65.炎と刃の革命
【王の間】を燃やす為、ハリーファの放った火は大きく燃え広がった。
戦場を走り抜け、ハリーファはシナーンとソルを探し中庭へ向かう。
燃え落ちる宮廷を背に、剣を手にしたシナーンがそこに立っていた。
「……ハリーファ、お前が革命の首謀者か? 【王】と【宰相】は共犯者だと言うのに、裏切ったな」
ハリーファは息を整え、シナーンの前に立つ。
「俺は、弟に裏切られたんだと思っていた。だが、違った」
シナーンの表情が微かに揺れる。
「何を言っている」
「この国が衰退したのは、俺たちのせいだ。そして、お前が【王】を閉じ込めたせいで、呪いは解けなかった」
シナーンは冷たく笑う。
「呪いを終わらせる? どうやって?」
「俺を生きたまま皇宮から出すだけだ」
「【王】の役割を放棄するというのか?」
「聖地を見たなら気付いたんじゃないのか! ファールークが衰退していることに!」
シナーンは剣を構えながら、ゆっくりと言った。
「【王の間】を燃やし、次は私を討つつもりか?」
ハリーファの瞳が鋭く光る。
「【宰相】が生きている限り、【王】を閉じ込め続けるだろう。それではファールークの呪いは終わらない。本当に聖地の復興を目指すなら、こうするしかない」
シナーンはわずかに目を細めた。
「そなた、次は王族に生まれることはないぞ。しかし、すぐに見つけてやる」
ハリーファの拳がわずかに震える。
「……」
シナーンは嘲笑し、剣を構えた。
「剣も持たずに、どうやって戦うのだ?」
その瞬間――シナーンの首筋に、冷たい刃が押し当てられた。
影のように忍び寄る男の手に、鮮やかな刃が輝く。
「……!?」
シナーンの体が硬直する。
いつの間にか、ソルがシナーンの背後に立っていた。
「オレがハリーファの剣だ」
ソルはゆっくりとシナーンの首元へナイフを押し当てた。
周囲のシナーン派の兵士たちが驚き、剣を構えるがソルが声を張る。
「シナーンと共に死ぬか、それとも寝返るか、選べ!」
シナーン派の兵士たちがざわめく。
「……シナーン殿が……」
「反乱軍はすでに宮廷の要所を押さえている……」
「もはや勝ち目はない……!」
一人、また一人と、シナーン派の兵士が剣を捨てていく。
ハリーファは何も言わずその様子を見守っていた。
ソルは片方だけの目を細めた。シナーンの耳元で囁く。
「ファールークの呪いを終わらせるには、あんたら兄弟は生かしておけねぇんだよ」
シナーンは歯を食いしばり、低く呻いた。
「私は殺せても【王】は甦るぞ! 【王】が居る限りファールークは――」
シナーンが言い終わらない間に、ソルはシナーンに告げる。
「死ぬ前に教えてやるよ。あんたの弟は、あんたを裏切ってなんかないぜ。この革命の首謀者は、ハリーファ皇子じゃねぇ」
「……何?」
「メンフィスの、ラシードだ」
「……貴様……!」
その瞬間、鋭い刃がシナーンの喉を裂いた。
鮮血が舞う。
シナーンはよろめき、喉から血を流しながら膝をつく。
(……ファールークは……終わるのか……)
言葉にすることも出来ず、シナーンは地に崩れ落ちた。
ハリーファは目を逸らさなかった。
「今が来世だ、シナーン」
シナーンの死を見た兵士たちは次々に剣を捨てる。
「シナーン殿が……!」
「反乱軍の勝ちだ……!」
宮廷の門が開き、ラシードの旗がはためく。
ファールーク皇国の革命が、ついに完遂された。
ハリーファはゆっくりとソルに向き直る。
「……いつからお前が、俺の剣なんだ?」
ソルはナイフを拭いながら、肩をすくめる。
「言っただろ? あんたの立場を利用させてもらうって。それに、お前に剣を持たせると、悩むだろ」
ハリーファは何かを言おうとしたが、言葉が出てこなかった。
ソルはニヤリと笑う。
「アーランも、ジェードを利用してるかもしれないぜ?」