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天国の扉  作者: 藤井 紫
第一章 奴隷皇子と亡命の魔女
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2-3

 星明りがちらつきはじめ、ジェードとホープはようやく父母の待つ自宅に帰宅した。

 石造りの小さな家の中は、暖炉の火と奥のかまどの残りの火のおかげでとても暖かい。いつもは人数分しか点けないロウソクも、今日はいつもより二本多く灯されている。部屋の中がいつもよりずっと明るく感じられた。

 父は暖炉に新しく薪をくべ、母は食事の用意をしている。双子の誕生日だと言うのに、今年はお祝いムードはない。すでに独立した二人の兄も、毎年末の双子の誕生日には実家に戻ってくるのだが、今年はその兄たちの姿もない。

「おかえり。ホープ、ジェード。今日は遅かったな」

 父親のジャックが二人に話しかけてきた。

 ジェードは毎日羊飼いの仕事を終えると教会へ行き、家族のために祈りを捧げている。その後、教会で待っている弟と一緒に家路につくのが日課だ。

「パパ、今日は牧師先生にお祓いを受けてきたのよ」

 ジェードは脱いだ上着を壁にかけると、奥にいる母親のそばに行き支度を手伝った。

 お祝いはないが、いつもと同じように他愛ない会話を交わしながら双子はテーブルについた。

「ねぇ聞いて、今日生まれた子羊、双子だったの!」

 ジェードは今日の感動を、双子の弟に伝えようと声がはずんだ。

「へぇ、ぼくらと一緒なんだね」

「そうなの。しかも雄と雌だったわ!」

 どちらともなく、今日誕生日の男女の双子と重ねあわせる。ジェードがホープの目を見ると、ホープはにやりとほほ笑んだ。言葉には出さないが、お互い祝福と感謝の気持ちは通じあっているようだった。

「双子羊ちゃん、本当に仲良しでかわいいのよ。生まれたばかりでも姉弟だってちゃんとわかってるの。でも雄と雌だから、乳断ちしたらすぐに別々の檻にわけられちゃうけど」

 いきなりの双子の別れ話も嫌だったが、ホープは姉弟と言う言葉にひっかかる。

「ねぇ、ジェード。後から生まれた羊が雌だったの?」

「先に生まれたのが女の子よ」

「じゃあ、兄妹になるんじゃないの?」

 双子の場合、人間は後から生まれた子が上になるのだ。なので、先に生まれたのは弟のホープで、後から生まれたのがジェードだった。母親のお産を手伝った姉からよく聞いた話だ。

 二人が話しているところに、母親は「今日は遅くなっちゃったわね」と、双子の前に食事を並べた。芋の入ったヤギ乳のスープとカゴに山盛りになったパンが、ロウソクのうす灯りの中で湯気をくゆらせている。

 ホープは目の前に置かれたパンに手を伸ばした。ジェードは手をあわせ小さく祈る。その様子を見てホープも手を引っこめると、素早く祈りの(ことば)をつぶやいた。

 ジェードとホープはパンをちぎると母の作ってくれたスープにひたす。パンは作るのにも時間がかかり、小麦粉にするにも無駄が多い。贅沢品で普通の家庭では毎日食べられるものではない。父と母は特別にお祝いなど言わないが、今日にパンを焼いてくれたことに、ジェードは心の中でこっそり感謝した。

「それにしても、誰が忌年なんて決めたんだろう。そんなこと天使(クライス)の教えにはどこにも載ってないのにさ」

 隣に座る弟は、お祝いが出来ないことに不満な様子でぼやいていた。その様子を見て、ジェードは弟をにらんだ。

「ホー! そんなことを言っちゃダメよ。特に教会に勤めているあなたが言うべきじゃないわ。ついさっきも、牧師先生が言ってたでしょ、天使様はすべての出来事をご存じだって。そのうち罰が当たるわよ」

 まるで鏡に映ったような双子の弟に、ジェードは呆れた。

「だって、聖典にも載ってないのに、忌年の誕生日に贈り物をもらうと不吉なことが起こるって言う噂まであるし」

 (ジェード)の助言など聞かず、ぼやき続けるホープの言葉に、ジェードはどきりとした。

 ホープにばれないようにと、ウィルダーから貰った贈り物のペンダントは服の中に隠してある。ジェードは服の上からそれに触れるように、自分の胸をそっと押さえた。



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