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エピソード31 救出作戦その2

 翌朝、カトリーヌたちは冒険者ギルドを訪れ、若い女性の捜索依頼が出されていないか掲示板を確認した。

「この村のギルドには捜索依頼はないわね」

カトリーヌは掲示板を見ながら、依頼内容を精査する。

「魔物の討伐依頼なんかはあるみたいだけど、私たちの本来の目的とは違うから次の村まで行きましょうか」

エレオノーラがそう言い、五人は冒険者ギルドを出ようとした。しかしその時、急に男がギルドに走り込んできて出入り口を塞がれてしまった。男は大声で、

「魔、魔物が出た。東の鉱山の出入り口付近に魔物が出た。鉱夫が坑道に沢山取り残されている。助けてくれ」

と叫んでいる。まだ朝早く、冒険者ギルドには『月下の花』以外の冒険者はいない。受付カウンターの中から受付嬢が現れ、男から魔物の詳しい状況を聞き出してはいるが、男もとても慌てていて、なかなか聞き取りがまとまらない様である。その様子を見てカトリーヌは、

「このまま私たちに依頼がくるのかなぁ」

「他の冒険者たちが来れば、そちらに依頼を譲ればいいけど、緊急案件みたいだしねぇ」

エレオノーラはとりあえず様子をうかがうことにした。『月下の花』のリーダーは、冒険者経験のあるエレオノーラと登録してある。なので、ここはエレオノーラの判断に任せることにした。受付嬢が聞き出した情報によると、東の鉱山に現れた魔物はホーンベアーで数は一頭。Bランク判定がなされた。今だ他の冒険者は現れず、『月下の花』に依頼が回ってきたのだが、エレオノーラは、

「私ともう一人はAランク冒険者ですが、他の三人は昨日冒険者登録をしたばかりの新人でEランクですよ。それでも私たちに依頼するのですか?」

そう、受付嬢に問いかけると、受付嬢の後ろから大男が現れた。

「俺は、ここのギルド長を務めているサボンってもんだ。話は聞いた。とりあえず俺もパーティーに加わるから依頼を受けてくれねえか?俺も元はAランク冒険者だ」

「いいでしょう。その代わり、依頼料は弾んでもらいますよ」

そうして、エレオノーラは依頼を受けることにした。

 東の鉱山は歩いて一時間くらいのところにあり、坑道の出入り口のところにホーンベアーが立っていた。

「おいおい、話が違うぞホーンベアーの脅威、滅茶苦茶大きいじゃないか」

サボンは驚いている。このホーンベアーは坑道の入り口よりも大きく、坑道に入ろうとしてなかなか入れない様だった。

「でもこれは好都合ですね。この状況なら坑道の中の鉱夫にはまだ被害が及んでいないだろうし」

ただ、坑道の外にいた鉱夫たちは深手を負っていた。

 サボンは大斧使いで、前衛を務めてくれることになった。カトリーヌとディアナも剣を抜き、前衛に加わる。エレオノーラとニーナは中衛で弓を構え、マリアは後衛で回復役に回った。『月下の花』のディアナ以外のメンバーはミスリル製プロテクターを装備し、ディアナは騎士団のプロテクターを装備している。ちなみにディアナの装備は元々装備していたものだが、カトリーヌたちはここで装備替えをした。今まで着ていた服はマジックバッグに自動的に収納されている。

 エレオノーラとニーナが矢じりに火炎の魔法を纏わせ放つ。矢はホーンベアーの背中に刺さり、ホーンベアーはパーティーの方に向き直る。それと同時にサボンは大斧をホーンベアーに振り下ろし、すかさずカトリーヌとディアナはホーンベアーの足元に切りかかった。ホーンベアーがよろめいたところにエレオノーラとニーナの放った矢が両肩に刺さり、ホーンベアーが両肩に刺さった矢を抜こうともがいた瞬間にカトリーヌは剣を高々と上げ、雷撃を落とした。流石のホーンベアーも雷撃には耐えきれず倒れた。

「あまり大したことはなかったわね」

カトリーヌはそう言いながら剣を収めた。

「おいおい、どこが大したことがないだよ。Bランクの魔物だぞ、いくらAランク冒険者が三人いたってもう少してこずるぞ。それにあんたらEランクだろ」

「私たちはたまたま昨日冒険者登録をしただけで、鍛錬は行っていましたので」

カトリーヌは口元に手をやり微笑んで見せる。

「それより怪我人の手当てをしませんと」

カトリーヌはそう言うと、マリアと手分けをして怪我人に回復魔法をかけていく。同時にエレオノーラとニーナは坑道の中を確認しに行く。怪我人の中には瀕死の重傷の者もいたが、二人の魔法で見る見るうちに怪我が治っていった。

「とりあえず、応急処置はしましたが傷がすべて治ったわけではありませんので、とりあえず痛み止めを出しておきますね」

と言いながらカトリーヌはロキソプロフェンナトリウム錠を配って歩いた。

「剣術、攻撃魔法もさることながら、回復魔法の使い手なんざ、そうはいないぜ。ギルドに戻ったらランク更新をしなきゃいけないな」

そんな話をしていたら、冒険者ギルドから応援部隊が到着した。しかし事はもう済んだので、サボンはホーンベアーの回収を依頼した。

 冒険者ギルドに戻ると、依頼達成の報酬とホーンベアーの素材買取料が手渡された。それとカトリーヌとマリア、それにディアナの冒険者ランクがDを飛び越しCランクに更新された。

「これで、冒険者パーティーとしても動きやすくなったわね」

エレオノーラはそう喜びを表した。

「さて、依頼達成したし、次の村に移動しましょうか」

カトリーヌがそう言い、メンバーがギルドを出ようとした時、サボンから呼び止められた。

「お前さん方、急ぎの用事があるのかい?」

「ええ、そうですわ」

エレオノーラがそう応えると、サボンは用件の内容を聞いてきた。エレオノーラは自分たちが人攫いに遭っている人たちの救出を行っていると説明する。すると、

「ここから三つ先の大きな町で、神隠しが起きていると話を聞いたことがある。なんでも若い女性が主に攫われているらしいが、中にはそこのお嬢ちゃんみたいな子供も神隠しに遭っているみたいだ」

ここでお嬢ちゃんと言われたカトリーヌはムッとするが、話が進まないので黙っておく。

「神隠しはもしかしたら人攫いなのかもしれませんね。貴重な情報をありがとうございます」

エレオノーラが礼を言うと、五人は冒険者ギルドを後にした。

「まさか人攫いがそんなに頻繁に起きている町があるなんて想像もしていませんでしたわ」

カトリーヌが言うことに、皆同意見で、

「とりあえずその町まで移動しましょうか」

村を出て森の中の街道に差し掛かり、周囲に誰もいないことを確認すると、エレオノーラは全員輪になって手を繋ぐように指示し、転移魔法を発動した。そうすると一瞬目の前の光景は歪み、森の木々が変わった。

「とりあえず、町の手前の街道まで転移したわ。ここから歩いて町に向かいましょう」

三十分ほど歩いたところに町があり、門番が二人立っている。

「身分証を拝見します」

門番がそう言うと、五人はそれぞれ冒険者カードを提示する。

「やはり、冒険者登録をしておいてよかったですね」

カトリーヌは改めて冒険者カードを見直す。

「先ずは今夜の宿を探しましょうか」

マリアはそう言うと「大勢で動くのも大変だから」と、一人で宿探しを始めた。残る四人は町の中心にある噴水広場でマリアを待つことにした。広場には大道芸人が自慢の魔法を披露してるので、時間が過ぎるのは苦にならない。三十分程するとマリアが戻ってきて、宿までの道案内をする。噴水広場から少し離れたところに宿はあり、部屋は六人部屋が用意されていた。

「よくこんな部屋があったわね」

カトリーヌが感心すると、

「この町は貿易で訪れる商人が多いらしく、このように大きな部屋のある宿はいくつかあるそうです」

マリアはそう言いながら、荷解きを始める。

「この宿屋、一階はレストランになっているそうなのでお食事にしませんか?」

パーティーメンバーが町を出歩くように買った服に着替えたら、マリアが昼食の提案をした。

「そうね、一仕事した後だしお腹も空いてきたわ。この辺りは何が美味しいのかしらね」

カトリーヌはそう言いながら四人を引き連れてレストランに入って行った。

「やはり、野菜と魚がメインなのね。お肉は干し肉くらいかぁ」

「エルフは基本的に家畜を飼ったりしないから、肉は滅多に食べないのよね。なんかごめんなさいね」

カトリーヌの発言にエレオノーラが謝るが、「そんなつもりで言ったのではないのよ」とカトリーヌは平謝りする。レストランのメニューは、町の近くに川が流れているので川魚の料理が多かった。食事が済むとエレオノーラは冒険者ギルドに向かい、若い女性の捜索依頼が出ているか確認するため掲示板を眺める。そうすると十件も捜索依頼が出されていた。

「一つの町でこんなに依頼が出ているなんて異常だわね。他の村の状況はどうなのかしら?」

エレオノーラは一番最近の依頼を手に取ると、受付嬢に問い合わせていた。

「ここ最近、人攫いが起きているようですね。他の村のギルドでも同じような事が起きているの?」

「ええ、どの村でも何件か人攫いが起きているようです」

「手口は路地裏に連れ込まれて、忽然と姿を消すことが多いのかな?」

「目撃情報ではそのようです」

「捜索に当たっている冒険者はいるの?」

「今は魔獣の出没も多く冒険者も人手不足で、なかなか捜索に当たってくださる人がいなくて、当ギルドでも困っているところです。依頼を受けてくださるのですか?」

「ああ、この依頼を受けるよ」


 エレオノーラは冒険者ギルドで聞いた話を四人に説明し、今後の対策について協議を始めた。

「犯人は目撃されているのよね」

カトリーヌがエレオノーラに質問すると、

「数件、フードを被った人物が目撃されているようだけど、顔は仮面で覆われていて、性別も分からないらしいわ」

「そうすると女性の可能性もあるの?」

「無いとは言い切れないわね」

「身長はどのくらいなの?」

「連れ去られた人たちとあまり変わらないという話よ」

「連れ去られたのは夜なの?」

「いいえ、それが昼間から堂々と犯行に及んでいるらしいの。夜は警戒して出歩かないようになっているし、暗いからターゲットを絞りづらいのもあるでしょうし」

「そうね、女性と思って連れ去ってもし小柄な男性だったら扱いに困るでしょうしね」

「ということは、五人バラバラで町中を散策していれば犯人に出くわす可能性が高いってことね」

カトリーヌがそう言うとエレオノーラは静かに頷いた。

「そうと決まれば裏路地がありそうな通りの散策に出かけましょうか」

しかし、ここでマリアが異議を唱えた。

「いくらカトリーヌ様が腕が立とうともお一人で行かせるわけにはいきません」

「でも、一人じゃなきゃかどわかしてくれないでしょう」

カトリーヌが反論すると、

「いいえ、二人連れや三人連れでもかどわかされるみたいよ。ただしその中の一人だけだけど」

とエレオノーラが説明した。

「ならば二手に分かれて捜索しましょう」

マリアはそう提案し、カトリーヌを見つめる顔にはそれ以外に方法はないと書いてある。カトリーヌも流石に折れ、

「仕方ないわね。マリアとディアナは私と一緒に行きましょう。エレオノーラとニーナは二人で行動してもらってもいいかしら?」

「ええ良いわよ」

エレオノーラもその案に同意し、二手に分かれることにした。出発する前にエレオノーラは四人にロケットの付いたネックレスを手渡した。ロケットには写真ではなく鏡になっていた。

「この鏡は何?」

カトリーヌが尋ねると、

「この鏡に魔力を込めると通話が出来るわ。それもお互いの顔を見ながら」

実際に魔力を込めてみるとエレオノーラの顔が見えた。

「あら、これは便利な魔道具ね」

「通話が出来るだけではなくて、魔力を通じて相手がどこにいるかも分かるわ」

「相手の位置まで分かるなんてすごいわね。エリフルーデンではこんな魔道具まで売っているの?」

「いいえ、これは私の手作りよ」

「こんなものを作り出すって、エレオノーラってすごいのね」

カトリーヌは感心してネックレスを首にかけた。

「じゃあ出発しましょう」

エレオノーラがそう言うと、二手に分かれて捜索に出かけた。

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