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警視庁マイナス課  作者: 西沢 陸
百鬼連盟編
22/35

20話 開戦

 

 ※


 話し込んでいるうちに、時刻は五十九分を超えていた。


「あと、三十秒」


 いよいよその時が来たと、竪山が唾を飲む。竪山だけでない。キララも他の同僚たちも、ただ一人誠を除いて、全員が緊張していた。

 そして、日付が変わったのと同時だった。


 バン! 


 と、下から噴水にでも押し出されたみたいに、渋谷駅周辺のマンホールが一斉に吹っ飛んだ。

 そこから、無数の影が這い出てくる。影は、そのほとんどが人の姿をしていなかった。動物を模したようなものもいれば、傘や鍋のような道具みたいな形のものもいるし、見たことがないものまでいる。


「来ましたわね」


 すぐに影の正体が妖魔だと察知し、槍、双剣、盾と各々の武器を展開させる。


「こっちからも来たぞぉ!!」


 同僚の一人が叫び声を上げた。見ると、渋谷センター街の出口から、今までどこに隠れていたのか、大型の妖魔が列を成して現れた。

 センター街からだけではない。道玄坂や他の通りからも続々とやってくる。総数はパッと数えただけでも百を超えている。


 まさに魑魅魍魎による百鬼夜行だ。


『さぁ、開戦といこうか』


 どこかで妖魔の頭目がそう言った。


 ※


「うぉおおおおおおおおおおお!!」


 開戦の狼煙は、六メートルを超える赤鬼の雄叫びだった。


 絵本から飛び出してきたようなその鬼は、やはり絵本でしか見たことないトゲトゲの金棒を担いで、全力でこちらにダッシュしてくる。その自重に大地は耐えられず、ひと踏するたびに、道路に巨大な足跡が残っていた。

 赤鬼の狙いは誠たちだった。恐らく、唯一集団で固まっていたのが目についたのだろう。


「死ねぇ! 人間共!!」


 三人まとめて消し飛ばすために、金棒が横にスイングされる。風切り音を纏った一撃。当たればひとたまりもない。当然、竪山とキララは防ごうなどと思い上がったマネはせず、大きく飛んで躱わす選択肢を取った。

 だが、誠だけは一歩も動かず、挙句の果てには嬉しそうに舌なめずりすらして、盾を構えた。


「ウソだろ!?」

「バカですの!?」


 二人が、誠の愚行に愕然とする。しかし、もはや無事を祈る暇すらない。金棒が誠に迫る。

 その破壊力は、先月誠を吹き飛ばした幻蟲の脚よりも確実に上だ。――故にこそ、


(おあつらえ向き!)


 誠とて、この一ヶ月間、何ものほほんと遊んでいたわけじゃない。暇を見ては、橋渡や綾音と特訓をしていた。その成果として、この赤鬼は申し分なかった。

 まさか、こんな初っ端から機会に恵まれるとは思っておらず、喜びを胸に、誠は正面から金棒を盾で受け止めた。


「ぐぎぎ」


 歯を食い縛り、肘の内側に反対の手を差し込んで十字の形を作って腕を安定させ、全身全霊で耐えてみせる。

 そして、


 僅かに押されこそしたものの、見事防ぎ切ってみせた。


「なんだと!?」


 自慢の金棒を止められて、赤鬼が動転する。その隙を誠は見逃さず太ももに力を入れて、垂直に勢いよく跳んで、赤鬼の顎に拳を叩き込んだ。


「ごふっ」


 どうやら、顎に衝撃が走れば脳が揺れるのは同じらしく、赤鬼は千鳥足で数歩後退する。しかし、流石は怪異の代名詞なだけはあって、決して地面に背を付けはせず、ギリギリのところで立っている。

 だから、


「もう一発っ!」


 今度は上から、盾を両手で振りかざして、赤鬼の眼と鼻の間あたりに、思いっきり叩きつけた。


「……がっ」


 急所に二発。さしもの赤鬼もこれには耐えられず、白目を剥き出しにして渋谷のど真ん中で倒れた。


「よし、幸先良いや」


 自身の成長を実感しながら、スタッと伸びている赤鬼の隣に着地する。


「大丈夫ですか!?」


 誠の元に、焦った顔で竪山が駆け寄ってきた。


「ええ! 無問題ノーマンタイです!」

「そ、それはそれで、どうかしてますよ」


 心配していたはずなのに、本当にピンピンしている誠の姿を見て、竪山は若干引き気味になる。


「全く、無茶しますわね」


 キララもやれやれと言った具合で深く息を吐いていた。


「勝てたから良かったものの、もし防ぎきれていなかったら、貴方死んでいましたわよ」

「イヤだなぁ。そん時はそん時じゃないですか」


 キララの苦言を、軽く笑い飛ばす誠。


「……あの子の苦労が分かりますわね」


 この場にいないライバルの心労を察して、キララは頭を押さえた。


「おい、赤鬼の奴、早々にやられちまったぞ!?」

「俺が全員ぶっ殺すって息巻いてたくせに!」

「どうするよ!?」

「バカっ! やるしかねぇだろ!」


 赤鬼のリタイアは、妖魔サイドにしても衝撃だったようで、慌てふためいていた。しかし、同時にこれが逆に覚悟を決めさせてしまったようでもあって、妖魔たちは眼を血走らせながら、ジリジリと距離を詰めてくる。


「――と、やってる場合じゃなかったですわね」


 妖魔たちの殺気を感じ取って、キララが深く構えなおす。


「やりますわよ!」

「「了解!」」


 キララの言葉を合図に、三人が妖魔に立ち向かった。


 切り込み隊長を演じたのはキララだった。


「五月雨突き!」


 ほぼ同時に放たれた高速五連の突きが妖魔たちを蹴散らしていく。


「げええ! 強え!?」

「なんだよ! この女も強えのかよ!」

「ふざけやがって!」


 口々に妖魔たちがクレームを飛ばしてくるが、キララは耳を貸さない。優雅で、それでいて豪快な、彼女の性質をそのまま映し出したかのような槍捌きで妖魔を一掃していく。


「どけぇ! オレ様がやる!」


 他の妖魔たちをかき分けてキララに向かってきたのは、先ほどの赤鬼よりもさらにひと頭大きい、三つ目の巨人だった。


「オレ様の剛力で捻り潰してやる!!」


 三つ目の巨人は宣言通り、両手を大きく前に出して、キララを捕えようとしてくる。


「上等ですわ」


 キララも引かず、槍を握る手に力を込めて、迎え討とうとしたところで、


「下がって!」


 竪山が、キララの前に出た。


「ちょっ、何して!?」

「なんだテメェは!?」


 敵味方両方から驚愕される。しかし、竪山はそれらを軽やかに無視して、三つ目の巨人に向かって跳躍した。


「このっ! だったら、テメェから潰すだけだ!!」


 三つ目のターゲットがキララから竪山に移る。腕の軌道を変えて、竪山を叩き潰そうとするが、その時にはもう彼の準備は完了していた。

 両手を交差させて、双剣に霊力を溜める。そして、


「クロスエンド!!」


 斬撃の瞬間に一気に霊力を解放し、必殺の技が炸裂した。

 竪山がスタッと着地したのと同時に、四分割された巨人の肉体が地面にボトボト落ちた。


「ちょっと、どういうつもりですの!!」


 手柄をネコババされ、憤慨したキララが竪山に詰め寄る。


「すいません。ああいう手合いは自分の方が相性が良いと思いまして」

「だからって割り込んでくるのは非常識ですわよ!」


 ぷりぷりとキララが怒って、ぺこぺこと竪山が謝る。


「……まぁ、私は寛大ですから、今回に限っては許してあげますけど、……それにしても、意外にやりますのね貴方」

「ありがとうございます! これでも結構、必死に訓練したんです。――もう、足手纏いになるわけにはいきませんから……!」


 グッと竪山が双剣を強く握りしめる。

 伊高屋の一件を知らないキララには、その意味は分からなかったが、その心意気は伝わったようで、「そうですの」と優しく苦笑した。

 打って変わって絶望する者たちがいた。妖魔たちだ。


「嘘だろ。三つ目入道までやられちまった……」

「全員強いのかよ!?」

「一人ぐらい弱くあれよ! そうすれば人質取れるのに!」

「こ、コイツら以外は!?」

「ダメだ! どいつもコイツも只者じゃねぇ!」


 ギャーギャー喚いて、必死に生き延びる道を探していると、


「隙あり!」


 誠が、作戦会議中の妖魔たちの脳天に、モグラ叩きみたいに盾をガンガン振るっていく。


「ちょ、待っ! 流石にそれは無慈悲すぎじゃ――ぐきゃ」


 誠たちの周囲にいた最後の一体を叩き潰す。


「ふぅ」


 まるで一仕事終えた農家のように爽やかに誠は額の汗を拭った。


「……これと一緒にされるのは心外ですわね」

「ですね……」

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