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警視庁マイナス課  作者: 西沢 陸
百鬼連盟編
23/35

21話 恐怖の進行


 戦争開始から一時間が経過した。

 結果から言えば、戦況は人間側が圧倒的に優勢だった。

 というのも、このひと月、人間側は橋渡を中心にして、人員の配置から連携時の相性まで熟考して、戦略を練り続けてきた。集った人員も精鋭揃いで、足手纏いなど一人たりともいない。一丸となって、この戦いに勝ちに来ている。


 反対に『百鬼連盟』は、一体一体の力は大したものであったが、組織としては烏合もいいところだった。各々が勝手に暴れているだけで連携のれの字もなく、挙げ句の果てには味方の技に巻き込まれて同士討ちしてしまう始末である。


「む、ムリだ」


 妖魔の一体が言った。巻物に出てくる地獄の餓鬼みたいな形の妖魔だった。


「こんなの勝ち目ねェじゃんよ……」


 声は震え、足も産まれたての子鹿のようだった。


「もうイヤだ! お、俺は逃げるぞ!」


 戦場から踵を返して、餓鬼は走り出した。


「お、おい、待て! 卑怯だぞ!」

「そんなんだったらオレも」

「自分も!」

「私も!」


 恐怖は伝播し、妖魔たちの士気を削いでいく。続々と餓鬼に続いて逃走を図る。妖魔最大組織『百鬼連盟』が瓦解しようとしていた。


 その時だった。


 いち早く逃げ出した餓鬼の頭を、上空から降ってきた閃光が掻き消した。


「え、あ、え?」


 逃げ出した妖魔たちの足が止まり、光線の発信源を見た。妖魔だけじゃない。人間たちも予定外の援軍の正体を確認するため、見上げた。

 場所は渋谷の観光スポットでも有名な展望台だった。

 その安全柵に男が一人腰掛けていた。月光で輝く銀の髪が特徴的な男で、それはまごうことなきぬらりひょんだった。


「さて、みんな」


 大声を出したわけじゃない。しかし、ぬらりひょんの声はスピーカーのように渋谷駅全体に響いた。


「みんなの中に、仲間が必死で闘っている状況で、恥ずかしげもなく逃げ出そうとする卑怯者はいないよね。もしいるなら、――僕の方から()()()()()()罰を下すからよろしく」


 言葉はそれだけだった。

 ゾッと妖魔たちの背筋に悪寒が走る。


 恐怖を塗り潰すのまた恐怖。


 我先に逃亡しようとしていた妖魔たちの顔が、再び戦場の方に戻り、さっきまで以上の必死の形相で、津波のような勢いで一心不乱に人間たちに襲いかかった。


 ※


「おー、あんなところにいたんだ」


 敵味方問わず、ぬらりひょんの所業に戦慄している中、誠は手をかざして月光から眼を護りつつ、その姿を確認する。


「何をボサっとしてますの! 動きを止めたらさっきの妖魔みたく光線でやられますわよ!!」

「え? なんで?」

「なんでって……、今の見ましたわよね!? 上から狙われたらひとたまりもありませんわ!」


 状況を理解していない誠に、キララが語気を強めて説明する。逃亡を図ったとはいえ、味方を狙撃したのだ。であれば、敵である自分たちの実はもっと危ないのは道理である。キララは正しい。何一つとして間違えていない。なのに、誠は首を傾げていた。


「そんなことしないと思うんだけどなぁ」

「何を根拠に言ってますの!?」

「うーん、勘?」


 がっくし、と腰が砕けそうになるのを耐えるキララ。ホントにコイツはなんなんだ、と怪訝を隠さずに誠を見る。


「……ですが、貴方の言う通り、撃ってこないのもまた事実ですわね」


 このやり取りをしている間も、二人は棒立ち状態で格好の的だった。にも関わらず、一向に光線は飛んでこない。

 改めてぬらりひょんを見ると、認知自体はしているのか、ひらひらと笑顔でこちらに手を振っていた。


「……どういうつもりですの?」

「それがちょっと分かんないんすよねぇ……。直接訊きに行きたいところなんですけど」


 チラリと誠が戦場に視線を戻した。

 さっきのぬらりひょんの脅迫じみた発破の効果で、妖魔たちのボルテージがMAXに上がりきっている。加えて、今しがたのキララと同様に、ぬらりひょんの光線を警戒しているのもあってか、優勢だった戦況が若干傾いて来ている。

 ぬらりひょんの思惑は気になるが、先に地上の妖魔たちをなんとかしなくちゃなぁ、と誠が思っていたら、


「いいですわ……。行って来なさい」

「あれ? いいんですか?」

「ええ。どっち道誰かは行かないと行けませんから、そう考えた時、今日この場にいる人間で最も勝率が高いのは、……業腹ですが貴方ですわ」


 恐怖の具現化とも言えるかの妖魔とやり合えるのは、恐怖のない誠だけ。これは認めざる得ない事実だ。


「この場の貴方の分は、私と竪山で受け持ちますわ」


 さらりとキララが言ってのける。近くで今のやり取りを聞いていた竪山が、「えっ、自分の分で限界なんですけど」と目で訴えてきているが、金髪の君は意に介さなかった。


「じゃあ、お言葉に甘えて行って来ますね〜」


 誠は遠足でも行くみたいに手を振って、ぬらりひょんのいる展望デッキを目指して走り出した。

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