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FLOWER POT MAN 〜ただ植物を愛でていただけの俺が、なぜか魔王と呼ばれています〜  作者: 卵座
第2章 - Lover and Murderer

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026 - 町中華には何度だって通いたい/エピローグ


 たしかに心地良い金属音だ──と思った。


 ──キンッ! キンッ! カンッ!

 カンッ! カンッ! カカンッ!


 リズムよく襲ってくるナイフ捌きを弾いていなしつつ、本当に嬉しそうなフルルの笑みを見て、俺は感心する。


 ほんの少しの間だけ、俺もプロの世界に足を踏み込みかけたことがあるけれど……あの世界にも、こんなに楽しそうにPvPをするやつはなかなか居なかった。


「……で、ここはディレイと」

「うわーッ! 全部読まれるーっ!」


 ……何が嬉しいんだ。

 対処されるたびにテンションが上っていくフルルの攻撃を弾き、振り払った足は仰け反るように躱される。


 再び刃と刃が交差し、キンッ! と心地良い音を奏でる。


 さて、なんとなく分かってきた。

 こいつ、目だけでなく "音" で攻撃を判断している。


 ウーリのように種族的な補正がかかった感知系スキルを取得しているのかもしれないが、それを除いてもかなり耳が良い。攻撃ごとの聞き分けが出来ている──というべきか。


「フルル、お前……育ち良いだろ」

「えっ! なんでですか!」

「楽器やってる? それかご家族とか……」

「バイオリンとピアノをやっていました! あとお母さんがオペラのヒトです!」


 マジお嬢様じゃねえか。

 なるほど、だからこのリズム感だ。


「すごい! 怖い! トビくん、ボクのこと全部分かっちゃうんですか!?」

「そうじゃねえ。うわ、言わなきゃ良かった」


 テンションに合わせて、攻撃は速度を増す……かと思いきや、ぐんとテンポを遅らせた斬撃を弾き損ね、ギリギリで顔を逸らして躱す。その切っ先が頬を裂く。


 フルルの一番怖いところは、この嫌なリズムだ。

 相手の攻撃をリズムで捉えて対応できる勘の良さに加えて──逆に言えば「ノリにくいリズム」を自ら作ることも容易い。


「どうりで良いディレイかけてくるわけだよ……!」

 

 気持ちの悪い「ずらし」を見分ける。

 ナイフとナイフの刃を合わせ──弾く。

 

 ただ置いて防御するだけでは防戦一方になる。攻撃に合わせて強く攻撃を当て、弾き飛ばして隙を作らなければリターンにはならない。

 攻撃・防御に関わらず、常にリターンを考えて動くのがPvPのコツ。

 

 ナイフの頼りない刃渡りでこれをやるのは結構慣れが必要だが……まぁ、これで銃弾を弾いていた頃(・・・・・・・・・)と比べれば、今の相手はずっとマシだ。リハビリにはちょうど良い。

 

 弾き、弾き、弾き──

 そうやってリターンを取り続け、こちらの立ち回りを優位に。より具体的には「敵には攻撃の予備時間を与えず」「こちらは常に余裕を持った予備時間が確保できる」状況──ここがタイマン勝負(1v1)で目指すべき最初の到達点ではないだろうか。


 そうしていれば、やがて相手は気を焦り、あるいは責めが単調になり──


「あっ」

「よし、ミスった」


 ──フルルの場合は、踏み込み過ぎた。

 ほんの一歩、深追いしすぎた身体。その身体の進む先には、俺のナイフが置かれている(・・・・・・)


 突き刺すわけでも、切り裂くわけでもない。

 ただフルルの首が勝手にやってきて──ただ構えて置いておいただけのナイフの刃が、その頸動脈を断ち切った。


「あがッ……!? ッか……か、っけェ〜〜〜……!」

「どうもありがとう」


 ふらりと崩れたフルルの身体。

 トドメに蹴りを放ち、首に突き刺さったナイフの柄を「トン」と足先で押し込む。


 首を貫かれてHPゲージの削れきったフルルは、青い粒子となって消えていった。


「はあ……疲れ、た……」


 同時に──俺の身体もまた、倒れ込んだ。


 ばしゃんと飛沫を上げて水の中に沈み、仰向けで浮く。

 傷を負わされたわけじゃない。ただ、スタミナ切れ(・・・・・・)である。


「燃費悪すぎだ……帰ったらいよいよスキルを取ろう……」


 ポーションを使ってほぼ最大までスタミナを回復したはずなのに……接ぎ木、一瞬の変身、そして最後のフルルへのファンサービスだけで使い切りとは。

 まぁ今回のラナエル戦で大量に経験値が入っているはずなので、スキル次第ではもうしばらくマシになるだろう。


 そんなことを考えながら──

 やがて俺は、はじめての死に戻りを経験した。



 

 *****


 

 このゲームのデスペナルティは、一定時間の獲得経験値の半減とPKの禁止。主にこれだけ。死んで失うものはない。

 さらに1日3回まで使用できる、デスペナルティ免除のアイテムまで配布されている。つまり「1日3回までは無茶な冒険をしていいよ」ということだ。


 まぁ正直、今回の一連のボス戦の内容を鑑みると、そのくらいでなければしんどい難易度だとは思う。


 タカツキをフレンドに登録し、ついでにレッドバルーンのコードも登録しておく。

 ボスを倒しておいて何も言わないのは不義理だと思ったので、改めて自分の名前を名乗り、例のクエストと〈月詠みラナエル〉についての詳細をメッセージで送っておいた。

 

 時間的にはもう少し余裕があったが、今回は疲れたので、連絡を済ませたのちログアウト──

 そして翌日、後日談である。



 その日、俺はウーリとメニーナからの連絡を受けて王都の飲食店にやってきていた。


「……なぜ、また中華?」

「いいじゃん。この前はメニーナいなかったしさ」

「す、すみませんトビくん……私に合わせてもらう形になっちゃって……」

「ああ、いや。全然いいんだメニーナさん。中華大好き!」


 ウーリに案内されたその店は、NPCメイドの洋食店を間借りしてプレイヤーが営業している中華料理店らしい。

外観は洒落た洋食店、しかし一歩入れば花椒とニンニクの匂いが立ち込めている。

 

 会食のメンバーは俺、ウーリ、メニーナ、そして──


「ウーリ、なんでこいつも呼んだ?」

「面白そうだから」


 ──フルル。

 どうも彼女は有名なPKらしく、俺が声をかけるまでもなくウーリがこの場に連れてきていた。

 

 そういえば、ボスの初撃破はメンバーが公表されてしまうのだった。昨日俺が誰と何をしたのか、ウーリは大体の流れを把握しているらしい。

 

「トビくん! これ美味しいです!」

「ああ、うん。良かったね」


 向かいにはウーリとメニーナ。

 隣に座るフルルは、元気な声色とは反対に、とても上品に食事を進めている。


炒飯(チャーハン)ってはじめて食べました! 好きです!」


 お嬢様だなぁ。

 

「メンデル、お前も好きなの食べろよ」


 腕から出したツルを自由にさせていれば、そのうちメンデルは小皿に取った適当な料理からちゅうちゅうと栄養を吸い始める。メニーナはにこにこと見守っていた。


「メニーナ?」

「あっ、はい。そうでした」


 ウーリの声掛けに、メニーナはぴんと背筋を正す。


 さて、ここまで前座。

 本題はメニーナによる調査報告である。


「えっと、例の花なんですけど正体が分かりました。あの花は〈ノックスリリィ〉といって、お婆ちゃんの息子さんがハイルロンド王城で育てていた植物だそうです」

「へえ、息子さんが……っていうか、え? 王城?」

「はい、王城です。息子のドレ=ヴァロークさんは王国騎士だったそうで」


 マジか。超大物じゃないか。


「聞く限り、そのお婆さんは平民っぽいけど……この世界って平民でも騎士になれるのか?」

「普通に考えたら無理だろうけど、世界が夜に呑まれかけてた時期なんて、特に戦力はギリギリだっただろうからね。特例があってもおかしくないかな」

「まぁ、たしかに……」


 ウーリの言葉に、一理あるかと頷く。

 フルルはよく分かっていない様子で、次のメニューを勝手に注文していた。ついでに俺の分の小籠包もお願いしておく。


「ドレ=ヴァロークさんの仕事はあの廃坑周りの哨戒で、俗に "炭守(すみも)り" と呼ばれていました。その仕事に使っていたのが例の〈ノックスリリィ〉だそうで……元々お婆ちゃんが供え花として育てていた花なんですけど、夜の魔力を吸い上げる力があると気付いたドレさんが、王都でも栽培をはじめたみたいです」

「はあ、そういう経緯か」

「騎士として取り上げられたのは、その功績もあるかもね。貴重な夜属性への対抗手段だもん」


 それもたしかに。

 いずれにしても、あのクエストがどういう理由で発生したかはよくわかった。そして、あのボスがやたら強かった理由も──王国騎士の亡霊だなんて、強いに決まってる。

 

 と、ここまで説明してメニーナは「こほん」と咳払いをした。


「それで、その、トビくんにご相談なんですけど……」

「ん? なに?」

「と、トビくん……私と一緒に、ドレ=ヴァロークさんの私有地を管理しませんか?」


 ……なんだって?


「私有地?」

「はい。王都にはドレ=ヴァロークさんの薬草園があるそうなんですが、今となっては管理者がいないとかで。お婆ちゃんから "メニーナさんが信頼する方ならぜひお願いしたい" って……」

「──!」


 おいおい、なんだそれは。

 俺が苦労して土地を借りる方法を考えている間に……なんてものをNPCから引き出しているんだ。


 これにはさすがのウーリもぎょっとしている。


「ま、待ってメニーナ。それって、さっき言ってた王城の……?」

「ああ、いえ。王城の土地はすべて王様のものですから……薬草園というのは、ドレ=ヴァロークさんが個人的な研究のために購入された敷地だそうで。お婆ちゃんが私に、その……せ、生前贈与(・・・・)したいとおっしゃるので……皆さんと一緒に管理できるなら、受け取ろうと思ってるんですが……」

「ぜ、ぜひお願いします……!」


 もうこちらから土下座したいくらいの案件である。


 それにしても、メニーナ先生は相変わらずメニーナ先生だった。

 NPCから「土地を相続してほしい」とまで言わせるとは、一体どれだけ好感度を稼げばそんなイベントが発生するんだ。俺以上のイレギュラーを引いていませんか?


 

 まぁとにかく──

 そういう経緯で、俺たちは明日にでも、その薬草園とやらを見に行く予定を決めた。


 

 ちなみに長らく蚊帳の外だったフルルには、ウーリが食事代を奢ってやっていた。

 最年少なだけあって意外にも可愛げのあるフルルは、「いっぱい食べる」という理由でウーリとメニーナのふたりから見事に可愛がられている。うん、なんか……複雑だな。こいつ殺人鬼ですよ。

 

2章完結です。掲示板回を挟み、3章に続きます。

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― 新着の感想 ―
ウーリはウサ○ちゃん目ぇ怖状態で相手を観察するけどトビは相手そのものを分析する感じかな……? 格ゲーならウーリは操作キャラの弱点をつくけどトビは操作してる人の弱点をつくイメージになりました。
薬草園…そのうち、妙に効果が高いけど目を離すとなんかこっそり蠢いてる感じのする薬草園になってそうで(
高性能なAIだから好感度稼げたらこうなる、と。効率無視したプレイヤーほど発見率は高そうですねー。 しっかし気軽にリアルのこと喋っちゃうネットリテラシーよ...危ういなぁ
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