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警視庁マイナス課  作者: 西沢 陸
百鬼連盟編
11/35

幕間

私の姉――水蓮寺楓は天才だった。


 対妖魔の剣術において、名門中の名門である音無流の免許皆伝を、経ったの八歳の時に取得し、一〇歳になる頃には、当時の退魔士たちを苦しめていた大嶽丸という大妖魔を、一対一で屠ってしまう腕前を誇っていた。

 その圧倒的な実力から付いた二つ名は『天剣』。これは当代最強の剣士に与えられる称号であり、当然ながら現在進行形で歴代最年少記録である。


 実力もさることながら、姉は性格も優れていた。


 強きに寄り添い弱気を護る。悪に屈せず善に媚びない。天真爛漫にして大胆不敵。決して力をひけらかすことはなく、いつだって他人の為に動ける人だった。お調子者だったのが玉に瑕だったけど、私はそんなお姉ちゃんが大好きだった。

 私だけじゃない。パパもママもアキラさんも橋渡さんですら、お姉ちゃんに関わったことがある人はみんなお姉ちゃんが好きだった。


 お姉ちゃんはいつだって世界の中心だった。「この世界が物語だったなら、きっと彼女が主人公だろう」誰かがそんな風に言っていた。

 私はそんなお姉ちゃんに追いつきたくて、追いつけないまでも恥ずかしくない妹でありたくて、一生懸命努力した。見た目も似せようと、髪も伸ばした。


 そして、十二歳の時、音無流の免許皆伝を取得した。お姉ちゃんより四つも遅かったが、それでよかった。お姉ちゃんと同じになれただけで私の心は満たされていた。


 ルンルン気分で家に帰った。お姉ちゃんはきっと褒めてくれる。ママはきっとご馳走を作ってくれる。パパはきっと泣いて喜んでくれる。

 心が弾んでいた。身体は軽くて、空だって飛べそうだった。明るい未来を疑わず、私は勢い良く玄関のドアを開けた。


 そこにあったのは、肉塊となった家族だった者の姿だった。


 両親は頭蓋骨を握りつぶされていて、姉は心臓を貫かれていた。

 真っ赤な血がダイニングを塗りつぶし、飛び散った肉片は腐臭を放っていて、ここが十二年間過ごした家だとは思えなかった。


 悲鳴は上げなかった。というよりは上げられなかった。眼前の光景が現実だと思えなくて、只々茫然としてしまっていた。


 すると、チャプンと血の海が波打った。


 ゆっくりと意識をそちらに傾けると、何かがそこにいた。


 すぐにそれが妖魔だと気が付いた。そして、この惨状を起こした犯人であると。だって、その妖魔の肉体は、血で染まっていたから。


「なんだ、妹もいたのか」


 妖魔は私を見るなりそう言った。

 その声を聞いて、私はようやっと我に返り、同時に荒れ狂う怒りが全身を支配した。


「アァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 絶叫して、妖魔に襲いかかる。


 私の意識はそこで途絶えた。


 ※


 瞼を開けると、シミひとつない白い天井があった。


「またあの夢……」


 いや、違う。あれは夢じゃない。あれは記憶、忌々しい十年前の記憶だ。


「……汗、すごい」


 ゆっくり上体を起こすと、服がびっしょり濡れていることに気がついた。どうにも不快感が凄まじい。一刻も早く洗い流す為に、私は風呂場に向かった。


 脱衣所で服を脱いで、一度だけ鏡と向き合う。


 私の身体には、ヘソから胸下にかけて、貫かれたような大きな傷跡がある。


 これを見る度、私の奥底から沸々と怒りと憎しみが混ざり合ったマグマみたいにドロドロした感情が湧き上がってくる。


 この傷は、私の一家を惨殺した妖魔につけられた傷らしい。らしいといのは、この傷をつけられた瞬間を私が覚えていないからだ。夢の通り、私は家族を殺した妖魔に立ち向かった。そして、一秒の間もなく返り討ちに遭い、気がついた時には病院のベットの上だった。

 担当した医者曰く、生きているのが奇跡だったという。


 私は生き残った。生き残ってしまった。だったら、やるべきことは一つ。家族の仇を取る。何がなんでも。

 家族を殺した妖魔の正体は分かっている。

その妖魔は、オカルトに興味のない人間でも名前は知っているであろう大妖怪だ。しかし、知名度に反して詳細は大して分かっておらず、現状判明しているのは、『百鬼連盟』の実質的支配者であるということぐらい。積極的に表舞台に立たないくせに、時折私の家族に行ったような大事件を起こす、掴みどころのない存在である。

人類が奴を認識してから三百年経過以上、一度たりともその刃はかの妖魔に届いていない。


「それがどうした……!」


 であれば、私が最初になれば良いだけの話。


「絶対に許さない」


 必ず討ち滅ぼす。私の人生はその為にある。

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