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エピソード30 救出作戦その1

 カトリーヌは、朝早くにエレオノーラの部屋を訪ねた。

「エレオノーラ、申し訳ないのだけど、今回の訪問だけど、貴女と一緒にはエリフルーデンに行けなくなったわ」

「それはどういうこと?」

「実は昨夜、ガリウスが来て」

カトリーヌは昨夜の出来事をエレオノーラに説明していった。

「なるほど、貴女が囮になるために、単身我がエリフルーデンに行くということね。だったら私も一緒に行くわ。事は帝国だけの話ではなく、エリフルーデンにも関わることだから貴女だけに負担を強いるわけにはいかないわ」

カトリーヌは困惑しつつもエレオノーラの申し出を受けた。

「それでは、表向きは太陽光パネルの共同開発の申し入れの為にエリフルーデンを訪問することにして、国境を越えたら、組織の拠点探しに行きましょうか」

こうして、カトリーヌとエレオノーラはエリフルーデンへの旅程などについて話し合った。

 カトリーヌは太陽光パネルの件についての許可を得るために皇帝の執務室を訪れた。

「太陽光パネルの利点は先ほどご説明した通り我が国の産業を大きく発展することになるでしょう。しかし、魔鉱石から魔石の精製を行うためにはエリフルーデンの技術が必須になります。そのため、エリフルーデン王と面会して協議したいと思います。エリフルーデン行きの許可を下さいませんでしょうか」

皇帝は太陽光パネルの技術的なことはあまり理解できなかったが、カトリーヌのこれまでの功績を考えると、今回も帝国に多大な影響を与えることは間違いないであろうと考え、エリフルーデン行きの許可を与えた。

 今回の旅は前回の外遊と違い非公式に行う面談のため、皇室の馬車ではなく大商人が使うような馬車を用意した。

「エレオノーラ、悪いわね。今回は皇室の馬車ではなくて」

「事情が事情だからしょうがないわ。国境まで馬車で行けるだけましとしましょう」

実は、エレオノーラは転移魔法を使うことが出来、四、五人までなら一度に転移出来るのだが、帝国にはあまり知られたくない魔法なので、致しかたなく国境までは馬車で移動し、国境を越えてから転移魔法を使い、王都ではなく誘拐事件が発生した村まで転移する予定にした。

「まぁ、行きはのんびりと行きましょう。国境まで二週間は掛かりますし」

カトリーヌはそうエレオノーラに言ったが、エレオノーラは、

「馬車の中でも魔法の訓練をしますよ。まだまだ貴女達は魔法の訓練を始めて間もないのですから」

と言い、カトリーヌとマリアに魔法の特訓を始めた。そうこうしているうちに二週間が経ち、帝国とエリフルーデンの国境に差し掛かった。検問所で馬車を降り、検問所を超えたところで辻馬車に乗り換えた。

「この先の村に冒険者ギルドがあるから、そこで冒険者登録をしましょう」

エレオノーラはそう言って今後の予定について話していった。

 辻馬車に揺られること二時間、目的の村の停車場で馬車を降りた。

「森の中にこんな大きな村があるとはねぇ」

カトリーヌは感心した様子で辺りを見回していた。するとエレオノーラが小さな商店の前で足を止めた。

「ちょっとこの店に入るわよ」

エレオノーラがそう言うとカトリーヌも続いて入店する。エレオノーラは商品を眺め、イヤリングを手にした。そうすると店員に対して、

「このイヤリング、五つあるかしら?」

と尋ねると、店員は店の奥からイヤリングを五つトレイに乗せて持ってきた。

「それじゃ、これ頂くわね」

そう言いながら会計を済ませた。

「イヤリングを五つも買ってどうするの?」

カトリーヌが尋ねると、

「これは、髪の色を変える魔道具よ。私たちの身分がバレるとマズいでしょう。これで髪色を変えればそうそう身分がバレることはないでしょう」

カトリーヌがイヤリングを着けると、艶やかな銀髪が黒色に変わった。マリアの髪は栗毛から金髪に。エレオノーラのエメラルドグリーンは灰色に変わった。

「次は服屋に行きましょう。今着ているものは流石に高貴過ぎて囮には向かないでしょうから」

エレオノーラはそう言うと服屋に入って行き、お洒落な服や普段着などを購入した。

「次は冒険者向けの用品店に行くわよ」

そこでは装備一式を購入した。

「これで少しは冒険者っぽく見えるでしょう。カトリーヌたちはミスリル製プロテクターがあるけど、普段からそのようなものを着て歩くわけにはいかないものね。あとはこれを渡しておくわ」

エレオノーラはそう言いながら、カトリーヌたちにマジックバッグを手渡す。

「これなら、色々なものがたくさん入るから便利よ、今まで購入したものは全部それに入れておくと行動しやすいわよ。それじゃあ冒険者ギルドに行きましょうか」

そうして冒険者ギルドへと向かっていった。この村の冒険者ギルドは三階建ての建物で、屋根は三角になっており、大きな木が建物を貫いているように見えた。

「冒険者ギルドってこのような感じなのね」

カトリーヌが感慨にふけっていると、

「帝国の冒険者ギルドはどうか知らないけれど、エリフルーデンの冒険者ギルドは大体こんな感じかな」

そうエレオノーラは説明した。それから受付に行き、カトリーヌたちの冒険者登録を進める。現状の人員はエレオノーラとお付きのメイドのニーナ。カトリーヌとマリア、そして近衛騎士であるディアナである。マリアとディアナは本名で冒険者登録をしたが、カトリーヌは流石に本名を使うわけにはいかず、申請書には『リカコ=スズキ』と登録した。

「リカコって発音しづらいわね。それにスズキってどこの国の性なの?」

エレオノーラに訊ねられたカトリーヌは、

「東方の島国にあるらしいわよ。黒髪の住人が多いみたいね」

と苦笑しながら誤魔化した。

「パーティー名はどうする?」

エレオノーラが尋ねると、カトリーヌが挙手した。

「『月下の花』でどうかしら?女の子だけのパーティーだし」

その案に、皆が納得しパーティー登録を行った。

「冒険者登録も済んだだし、宿を取りに行きますか」

とエレオノーラが先導し宿屋探しを始めた。数件の宿屋を当たり、三人部屋と二人部屋がある宿屋に泊まることにした。宿屋の一階は居酒屋になっており、そこで夕食を摂ることにした。

「とりあえずビールでいいかしら?」

カトリーヌはそう言うと店員に人数分のビールを頼んだ。

「カトリーヌ様、庶民の飲み物でよろしかったのですか?」

「マリア、ここでは私はリカコ。様はいらないわ。庶民設定なんだから」

「そうよ、マリア。ここからは様は無し。みんな対等の関係よ、パーティーメンバーなんだから」

カトリーヌとエレオノーラはそう言うと、乾杯しビールを飲み始めた。暫くしてテーブルに料理が並べられ、カトリーヌとエレオノーラは自分で皿に取り食べ始めるが、マリアは主人へ給仕できないことが落ち着かないようでオロオロしていた。ニーナは自分の分だけ取り食べ始めている。

「これからは主人とか使用人とかは関係なし。そんなことをしていれば周りから不審がられるだけよ」

エレオノーラがそう発言するのに対して、

「そんな、恐れ多いことを」

とマリアは恐縮している。食事を摂り始めて暫くはそのようなやり取りをしていたが、カトリーヌが四杯目のビールを頼んだ時、隣のテーブルから

「昨日、隣の村で若い女が攫われたそうだってよ」

「一昨日は、ここから十キロメートル離れた村でも若い女が攫われたと聞いたぞ」

という話声が聞こえてきた。

「詳しい話、聞かせて貰えないかしら?」

エレオノーラは話をしていた男たちに話しかけた。

「聞いた話なんだけど、あんた位の若い女が昼日中から攫われたそうだ」

「昼日中から?どうやって攫われたの?」

「どうにも、二、三人連れで歩いて一人が少し遅れて歩いていたところを路地に連れ込まれて、気が付いて路地を見た時には、人影がなっかたらしい」

「俺が聞いた話では、目の前を歩いていた女が、いきなり路地に連れ込まれたところを助けようとしたら、路地には誰もいなかったって話だ」

「攫われたのはエルフだけ?」

「俺らが聞いたのはエルフだけだな」

「そう、どうもありがとう」

エレオノーラは席に戻ると、部屋に戻るよう提案して五人は部屋に集まった。エレオノーラは聞いてきた話をメンバーに共有し、協議が始められた。

「路地に引き込まれて、その路地には誰もいなかった。ということは転移魔法で連れ去られたってこと?」

カトリーヌがエレオノーラに聞いた。

「そう考えるのが妥当だけど、転移魔法の使い手は少なくて自分一人が転移するのがやっとだと思う」

「でも、エレオノーラは自分を含めて五人転移させたわよね」

「それは私の魔力と魔法が特別だからよ」

「貴女の転移魔法と一般の人が使う転移魔法は違うの?」

「違うわよ。私の転移魔法は王族にしか使えないわ」

「じゃあ、犯人は魔力が強い魔法使いの線が濃厚なのね」

「あのぉ」

カトリーヌとエレオノーラが話しているのを聞いていたディオナが、恐る恐る手を挙げた。

「その魔法使いとは、人族にいるのですか?」

「数は少ないけど、いないとは言えないわね。だけどエルフの方が多いのは確かだわ」

「それでは、魔道具を使うという方法はないのですか?」

「なくはないわね」

「どんな方法ですか?」

「魔法陣を使う方法よ。転移魔法の魔法陣が書かれたスクロールを使えば出来ないこともないかもしれない」

ちょっとエレオノーラの歯切れは悪かったが、転移魔法を使うか魔法陣を使うと転移が出来そうであるという認識がメンバーに持たれた。

「しかし、転移魔法は厄介よね。実際に私たちが攫われないと今まで攫われた人たちの救出が出来ないものね」

カトリーヌがそう言うとマリアは、

「カトリーヌ様を攫わせるわけにはいきません」

と言い出した。が、カトリーヌはマリアの肩に手を置き、

「今は誰がどうのと言っている場合じゃないわ」

と宥めた。

「その前に、攫われないと何も始まらないから、もう少し聞き込みをしなければならないわね。明日冒険者ギルドに行って捜索願が出されているか、確認するのもアリね」

それで話は纏まり、皆寝床に着くことにした。


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