序章 色がついていく日々 変わる僕
これは、少しずつ変わっていく、少し弱い僕の物語
甘くて苦くて、そんな話。
午前4時30分
起きるには早すぎるだろうか。昨日はいつ寝たんだっけ。寝ぼけた頭では思い出せないな。
そんな事を考えながら、スマートフォンに手を伸ばす。パスワードはなんだっけ。メモ書きした紙に手を伸ばす。そうだ。469830。なんでこんなパスワードにしたんだっけ。思い出せないや。
とりあえず、snsの更新を見る。最近ちゃんと見ているのは、zくらいか。エンスタは、全く見なくなってしまった。あまり友達がいないのもあって、更新もしないし、ストーリーにも興味が無いから、自然とやめてしまったな。
zは昔からずっと続けられている。一種の習慣みたいなものだろうか。最近は少しだけフォロワーが増えたのもあって、こんな時間でもTLは賑やかだ。
とは言っても、今の自分と似たような人ばかりで、ODだとか、お酒だとか。売春だったり、そんな投稿ばかりだ。
そういやいつからこんな風になったんだっけ。バイトを辞めた時だっけ。恋人に振られた時だっけ。自分に期待出来なくなってからだっけ。
ああ、思い当たる節がありすぎる こんな考え捨てなきゃいけないな あれ、これ毎日言ってるっけ 何回目の捨てようだろう 出来ないのに言ってしまう そんな自分が嫌いなのに、変えられない いや、変える気がないのかもしれない はは、笑えてきた
とは言ったものの、最近は少しだけ嬉しい事もある
zで仲良い子ができた。いいねをしあったりする仲にまでなれた。少しだけDMをするようになった。居心地のいい人だなと思う 歳は自分より下だが、大人な考えだなと、投稿を見ていて感じる 自分が同じ歳だった頃を思い出して、少し情けなくなった 改めて、子供だったな。
zを一通り見きったら、時間は6時30分。もうそんなに見ていたのか。時間ってのは経つのが早いなと、zを見ているとふと思う。
最近始めたバイトへ行く時間は8時。早く支度をして、行かないと。あの子がいなかったら、まだバイトは出来ていなかっただろうな、とふと思った 少し依存しているのだろうか いや、違うよな、大丈夫、だよな。
身支度が終わった。今日も怒られるのだろうか いや、行く前にこんな考えはやめよう。誰もいない部屋に向かって、行ってきますと呟いた。
ドアを開けてみると、雪が降っていた 天気予報を見ていなかった 寒い。次はちゃんと見よう。って、前も考えたんだっけ 何回同じことをしてんだろうな…
こんなこと考えたって仕方ないか。とりあえず、頑張って歩こう。
寒いけど、たどり着けた バイト先は飲食店だ。雪なのもあって、今の時間帯はお客さんはそんなにいない。
制服に着替えて、ホールに立つ まだ慣れていないから、先輩には少し笑われてしまった
気の良さそうな老夫婦がやってきた いらっしゃいませ、と声をかける 最初は声が小さくて怒られたんだっけ。思い出しながら、注文を聞く。
どうやら気の良さそうなのは見た目だけだったみたいだ 注文を聞く前に渡したお冷が気に食わなかったらしい。お冷をかけられてしまった。何が気に食わなかったのだろうと頭の中で反芻するが、急な事で頭が真っ白になってしまった 先輩を頼ろうと思ったが、裏でたくさん笑っている どうやら全く気づいていないらしい
なんでこんなに恵まれていないんだろうな… 考えても仕方ないので、もう一度注文を聞いた。今度はちゃんと答えてくれた 良かった。
注文を厨房に伝えると、何で濡れているの?と聞かれた 起こったことを話すと、笑われた 君、顔がよくないんじゃない? とか。分かってるよ、そんなの けど、笑わなくたっていいじゃないか… こんなこと思っても仕方ないので、ホールにもどる
それから働いていた時間は、老夫婦を除いて、普通なお客さんだけだった。まあ、そういう事もあるよな。
制服を脱いで、帰宅をする。そうだ、今日はコンビニにでも寄ろう。たまには甘いものを食べよう。お酒も、買おうか。うん、買おう。
結局ロールケーキとお酒を3本買って、家に着いた
午後17時 呑むには少し早いかな? いいや。呑もう。
久しぶりに嫌なことがあったから、今日くらい許されるだろう。
お酒は慣れないし、苦いけど 呑んでいくと、どんどんふわふわしていく。ああ、こんな気持ちでずっといれたらな。 そう思いながら、zを見つめる
嫌なことがあったと同時に、嬉しいこともあった。仲良しの子から、DMが来ていた。内容を読むと、今日電話できませんか?と 普段は友達もいないし、喋るのが下手だから、誰とも電話しないが。お酒っていうのは怖いもので、すぐに 出来るよ と返信していた
返信をすると、すぐに連絡が返ってきた
今からかけてもいいですか? もちろん、と返信をした
かかってきたので、電話に出ると、びっくりした
男性と思っていた人が、女性だったのだ
「え、あ、女性だったんだね」
「え〜?!男って思ってたんですか?!そんなに男っぽかったかなあ?」
「うん。投稿とか見ていたら、そう感じた 雰囲気みたいなのもあげていたよね?それも男性ぽかったから…ごめんね」
「あ〜なるほど。まあ確かに、よく言われます 結構貴方には分かりやすいつもりだったんですけどね?」
そう言われた僕は、ドキドキしてしまった。こんなこと言われたの初めてで、からかいなのか本気なのか、分からない お酒も相まって、今日は結構話せている
けれど、シラフでこれを言われたら、多分本気で受けていただろうな
「え?それはどういう意味…?」
「どういう意味って、そういう意味です。分からないです?」
あれ?これは本気なのか? そう思ってしまうぞ?
「それは、その、あの、特別扱いって意味?」
「ふふ そうかもしれないですね」
「何で電話しようって言ってくれたの?」
「え〜? 気になる人とは話したくなりません?それだけです」
「え?」
「え?」
ますます分からなくなってきた 酔ってて良かったなと、ふと思った この子はからかい癖があるのだろうか?
「いや、当たり前でしょ?貴方もそうじゃないんですか?」
「まあ…そうだけど」
「でしょ? ふふ、思った通り声も良くて嬉しい。」
「えっ?」
「? そのままの意味だよ」
大人しいと思っていた子が、こんなに小悪魔とは思っておらず、ドキドキしている こんな感情いつぶりだろう。
「あ、ごめんなさい!用事が入ったから、切るね! また繋ごうね」
「あ、うん」
また? 甘く言われた僕は頭がふわふわしている
今日はこの気持ちのまま寝よう。ロールケーキを食べながら、そう思った。
午前6時 昨日は23時には寝たんだっけ? いつもより記憶があるな。 いつも通り、zを開く
あの子から、連絡が来ていた
「昨日は楽しかったです 今日も良かったらしませんか?♡」
あれ、♡とかつける子だったっけ? どんどんイメージが変わっていくなあ…
「分かった、何時くらいがいい?」
「学校が終わったらしたいなぁ… 18時には帰るよ♡」
「分かった、じゃあ終わったら連絡してね」
「うん!待っててね!♡」
やっぱり 昨日の電話から少し変わった、というよりだいぶ変わったなあ 年齢知らなかったけど、学生なんだなあ…
今日はバイトがない。あの子が帰ってくるまで休もう。
午後18時 zを開くと、連絡が来ていた
「学校頑張ったよぉ、早く電話しよ!♡」
「分かった」
着信を取ると、いきなりドキドキすることを言われた。
「ん〜!ただいま!貴方の事考えて頑張ったよ!」
「あ、ありがとう」
「なにその反応〜w 嬉しいんだ〜」
「いやまあ、そりゃそうでしょ」
「ふふ、なら良かった」
なんなんだほんとこの子は 掴みどころがないなあ
「今日はなにしてたの?」
「バイトがなかったから、ゴロゴロしていたよ」
「バイトやってるんだ!すごい」
「いやまあ…この歳だし、さ」
「そういや歳聞いてなかった!何歳?」
「23だよ」
「私と5歳差だ!歳上好きだから嬉しいなあ」
「5歳も上だと嫌じゃない?」
「別に〜? 話しやすいし、気楽だよ?」
こんなことを言われると、ますますこの子を気になってしまう 昨日も寝る前に少し考えてしまったし… 久しぶりにこういう気持ちが出てきているな、と思う 別れてからは、一切なかったから、自分にびっくりしている
「そーだ!趣味とかあるの?」
「趣味、か うーん…ゲーム…いや、最近はしてないなあ…強いて言うなら音楽かな」
「わ、一緒だ! どんなジャンルの聞くの?」
「うーん、イメージじゃないかもだけど、邦ロックとかかな?後ボーカロイド」
「邦ロックは私も聞く!ボーカロイドはあんまり聞かないな、おすすめある?」
「んー、code72さんかな」
「ありがと!今度聞いてみる!」
「勉強しなきゃ、また電話しようね!」
「分かった、またね」
またって言ってくれたのが、嬉しい 喋りが下手な自分がこんなに喋るのも珍しいけど、この子とならたくさん話せそうだな。
それから3ヶ月。毎日あの子と通話して、バイトしての日々。関係性は変わっていないけど、前より色がついたな。そーいや…後2ヶ月したら会うんだっけな。頑張らなきゃ。
あんなことになるなんて思っていなかった
どうしたらいいんだろう、どうしたら良かったのだろう。