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節分の鬼のはからい

作者: 爆微風

 昔々、あるトコロに貧しい村がありました。

 そこのはずれでは百姓のおじいさんとおばあさんが、慎ましく静かに過ごしておりました。


 ひとり息子は頭が良く、奉公先で出世しているという話は聞くものの、一旗揚げるまではと言ったきり音信不通でした。

 人生のほとんどを働いて働いて、ふたりは蓄えもないまま息子を気にかけ、日々を歩んでおりました。


 そして今日は、春の節分。

 毎年のようにこんにゃくの入った汁物を食べて、炒り豆を撒こうかと思うものの、昨年は実りが特に少なく一生懸命働いてもどうにもなりませんでした。


「やれ、ここまでの人生、福の神にはついぞ会えずじまいかな」

「息子にだけは、しまいの前に会いたかったですねえ」


 働いても働いても貧乏で、蓄えの尽きた家を省み、ふたりで溜め息をつきました。

 もう豆一粒買うお金もありはしません。


 そこで二人は荷物をまとめ、せめて息子の近くへ、と旅に出ました。

 老人の歩みです、山を越えたところで日が傾き、節分の日が終わろうとしておりました。


 しかしその時、大きな松の陰からにゅうと現れたのは長い角の青鬼です。

 身の丈はふたりを足してもまだ足らず、その一歩で地面が揺らぎ、山が悲鳴を上げるよう。


 おばあさんは腰を抜かし、おじいさんも頼ってきた杖を振り回すしかできませんでした。

 豆を炒り、いつものように撒いていたなら。


 おばあさんをかばいながらおじいさんはこれまでかと目を閉じる、ものの、何事も起きません。


 なにがなんだか解らないので目を開けると、そこに居たのは息子でした。

 道の陰から現れたのは荷車に乗せられた鎧兜や刀剣だったのです。


「この年まで、一生懸命働いて蓄えたものを領主様からいただき帰ってきたよ。もちろん米もある。おっとうとおっかあがこんなところに来られたなんて、何かに化かされたかと思ったで、米俵を落としてもうた」


 足音とまちがったのはそれか、とおばあさんは安心しました。

 おじいさんはここまでの宝の山を初めて見たのでまだ声もありません。


「奉公先で去年の不作を知ってな。他の仲間とも話し、居ても立ってもいられなんだ。いっそのこと仕事を辞めるか、と考えてたら勤め先のご領主様から逆に声を掛けられたんだ」

「逆、とは?」


 領主いわく、夢に赤い鬼が現れ、貧しい者たちに手を尽くさねば家が途絶える、そんなお告げの夢を見たのだそう。


「鬼は外、福は内、を言う前に…… 鬼が福を教えてくれたんだ、そう言われてなぁ、仕事のデキに応じた宝を持たされたんだ。となりのクマ助も帰ってくるぞ」

「ならばその鬼はわしらの命の恩人、いや恩鬼(おんおに)かのう」


 なるほどとふたりもうなずいて笑いました。



 それからというもの、この村では『鬼は外、福は内』とは言わなくなりました。


 鬼を外へ払い、福を家内へ呼び込むではなく、病気や災いといった事柄はちゃんと『不幸』と呼んで、恩のある鬼にはもてなしをしようという考えです。


「鬼は内、不幸は外」

「不幸は外、鬼は内」


 世間とは逆の掛け声を唱えながら、みなが豆を撒き始めましたとさ。




 ……その様子を眺める者がおりました。

 あの山の松の陰で、青鬼と赤鬼が笑います。


「領主の夢を交え、結果こうなったか。だが、春の節分に招かれる場所が在るのは有り難い」

「応よ。土地はヒト無くてはならん。さぁお返しだ、我らが不幸を追い払ってやろうて」


 そう言ってまた陰の中へ消え去りました。



 おじいさんとおばあさんは再び仕事へと戻る息子を見送りながら考えます。

 あの鬼は、福の神だったのやも知れない、と。



 さらにその後。

 おじいさんとおばあさんは、嫁と共に戻った息子と暮らし、とても長生きしたそうな。



 めでたし、めでたし。






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