プロローグ 不滅の彗星
世界災厄の魔王が爆誕して軽く1000年は経ったかもしれない今日このごろ、この王国は豊かな暮らしを拡げて様々な人たちが生活しています。
いつも通りのほほんと過ごしている街人もいれば、街の警備にあたる王国直属に派遣されたゴツゴツした鉄の鎧をまとった衛兵がいたり、必需品の売り買いをしてくれる商人など。
王国は高さ16mの高い壁に覆われている。
国内屈指の高さの壁のため襲撃はおろかモンスターやアンデッド対策に地面にも壁を埋めているので入ってこれない設計になっている。
直属派遣の衛兵たちの仕事もあっての平和な為、王国に尽くす我々は恩人そのもの。
衛兵たちの凱旋部隊が通ると街人たちは栄誉を称える。この王国に恥じない活躍としてくれたことにだ。
◇◇◇
ある日の彗星の降りしきる夜、満天の星空、そこからが悪夢の始まりだった。
王国全体で壁外調査を行ったところ、あの彗星には強力なナニかが含まれていることによって壁外モンスター達の行動は活性化してより一層凶暴な生物になっていた。
王国直属の天文学部のソラン氏曰く
「観測によると、普段降る彗星は量があまり多くないのに比較して、今回の彗星は特例。まさに異常、こんなに多くの彗星が瞬く間に降り注ぐ現象は過去の文献からは発見されているがこれに匹敵しない。」
とのこと。
彗星、別名:ほうき星とも呼ばれる。
氷やちりでできた天体らしい。
彗星を観測することは全く珍しくはないのだがあまりにも観測される量が多いと聴衆に言い回していたほうがいいので私がそう伝えた。あまりにも町人たちには難しい言葉は聞き入れづらいであろうとの見解だ。
◇◇◇
「面会の時間だ。」
私は王国直属の衛兵でもなく、天文学者でもないただの英雄になりたかった王国直属軍隊の将校、大佐だった。はずなのだが、第5次魔物討伐戦線で兵士たちの指揮を取っていた時に起きた。
一人の一等兵が私の命令に逆らい気が動転でもしたのだろうか狂った形相で魔王軍に突っ込んでいってしまった。もちろん、その一等兵は無惨な姿へ変貌してしまった。
魔物の幻惑かなにかなのか、はたまた目の前にした魔物に気が動転でもして特攻してしまったのだろうか。
立て続けに直属兵士たちも突っ込んでいってしまった。
戦が終戦に誘われると私は戦場で鉛のようにぐったりとしてしまっていた。
あたりを見回す。
身内者は誰もいない、亡骸だけが残った。
荒れ果てた荒野、枯れる木々、年が衰えたかのようにしぼむ仲間たち。
この時初めて自分の惨めさを知った。
自分自身の傷は深く、出血多量で血が出続けていた。
体は痺れているが四肢の感覚はなく生きている心地すらしなかった。
幸い、唯一無事を確認できたのが資格による伝達だった。私は五体満足で倒れていた。
欠けるところはあれども機能性は分からないが無事であったのが何よりだ。
などと思い出に浸っていると肩を叩かれた、優しく。
同僚のサイフだ。
「おい、アヴァン、どうしたんだ?黄昏れていて、妻のことか?」
「あ?貴様、何の用だ」
「なぁ、その目つきどうにかしたらどうだ?恐ろしく凄い剣幕だ。今ならドラゴンだって殺れるんじゃないか?」
「黙らないか、コンプレックスなんだ。それに注意されて治せるもんでもない。なんならサイフが治してみせろ」
椅子を引いて座った。
他にも席はいくらでもあるというのに奴はわざわざ真正面に座ってきた。全くもって嫌なやつだ。
もう少し座る席を考えたらどうなんだ?気が散る。
「ほんの冗談だよ、ジョークが効かないな」
「ごめんなノリが悪くて」
「ハッハッハ!」
「実に不快で馬鹿らしい高笑いだ。はぁ…それで、貴様は何の用で俺に話しかけたんだ?」
「用は…お前、面会の時間だよな」
面会…
やはり考え事はあまりしない方が良いのか。
奴も吹き飛ぶような勢いで立ち上がった。
しかし微塵も動かなかった
「さっきからずっと雰囲気が変わらないな!元気なのか?」
「あーあー!うるさい、頼むから喋らないでくれ。俺が消えるかお前が消えるかどっちだ」
「元気だな。お前に一票だな」
口も利かずに黙って勢いよくドアを開け勢いよく閉めた。
まったく…久しぶりに会ったと思ったら苛つかせるやつだったのか。
少しは自分の時間というものを作らせてほしい。
土足で踏み入れるのは以ての外だ。
ポケット中に両手を突っ込みながら照明の少ない薄暗い廊下をただただ歩いていく。
響く音は鳴る革靴だけだ。
「さてと…」
今は、派遣の裁判官として生計を立てている、中々公平に審判するのが難しいところ、が…今回のお客はどうやら曲者らしい。
時間まで未だあるので桶に入っていた水を一口分汲んで飲み、濡れた口を自分の腕で拭った。
「やぁ、アヴァン君。」
「お久しぶりです、フィークスさん」
「今回のリスト、見たかね?」
「はい、抜かりはありません。ところで、こいつの出生が不明というのは…」
フィークスさんは咳払いを一つ二つとし、ワンクッション置いた。
「あぁ、その事か。あれはな、名乗らなかったんだ。あれに関しては私にもわからんのだ。」
「名乗らない?こんな窃盗をした者が…名乗るのは義務ではないのですか!?」
「名義であるはずなんだがな…」
息を呑んだ、生暖かい生唾。
喉は先ほど潤したはずだが妙な喉の渇きだ。
「な、なんですか…」
「覚えていないらしいんだ、てんで記憶がまるでないらしい困ったもんだ。」
おかしい、必要事項なものはほとんど名乗れているはずなのに、なぜ故郷は答えられないのか。
「そんな偶然あり得ますかね」
「奇跡でも起こらん限りな」
お互い首を傾げて唸るしかなかった。
腕を組み深々と明日に座り込み時に顎を擦る。
裁判長は眼鏡を上げレンズが光った。
「もしかしたら、魔の者なんじゃないでしょうか」
「それはあり得るな」
「えぇ…魔の者の出身地はどこなのかもわからない、ましてや我々の世代の科学をもってしても調査が一向に捗らないのはそういうことなんでしょうね。」
再び唸ると、時刻を尋ねた。
「16時55分、5分前行動は基本だからな。行こうか」
肩を優しく叩き出発を促した。
フィークスさんが席をお立ちになってから続けて席を離れた。
講義所は、廊下を突き当たった左側、9蝋燭の部屋だ。
「失礼します。」
続けて深々と頭を下げ指定の席につき着席した。
被告人はまだ到着していないみたいだ、もう一度リストアップされた用紙を注意深く隅から隅まで舐めるように見回した。
抜かりはないとほざいたが一応の再確認と抜けがないかだ。
「やはりこの部分、嫌に引っかかりますね。なんだか気持ちが悪いです」
「あぁ確かにな。そうだアヴァン君」
「はい」
「今日は早上りかね?」
「はい、残業は嫌なので」
「正直だな、しかし本当のことを言うと?…」
「妻の誕生日なので…」
「ハッハッハ!家族思いだな!私の女房はそんなの気にせず私に尽くしてくれている、私もそれに応えねばな。」
「その言葉お返ししますよ、ではそちらも?」
「あぁ、少し業務というかすることをして上がるつもりだ。なにか土産にする物はあるのか?」
「いえ、まだ何も考えていないです、はは…」
恥ずかしながら頭を掻く。
「花なんかどうだ」
「名案ですね」
そうだなあいつはパル・スイートの花が好きだったからな、帰りに買っていこう。
「では勤務終了後に門前にいてくれないか土産を買いに行こう」
再び時刻を見ると17時を過ぎた。もうそろそろ被告人が来てもいい時間なのだが、フィークスさんの顔色を伺うが重く真剣な顔をし、ただ待ち人を待ち続けるだけだ。
「失礼します。少々ばかり遅れてしまったことを謝罪いたします。只今、被告人を連れてきたことをお知らせいたします。」
空気がガラリと変わり皆の背筋が一段と伸びた。
フィークスさんのように顔を重くし、目線を痛くさせる、まるで針を刺されるように痛い。
◇◇◇
被告人は罰金と更生施設に収容されるだけで済んだらしい。
正直、窃盗の内容にもよるが今回の場合は軽い窃盗というのもあるのでこの結果だが、この国の犯罪はかなり重く設定されている。法律の公定書に記載されている、これは一般市民や役人、商人などあらゆる階級、職業の者が見ることのできる代物。
王国花屋支店ザルヌ店、今宵この場にやってきた。
「私の妻はパル・スイートの花が好きなのですよ」
「ほぉ、これまた粋な花を…何か理由でも?」
「妻この花の香りが好きなんですよ。なんでも、ほんのり甘くハチミツのような匂いがするとか。私も染まりやすいのかこの花、好きなんですよ。」
「ふむ、よいな!私の女房はこの、ポプリンが好きなんですよ。深紅に染まった情熱、女房の好きな色が紅なんでね。」
「では決まりですね。」
花瓶に入るほどの束を買い、紙に包んでもらった。
ほんのりと黄色く、甘い匂い、これが人を惹きつける魅力があるかもしれない。
もしかしたら妻は知らないかもだが、花言葉は「静かなる愛の叫び」だ。知っていても妻の好きなものを買うという使命はどちらにせよ果たされているので問題はない。
花言葉
パル・スイート:静かなる愛の叫び
ポプリン:変わらない気持ち