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001 - 開幕、地獄絵図


 開幕ピンチ。

 一言で言えばそれだ。


「う、うわあああああッ!」

「やめろ、離せよぉ……ッ!」


 地獄絵図。ああ、まさに地獄絵図。


 地面から湧き出る巨大な植物型モンスターたちに、ずるりと取り巻かれて捕まるプレイヤーたち。

 空中に吊り上げられ、バタバタともがいているが……ろくにスキルの揃っていない今の腕力では振り解けるわけもない。


「ひいっ……!」

「や、やめて……マジでやめろって!」

「キモいキモいキモいキモい──ッ!?」


 ──ぶちゅりっ。


 そんなグロテスクなSE──サウンドエフェクトと共に、身体に植物のツタが侵入する。

 びくびくと痙攣して、やがて彼らのアバターは動かなくなった。


 おそらくあれで死に戻りだ。

 アバターが消滅せずに残っているのは、今回限りの特殊演出だろうか──ぶくぶくと肉が蠢いたかと思えば、残されたアバターから同じ植物のツタが生える。死体は中途半端に融合したままの状態でふらふら徘徊し出す。


 つまり寄生を特徴とする植物型モンスターだ。

 倒したプレイヤーの死体を元に増殖し、数が増える。どう考えても事前体験イベント(・・・・・・・・)で出していいモンスターではない。グロすぎるしエグすぎる。なんてトラウマ演出だよ。



 そんな植物型モンスターに、俺も今、こうして組み敷かれている。




 *****



 本日はとある新作VRMMOタイトル──その正式リリース前日(・・)だった。


 事前購入特典として100万人近くが参加する本日のレクリエーションイベントでは、明日から本格始動する製品版と同じシステム、同じ使用感でアバター操作を体験できる。


 事前に選んだスキル2種と、ランダムに与えられる汎用スキル3種。

 これらを駆使して、用意されたイベントフィールドでサバイバルを行おう。


 死に戻りはいくらでもOK、デスペナルティも一切なし。成長したスキルやイベント中に新たに取得したスキル、手に入れたアイテムなど得たものはすべて明日から開始の本サービスに引き継げるぞ──という趣旨のイベントらしいが、このときの俺は大した理解もしていなかった。


 そういうわけで、アバターの容姿と事前に選べるスキル2つを選んだ俺はイベントマップにランダム転送された。



 そして今に至る。



「いくらランダムって言ってもさぁ……ちょっとは配慮しろよ、運営」


 相変わらず地獄絵図の真っ只中だ。文句のひとつも言いたくなる。


 俺を含む数名のプレイヤーが転送された先は森の中。

 誰かが不用意に数歩進んだ瞬間、そいつの足は地面に伏せられていたツタに巻かれて宙に浮いた。


 連鎖するように動き出す植物型モンスターたち。逃げようとしたプレイヤーから優先的に攻撃を受け、呆気なく死に戻りしていく。残されたアバターを苗床にして、モンスターたちは増殖する一方だった。


「え〜ん……トビくん、助けて……」

「お前よく俺にそれ言えたなぁ」


 同じく目の前で植物型モンスターに組み敷かれ、泣き言を吐くこの女は日ノ宮(ひのみや)ウリ──プレイヤーネームはウーリ。一応は俺の友人だ。


 俺をこのゲームに誘ったのもこいつだし、最初の転送地点を決めるルーレットを俺の分まで回しやがったのもこいつ。

 夕陽のような朱色の髪をぐしゃぐしゃにして、うつ伏せに倒れている。顔は見えない。ぐずったような声色で何やらウダウダと訴えるが、多分半笑いだ。


 とはいえ……


「助けるって言ってもなぁ……」


 むしろ死にそうなのは俺の方だ。

 今さっき、背後から聞こえた「ずぷり」というSEと共に、すでにやつらは俺の中に侵入している。


 いやぁ、すごい。

 マジで気色悪いこの感覚。

 全身の筋繊維の隙間に生ぬるいスライムを流し込んだような異様な感覚だが、ゲーム故に痛みは一切ない。それがまた気持ち悪い。


 ウーリの方にはまだ植物が侵入していない。

 この調子では死ぬのは俺の方が先だろう。だが、ふと気付いた。


 

 HPが減らない。



 俺の視界の片隅に表示されているHPバーは、いつになっても減少の兆しを見せない。

 それどころか、体内にずっぽりと収まったはずの植物たちは、やけに大人しい。ぴくりともしない。


 他のプレイヤーは、侵入された瞬間にHPが0になって死に戻りしていたはずなのに。

 

 倒れ伏したまま顔を上げれば、同じく顔を上げたウーリと目が合った。

 なんだなんだと訝しげにしかめっ面をしている。


 やっぱり泣いてないじゃねえか。


「トビくん早く助けてよ〜」

「いや、だから助けて欲しいのは俺の方なんだけど……」


 ウーリに覆いかぶさった植物型モンスターがゆっくりと動き出す。

 彼女は「ん゛〜!」と伸びをするように身体を捻るが、やはり脱出は不可能だろう。


 俺も同じように身体を起こそうとして──起きた。


「えっ」


 起きれた。

 起きれちゃった。


 そのまま転がるように勢い付いて、助走をつける。

 跳んで、振りかぶる脚。空中回し蹴り。


 今まさにウーリに侵入しようとする植物型モンスター、その本体と思われる部位を思いっきり──蹴り飛ばす。



 モンスターは、吹っ飛んだ。



 吹き飛ばされた巨体が地面の上を何度かバウンドし、小型の植物を巻き込んでゴロゴロと転がっていく。

 その身体は青いポリゴンとなって消滅し、俺の経験値へと変わった。


「…………」

「…………」

「トビくん?」

「話しかけんな、俺なにも知らないから」


 …………。

 全然動けるんだけど、これ、いいの?




 *****


 


 序章 - FLOWER POT MAN


 日時:本リリース前日

 現在地:イベント用-ビオトープアイル南西部

 接敵済み:徘徊型ボス-プレデター・グリーン

 

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