3. エピソード2 医療革命
カトリーヌとセレーナ、クリスティーヌは、お互いが過去日本での親友であることが知れ、意気投合し、ケミストリヤ帝国でも親友となった。カトリーヌたちは中身は三十一歳の淑女だが、この世界ではまだ三歳の身だ。することといえば、皇宮の庭園で遊んだり、部屋でお人形遊びや絵本を読んだりと、子供らしい一面を見せていた。中身が大人だけに子供の遊びには飽きてしまった。それならば、自分たちが読めるような本はないかどうか、色々な部屋を探検して回った。流石に皇帝の執務室に行ったときは、皇帝は、怒りはしなかったが、自分の仕事が滞ると国民の生活が苦しくなってしまうのだよと諭した。宰相がそれでは可哀想かと三十分ほど執務室の探検を許してくれた。また皇后の書斎に行ったときは歓迎され、お茶やお菓子が供された。皇后の書斎には政治関係の本ばかりであった皇帝の執務室とは違い、小説などもあり恋愛小説も置かれていた。それを手に取り開こうとしたら、
「貴女たちにはまだ早いわよ」
といわれ取り上げられてしまった。しかし、小説や領地運営の方法の本などいろいろな本があり、たのしいひと時を過ごすことが出来た。しかし、三人で皇宮内をうろうろしていると奇異な目で見る者たちがいるので少しずつで歩けなくなってしまった。それを見かねたメイドが皇宮図書館に案内した。皇宮図書館には色々な本が置かれており、暇を感じない程過ごすことが出来た。そうして皇宮図書館に度々行くようになった。
皇宮図書館には国内外の書物が蔵書されており、絵本から様々な分野の文献なども納められていて三人はそこで国の成り立ちや生活水準などを学んでいった。ただし毎日図書館に通っていたら、それだけでは身体の健やかな成長と魔法の発達が遅れるとメイドから指摘され、午前中は図書館通い、午後は剣術の稽古と魔法の練習という日課が課せられた。
カトリーヌらは、日本で過ごしていた時、中学、高校と剣道部に所属しており、三人と剣道三段を所有していた。それなので剣術はお手の物と、メイドから渡された木剣を振ってみた。そこは剣道の竹刀と違い、木剣は重く振りにくかった。渡された剣は両手用直剣であったが、片手用直剣となるとなんともしんどい作業である。しかし、剣を振れるのは楽しい。上達し、褒められると嬉しくてまた頑張れる。そうやってカトリーヌらは身体を鍛えていった。
また魔法の指導もメイドが行った。魔法には二種類の使用方法がある。一つは詠唱によって魔法を導くもの。もう一つは、様々な用途の魔鉱石を加工し魔道具にして利用する方法である。赤ん坊の頃にメイド達がシャンデリアの明かりを調整していたのは、魔道具に魔法を流し調節していたのだと今だと考えられる。魔道具を利用するだけなら大して魔力を必要としないが、自ら魔法を導き出すにはそれ相応の魔力が必要となる。魔法は基本的に火、水、風、土の四属性魔法があり、それらを組み合わせることで何倍もの効力を発揮できる。しかし、それだけ膨大な魔力が必要になるので、早い段階から魔法を習得し魔力を高めていく必要がある。また基本の四属性以外に神聖魔法と闇魔法がある。神聖魔法は治癒や回復、精神混乱から解放することができ、闇魔法は毒魔法や精神混乱などを引き起こすことが出来る。三人は先ず治癒魔法を習うことになった。初級の初級の回復治癒魔法である。
「では、詠唱を始めてください。ヒール」
「「「ヒール」」」
三人は自分自身にヒールを掛けた。そうすると剣術で疲れた手足がみるみる癒えていくのが分かった。
「ヒール凄い!」
と三人は大はしゃぎだった。こうして図書館通いと剣術、魔法の練習をすることを繰り返していると、知識も増えていき、剣術の腕も上がり、魔法は基本の四属性魔法と神聖魔法を使いこなすようになっていった。
皇宮図書館で様々な本を読み続けていくと、段々と各自の専門分野の本を読んでいくようになるのだが、そこに記されているものは自分たちの知識には遠く及ばないものだった。科学技術的なものが記されていなかった。
「これは、魔法があるのが当たり前の生活の中で、普段は何の不自由も感じないから、科学技術的なものは発展しなかったということね」
カトリーヌが不満を漏らした。
「特に医療分野については回復魔法による医療と薬草での治療しかなく、どちらも高級で庶民にはなかなか届くものではないのね」
自分の医療知識や技術を使えない、この世の中をセレーナは嘆いていた。
「医療水準がこれほど低いと今後大変なことが起きそうね」
クリスティーヌは、これから自分たちがどのような医療体制の中で過ごしていかなければならないのか不安を覚えた。カトリーヌらは今後、医療改革をどう進めていくかを議論し始めた。ただ自分たちが正論を言ったとしても子供の戯言としか思われないだろうことは分かっていたので、カトリーヌたちは実績を上げる必要がある。医薬品を作り出し、臨床試験を行うこと。これが大事になっていく。その為には今ある知識だけでは不確実、不完全であり、あり更なる文献が必要にもなる。
カトリーヌたちは更なる専門書がないか探し続け、困り果てている姿を見て、図書館長が古の図書を紹介してくれた。古の図書は古語で書いてあるものばかりで、現在、ケミストリヤ帝国では読めるのは一部の古文学者しかいないとされているものばかりである。しかし、カトリーヌたちがそれらを開くと、すらすらと読めるものであった。何故ならばそれらの本は、日本語や英語、ドイツ語などで書かれていたからだ。しかも現代科学に匹敵するものが。
「「「これならばなんとかなるかも」」」
三人は歓喜した。
そこで、先ず手始めにどんな薬が必要か話し合った。カトリーヌは、
「私、熱を出したときに飲まされた薬草がとても苦くて飲めるものじゃなくて、それに効き目がいまいちでとても苦しかったわ」
そう薬草での苦労を話し、二人ともうなずいた。
「それじゃあ、まず解熱鎮痛薬でも作りますか」
カトリーヌが話すとセレーナは、
「どこで作るの?」
と質問してきた。
「んー、皇城のどこかに空いている部屋はないかしらね」
というと控えていたメイドが、
「多分、ご用意できると思います」
「原料はどうする?」
とセレーナが問うと、
「それならば、我が家が取り扱っている薬草から探しましょうか?」
クリスティーヌが提案してきた。
「ファルマシヤ侯爵家の薬草はみな高価で庶民の手に入らないものが多いでしょう?」
カトリーヌがそう疑問を投げかけると、
「貴族向けのものではない安価な薬草も取り扱っているわよ。解熱剤も」
ということで、後日、ファルマシヤ侯爵家の薬草園にある薬草の鑑定を行うことにした。ファルマシヤ侯爵家にある薬草園は、帝都にある敷地にあり、広大で様々な薬草が植えられていた。
「ファルマシヤ領に行くともっと大きな薬草園があるそうですよ」
そうクリスティーヌが説明した。
「どの薬草が安価で、効能があるの?」
カトリーヌが質問すると、
「これと、これね」
と薬草を差し出してきた。
「なぜそんなにすぐにわかるの?」
セレーナがビックリしていると、
「私、特殊魔法で薬草の効能と副作用が分かるの。この薬草、効能はあるのだけど副作用が大きいみたい。だから貴族向きではないのかもね」
クリスティーヌがそう答え、カトリーヌは、
「だったら、薬効成分だけを抽出すればいいってことね。もし化合物の構造が分かれば有機合成でも作れるし。私は化合物の構造を見ることができる特殊魔法持ちだから構造決定さえできればもう私の分野よ」
と話した。
「私は人体をレントゲンのように透かして見える特殊魔法を持っているから患者の状態を把握することができるわよ」
そう、セレーナは告白した。
「ということは、医療チートを持ち合わせている二人に私が加われば鬼に金棒ね」
カトリーヌは高々と笑った。




