101 - アンリアル・コミュニティ
──遡ること数分。
仄暗い地下世界には、無数のプレイヤーたちがひしめいていた。
彼らは皆 "夜の魔法" の習得者であり、いわゆる犯罪プレイヤーやPKの集い。
現時点で、彼らがこうして地下で共同生活をしていることを知る者は、同胞以外には存在しない。
なぜ彼らがこの地底に居座っているかといえば──
このマップで挑戦できるPvPコンテンツ "ミッドナイト・フェスティバル" 、これにドハマリしていたためであった。
「よし、マッチ立てたぞ!」
「ありがとーっ! 入れ入れ!」
ミッドナイト・フェスティバルはプレイヤーによる部屋立て形式で開催される。
地底墓にやってきた初回のみ、既存のマッチに強制的にぶち込まれるが、それ以降は自由参加だ。
最大四人×十二チーム、計四十八名が参加可能。
ここにいるメンバーは大体それくらいの人数だった。
だからこそ、今回のマッチは様子がおかしかった。
「……あれ?」
とあるチームが首を傾げる。
入れるはずのマッチに弾かれたからだ。
「あの、アンリアルさん! なんかオレら弾かれた!」
彼らが報告した先は、この地底コミュニティのボス──アンリアルと呼ばれるプレイヤーだ。
「え? 弾かれた? おかしいな、人数的には収容しきれるはずなんだけど」
アンリアル。
彼はごく普通の顔をした男だった。
長耳ゆえにエルフであることには間違いないのだが、エルフらしい特徴はせいぜいそれくらいで、短い黒髪に日本人的な顔つき──
つまりはリアルスキャンそのままのアバターに種族を後付けしただけの容姿をしている。
とはいえそれは自分の容姿に無頓着というわけではなく、「むしろこっちのほうが話題性ありそうじゃない?」という打算の産物であることを、コミュニティの人間であれば誰でも知っていた。
そう、アンリアルは影の薄いプレイヤーであった。
プロチームに所属しているわけではない、けれど競技シーンの常連ではある──いわゆるセミプロゲーマー。
実力はかなり高い方だがイマイチ話題性に欠け、かといって配信などをはじめようにもプレイスタイルには絶妙に華がない。唯一昔からコアなファンを集める自身のブログも、遅筆なおかげでなかなか更新が出来ていない。
要するに、ぱっとしない。
それでもゲームは上手い。あと優しい。
この小さな地底コミュニティのボスとしては、十分以上の人望を持つ男である。
閑話休題。
このときの話題は「参加申請が間に合っていたはずのチームがなぜかマッチから弾かれた」という内容だ。
「……もしかして、誰か落ちてきたか?」
地底墓にやってきた初回のみ、既存のマッチに強制的にぶち込まれる。
それがミッドナイト・フェスティバルのあまりに初心者に優しくない強制チュートリアルだ。基本のスタンスとして、このゲームは夜の魔法使いに対して当たりが強いのである。
まあそういう仕様なので、このマッチには新参者チームが参加している可能性が高いのだが──
「嫌な予感するな〜……」
「え? なんでですか?」
「今んとこ、ここにいるメンバーって俺がマップの入り方を教えたヤツだけだろ?」
「はあ、まあそうっすね」
この地底コミュニティはアンリアルが作った。
身内を呼んで、情報を独占し、常に四十人強のメンバーでマッチを遊べるように仕立てたのだ。
だが今回はそうではない。
アンリアルを通さず、外部のプレイヤーがこのマップに侵入してきたのは……おそらく今日が初めてである。
「今の時点でここまで来れる実力者で、しかも弾かれたのがワンチームってことは新参パーティは四人以内、かつ夜の魔法使いってなると……俺、ひとりしか心当たりねえんだよなあ」
「ま、まさかトビっすか!?」
アンリアルはこくりと頷く。
地底のプレイヤーたちがざわめいた。
「……よし、さすがに今回は俺、ハンデなしね」
「マジっすか! あ、じゃあ全員で囲んでトビ倒すとかどうですか!?」
「それは競技倫理的にダメ。全員トップ目指そう」
「り、了解ッス!」
犯罪プレイヤーたちの倫理観のなさにアンリアルは苦笑いを浮かべながら、さて、と顎を擦る。
「トビくんかあ……きっちいなあ。どうか日ノ宮さんシザーさんがついてきていませんように」
「あ、あいつらってそんな強いっすか?」
「あのトリオだと、二人以上揃ってた時点で無理かなあ」
息を呑む取り巻きたちに、アンリアルは「でも」と続ける。
「現役時代のトビくんには何度もボコされたからね、おかげで人読みも出来る相手だ、今作でも一太刀浴びせてやろうじゃないの」
そう言って、彼は自分のパーティメンバーと肩を組んだ。
「あの、トビってたしか……プレデター・グリーンとの相性がよすぎて "デイブレが全盛期" みたいなこと言われてるんじゃ……」
「うっ……い、いいんだよ。負けるつもりで勝負に出るやつはいないの!」
*
俺とフルルは敵を倒して進む。
といっても、エンカウントするのはプレイヤーよりも、ガイコツやゾンビといったモブモンスターが多い。
モブを倒すとマッチ専用のアイテムがドロップする仕組みらしく、これが今回限りのインベントリに溜まっていく。
また、このゲームではミニマップが表示できる。
マップの情報を頼りにフルルと相談しながら、俺たちは入り組んだ遺跡や墓地を回った。
「次のエリア収縮、このあたり安地入れたっぽいですね」
安地──つまり安全地帯。
エリア収縮が近づくと、収縮に巻き込まれない範囲がミニマップに表示される。つまりそこを早めに陣取ることができれば、しばらくは待ちの体勢でいられる、という意味だ。
ちなみに先ほどは第一フェイズの収縮が終わったところ。
おそらく収縮はあと二段階発生する。
「次の収縮までここらでハイドするか」
「ですね。収縮といっしょに裏から逃げてくるヒトだけカットしましょう。ボク見とくので、トビくん前見ててイイですよ」
「了解」
今回ばかりはメニーナがいなくてよかったかもしれない。
こういうゲームになった途端、専門用語が増えすぎる。PvPコンテンツの悪いところだ。
俺たちは遺跡の影に身を潜めた。
ふと空を見上げると、そこには深い藍色の星空、真上には大きな満月が浮かんでいる。本当に綺麗なマップだ。
しばらく待っていると、ふとフルルに会話を振られる。
「あの、トビくん。アンリアルさんってどんな人でした?」
「うん?」
どんな人か、難しいな。
お互いに同じくらいの位置にいたセミプロだから、大会で当たる機会は多かったが……本人の様子は「接しやすい人」「当たり障りのない人」「ごく普通のゲームオタク」って感じだ。
ただ、フルルが聞きたいのはそういうことではなく、プレイスタイルの方なのだろう。
「アンリアルさん、もちろん存じてはいるんですけど……ゲームタイトルによってビルドの傾向とかプレイスタイルとか全然違うじゃないですか。見ててもよく分かんないんですよ」
「ああ、まあそうだな」
色々できる器用で柔軟な人、というのもその通り。
「あの人はなんというか、コミュニティ作りが上手い人なんだよ」
「コミュニティ?」
「うん。同じキャラ、同じビルドのプレイヤーを集めてコミュニティを作るんだ。そしてとにかく研究をする」
そのキャラの強い動き、強い戦略。
それをひとりで調べるのは不可能だと早々に見切りをつけて、デカいコミュニティを利用した戦術研究から入るのが、アンリアルというプレイヤーのゲーム攻略だ。
そしておそらく──
このミッドナイト・フェスティバルが今日まで秘匿されていたのも、そうした彼のコミュニティ運営の上手さによるものだろう。
「アンリアルのコミュニティは……本ッ当に外に情報を漏らさないんだよなあ」
おかげで何度初見殺しにボコされたことか。
まあそれはお互い様なんだけど。
おそらくデイブレにおけるアンリアルは、"夜の魔法使い" というビルドの第一人者。
そしてこの "エーデルの地底墓" を発見し、身内コミュニティの中だけでビルドを広め、研究を続けている。
「……じゃあ今のボクら、道場破りみたいな感じですか?」
「かもしれないな」
上等じゃないか。打倒、アンリアル一門だ。
メンデルとフルルがいて負ける気はしない。
そうしていると、二回目のエリア収縮がはじまった。
こうなるとエリアは一気に狭まり、ここからは対人戦が激化することになる。
「トビくん、裏来ましたよ」
「糸は?」
「張ってます」
エリアの収縮に合わせて駆け込んでくるワンチームをフルルが発見。
プレイヤーたちがこちらに駆けてくるのを、俺たちはここで迎撃する。
そしてこの暗闇の中で、フルルの糸は本当に強かった。
先頭を走っていたやつが足を引っ掛ける。
それを合図にフルルがぐっと五指を引けば、糸は他のプレイヤーにも襲いかかった。
「な、なんだっ……!?」
「俺の足が!」
そして足を止めた彼らを、俺は狙い撃つ。
「エンチャント・クアル」
さあ、実戦初投入のバフ魔法。
いわゆるエンチャント系の魔法だが、内容としては「結晶・宝石系の武器を強化」「宝石系アイテムによる魔法増幅率を強化」ということらしい。
この魔法、最近まで俺には全く縁がないものだと思ってたのだが──
「よく考えたら、"塩" も結晶扱いだったよなあ」
俺は、威力の増大した塩の弾丸を乱射した。
広範囲を一斉に薙ぎ払う弾幕だ。
機関銃さながらの勢いで撃ち出された結晶弾は、これまでとは比べ物にならない威力でプレイヤーたちを撃ち抜き、そのまま沈黙させる。
「これでよし。俺たちも動くか」
「トビくん、最近は飛び道具強化月間ですねえ」
「たしかに。ブランクありすぎてエイム終わってるけどな」
この広範囲掃射に助けられています。




