎えに行くとは、どうやって?

 という俺たちの密やかな疑問は、すぐに解消された。


 路地裏から大通りへと抜け出れば、まず音に気付いたのはフルル。次いで俺も視界の端にシルエットを捉える。

 こちらに迫ってくる、なにか土の塊──いや、土で出来た犬のような影がいくつか。


「……あれ、メニーナさん乗ってません?」

「えっ? ……本当だ!」


 小さな騎獣の群れを駆ってやってくるメニーナ。

 土犬たちは砂煙を上げながら、俺たちの前で「キキーッ!」と急停止する。その先頭に跨るメニーナは肩と膝に大勢のノームたちを乗せていた。


「あの、メニーナさん……それはなに?」

「ノームちゃんたちが作ってくれたんです! それより行きましょう! 乗ってください!」

「り、了解……!」


 なんだか分からないが、こういうときのメニーナは大抵「大正解」の択を引いているので従っておけばよし。

 膝をつき、乗れとばかりに低い体勢を作る土塊の騎獣たちに俺たちは飛び乗った。


「メニーナさんがクランオーナーなのって……もしかして消去法とかじゃなくマジ(・・)なんですか?」

「うん、実はマジ(・・)なんだ」


 小さな声で尋ねるフルルにそう答える。

 冗談抜きで一番向いているんです。俺とウーリがどちらも副官向きという理由もあるけどね。


 そういうわけで、俺たちを乗せて騎獣は駆け出した。

 破壊音の轟く方向へと一直線に向かいながら、メニーナからことのあらましを聞く。


「じゃあ、そのノームは "調霊針" に触ってボス化した?」

「お、おそらくは……園芸作業中に、埋まってた針を掘り起こしちゃったんだと思います……」

「うわあ。やっぱり厄ネタでしたねえ」


 名前からしてろくなものではない──という推測は当っていたようだ。


「"調霊針" については何か分かったんですか?」

「う、うん。まだ浅いところまでしか読めていないんだけど……」


 そう言いながら、メニーナは腕に抱えた書籍をひとつ開く。びっしりと綴られた異界文字は俺には理解できないが、メニーナは解読用のスキルを持っているのだとか。


「そもそも "調霊針" っていうのは、魔力や霊脈の流れを整えたり、精霊の通り道を作ってあげたり、ってことができるプラス(・・・)の道具で……」

「ほう」

「でもそれが呪詛や怨念によってマイナス(・・・・)に転じると、逆に魔力を乱す、狂わせる道具に変わってしまう。地中に埋める形で使われるものは、特に地脈への影響が強い……ってことみたいです」

「地脈に精霊ね……」


 キーワードを見る限り、たしかに土精霊であるノームに対しては影響が大きそうだ。


 石畳を駆け抜け、俺たちは王都の中を突き進む。

 土煙を巻き上げながら進む騎獣の足は速く、振り落とされないようにぎゅっとしがみつく。


 やがて、その姿が見えた。


 『徘徊型ボス〈(くる)()くノーム〉が確認されました』


 ログと共に確認した異形のノーム。

 ゴツゴツと隆起した土塊(つちくれ)の四肢は肉食獣のような鋭い爪を持ち、その巨躯であたりの建物を破壊しながら暴れ回っている。


 幸いなのは、プレイヤーを無視して王都を走り回る──というような理不尽仕様ではなさそうなことか。

 すでに戦場には俺たち以外にもプレイヤーが集結し、集団戦へと持ち込んでいる。


「まぁ、とにかく攻撃を仕掛ける他にないな」

「そ、そうですね……!」


 まずは装備の準備──防具に300、武器に700のヘイロウを割り振りながら、敵に接近。

 近寄っていけば、大きさは四メートル弱。高さだけでいえば〈炭守りドレ=ヴァローク〉と同じくらいだが、二足歩行と四足歩行では実際のサイズ感は全く異なる。こちらの方が巨大かつ俊敏だ。


「火を灯せ、ドレ=ヴァローク」

「え、エンチャント・アクア!」

「エンチャント・ダーク」


 さすがに手加減できそうな相手でもなく、いきなり夜の炎を使っていく。メンデルは嬉しそうにざわめき、皮膚をぶちぶちと突き破って顔面に花を咲かせる。メニーナとフルルも、それぞれ全員にバフをばらまいてくれる。

 水魔法のリジェネに、闇魔法の方はわずかな隠密補正と奇襲時ダメージの上昇らしい。いかにもフルルが好みそうな内容だ。


 だがそのとき──ぎろり、とノームの視線がこちらへと向いた。


「……ッ!?」


 別のプレイヤーを狙って爪を振り下ろそうとしていたノームの身体は、その一瞬で方向転換──そして跳躍。気付けばその巨体が眼前へと迫っている。

 

 なんだ?

 なぜ今の一瞬でヘイトが切り替わった?


 いずれにしても避けきれない。

 俺はメニーナとフルルの前に跳び、一か八かで棍を構え──


「どッせえええええいッ!」

「うおっ……びっくりしたぁ!?」

 

 ──瞬間、そこに割り込んだのは、どこか見覚えのある大男だった。

 背丈以上もある大盾がノームの一撃を受け止め、轟音と爆風が吹き荒ぶ。


「ば、バルーンさん(・・・・・・)……ナイスタンクッ!」


 俺は驚きながらも、発生した隙に殺人彗星(キリングハレー)を振りかぶった。横から頬を殴打するように、ノームの頭を弾き飛ばす。

 

 上がる砂煙と、またも急変するヘイト。

 ノームは全く別のプレイヤーへと駆け出していき、残された大男は爆風に負けないくらいに大音量で吠えた。

 

「ッしゃああ! 大丈夫かァ、トビくん! お嬢ちゃんたち!」

 

 横にも縦にも大きな猪獣人──

 ハイファットエンジンというチームのボス、レッドバルーンというのがこの大男の名前だ。

 

 〈月詠みラナエル〉の討伐後、彼にはすでに諸々の連絡を入れてあったため、俺の素性はとっくにバレている。ちなみにそのとき返ってきたメッセージは「あんとき言うてや! トビくん!」の一言だけだった。気持ちの良い人なのだ。


「えっ! ハイファットエンジン!?」

「ふ、フルルちゃんも、知り合い……?」

「違います! でもたまに配信とか見てるチームです!」


 ウチには競技観戦ガチ勢もいます。


「ノームを釘付けにしてくれてたの、ハイファットエンジンでしたか」

「おう、向こうにピカブもおるで。地下ダンの帰りやねん」

「地下ダン?」


 なんだそれは。

 地下ダンジョンの意でいいのか?


「おう。今度トビくんとウリちゃんも誘おう思うてたんやけど、ドラフラもおったからトビくんどないかなぁ悩んどって、ッて今いいわこの話。とにかくさっき地下でぎょうさん死に戻りしてきたとこやから、今ちょうど獲得経験値半減中やねん! 景気ようアレ倒して、俺らの代わりにがッぽり稼いだってやトビくん!」

「マシンガンすぎて全然わかんねえよ」


 まぁ、頼もしい味方がたくさんいることだけはよく分かった。

 ハイファットエンジンに加えて "PEEK A BOO(ピーカーブー)" も国内有数のプロゲーマーチームだ。このゲームでの戦績はよく知らないが、屈指のトップ戦力であることは間違いない。


「もちろん加勢しますけど、なんか情報あります? あの妙な挙動とか」

「おう、あれな。ノームっちゅうんが本当かは知らんが、どうも魔法に敏感らしいのう。軽いバフかけるだけでも一気にヘイト持ってかれよる」


 なるほど、俺たちが一斉にバフ魔法や魔力を使ったから、ああやってヘイトが切り替わったのか。

 目配せすると、フルルとメニーナが頷く。今後、魔法はタイミングに注意しよう。

 

「それと三角帽子の振り回しはほぼ即死級じゃな。前は立たん方がええ、横から殴ったれ」

「了解です。じゃあ行ってきます」

「悪いのう! 頼むわ!」


 レッドバルーンに軽く礼をして、俺たちは前線へ向かった。


「バルーンさん、どんどん関西弁が上手くなっていくなぁ……」

「えっ……ね、ネイティブの人じゃないんですか……?」

「ネイティブどころか日本人でさえないですよ、あのヒト」

「ええっ!?」


 日本のアニメとゲームが好きすぎて帰化までした変な人です。まぁそんなことより。

 

 土の騎獣を駆って再接近。

 そして、ノームの身体にツルを撃ち込んで跳ぶ。ここまでくれば、跳び回ったほうが早い。


「と、トビくん、フルルちゃん。私のことは気にしないで大丈夫です!」

「了解」

「了解です!」


 ならばお言葉に甘えてひとりで行こう。

 フルルもまた、目を逸らした一瞬にその姿が掻き消える。

 

 ノームの四肢が地を削り、石畳を踏み砕く。

 その突進をタンク職がふたりがかりで受け止め、プレイヤー側の剣閃が切り返すカウンター。どいつもこいつも手練れって感じの動きだ。


 俺もそこに乗じるように──殺人彗星(キリングハレー)を叩き込む!


「ん? なぁ、あれトビくんじゃない?」

「ホントだーッ! 顔怖っ! トビくん、俺のこと覚えてるーっ!?」


 すみません覚えてないです!

 おそらく昔、どこかの大会で顔を合わせた人なのだろうけど、アバターも変わった別ゲーでそれは無理だって。


 殴りつけた一撃が土の身体を削り、こちらへ向く意識。

 けれど棍状の殺人彗星(キリングハレー)を即座に多節棍モードへと変形──さらに切り返すような腕の動きで鞭撃を振り上げ、その顔面へダメージを重ねる。


 砕けた岩皮が宙を舞い、ノームは仰け反った。

 土獣は喉元で唸る。砂と砂をこすり合わせるような低い声で鳴く。


「さあ、こっち向けやデカブツーッ!」


 ──直後、他方から撃ち出される無数の魔法攻撃。

 こうやってタイミングを合わせることでヘイトを調整、そして──反撃の突進をレッドバルーンが見事に弾き、さらに猛攻が加わる。


「綺麗にやってんなぁ……」


 見事なパーティプレイだ。

 メニーナと小人ノームたちもちゃっかり魔法攻撃に便乗し、魔法をぶつけている……というかノームたちの魔法火力が結構すごい。巨大な土の槍がいくつも現れ、異形ノームの首元に大きなヒビを入れている。

 彼らを連れてきたメニーナさんこそ、実はかなりファインプレーをしているんじゃないか?


 さらに──


「せめてヒト型じゃないと、テンション上がらないですねえ」


 ──いつの間にか身体によじ登っていたフルルが、ノームの首筋に深くナイフを突き立てた。

 その刃には黒い魔力がまとい、ナイフで切り裂かれた患部には禍々しいオーラが残り続けている。


 嫌がるように身体を振るうノーム。

 ついでに何撃が斬撃を重ねながらも振り落とされたフルルを、空中で抱きとめる。


「うわっ! トビくん、今の少女マンガみたいですね!」

「そうかなぁ……お前、そういうの読むの?」

「エロめなやつは読みますよ? でも少年誌の方が好きですね」


 ああ、そう。

 最近の少女漫画ってそういうの多いらしいね。


「で、今の魔法は何だ?」

「敵の反応速度を鈍化させる魔法です。ただし武器にエンチャントするタイプの魔法で、かつ体内に深く撃ち込まなければ効果が薄いです」


 なるほど。純魔法職だと条件を満たすことは難しいかもしれないが、フルルなら容易だ。こいつを一度も近寄らせないなんて芸当は俺でもできない。


 フルルを空中で解放し、俺たちは互いに、再びノームへと攻撃を叩き込みに行く。


 ツルを撃ち込み、収縮──

 急接近と共に、ヒビの入った首へと放つ棍の打撃。


 同時に蹴り、そして暗器変形。

 深い刃が首をえぐり、より傷を深く切り裂く。


「なるほど、たしかに反応が鈍い……かな?」


 フレーム単位での鈍化な気はするが、それでも反撃されにくいというのは戦いやすい。

 分かりやすい大振りな突進のカウンターを、地面に撃ち込んだツルを収縮させる形で移動して躱し、すれ違いざまにさらに打撃と斬撃を重ねる。

 

 あちこちでプレイヤーの死に戻りは発生しているが、それでも初見攻略にしては対応は順調だ。

 ただ、ひとつまずいことがあるとすれば──


「市街地、なんだよなぁ」


 破壊の軌道は、徐々に市街地を侵蝕しはじめている。

 プレイヤーたちはなんとかしてボスを釘付けにしようとしているが、それでもあの巨体を完全に制御しようなど不可能なのだ。


 戦場は少しずつ移動し、まだ無事だったはずの建物に爪が掠める。外壁の一部が削げ落ちる。もう数手も遅れれば、居住区画に甚大な被害が出始めるだろう。

 そしてさらに少し離れた場所には、自分たちの棲家を心配そうに覗くNPCたちの姿もあった。


「気持ちは分かるけど、逃げた方がいいぞ……!」


 この状況、メニーナならどう動くだろう。

 そんなことを考えていれば、ちょうどメニーナと目が合った。


 彼女が駆る土騎獣の上に着地する形で、合流する。


「トビくん、どうしましょう……このままだと街が……」

「分かってる。メニーナさんはどうしたい?」

「私は……」


 メニーナは少し口ごもる。

 迷いというより、遠慮だろうか。それでも今は時間がないと、彼女は言葉を続けた。


「家を守りたいです。街の皆さんの避難が上手く進まないのも、自分たちの住処が心配だからです。なんとか、安心して逃げてもらえるように……」

「よし、じゃあそうしよう」

「で、できるんですか……?」


 どうだろう。俺は「分からない」と情けなく笑いながらも、準備を始めた。


 武器と装甲を一時解体し、ヘイロウをインベントリに回収。

 できるだけスタミナを温存するように重量を捨て、騎獣を飛び降りる。


 そして張り巡らせるのは──無数のツルだ。


「普段のスタミナ問題は解決したけど、このやり方だとどうかなぁ……!」


 ギリギリか、あるいは足りないかもしれないが──クランオーナーがお望みとあらばやるしかない。

 とにかく俺は、ノームの周囲にある建物すべての壁を這うように大量のツルを伸ばし、張り巡らせていく。


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― 新着の感想 ―
んー。街中でPK発生したりボス戦イベント生成されたり、セーフティエリアの概念無いのか、もしかして。ログイン直後にボス戦ド真ん中とかなったら何も分からずふっ飛ばされて終わるなぁw
親方! 空からPK狂いが!! ……ちょっと受け止めたくないなぁ
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