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エピソード27 エレオノーラ、化学を教わる。

 カトリーヌたちが皇都へ戻ってきてから数日の間に、エレオノーラとユアナの皇帝への謁見が行われ、ターメラのアカデミー工学部への就職も決まった。そして、休日にお茶会を開くことにした。招待客はエレオノーラにユアナ、そしてセレーナにクリスティーヌである。

「久しぶりねセレーナ、クリスティーヌ。今日は帰郷の報告と新しくできた友人の紹介をしたくてお茶会を開いたの。エレオノーラのことは二人とも知っているわよね」

「ええもちろん」

「お久しぶりです、エレオノーラ」

「お久しぶりです、クリスティーヌ、セレーナ」

「そして、こちらが獣人の国の大族長の孫娘のユアナよ」

「ユアナですセレーナさん、クリスティーヌさん、よろしくお願いします」

「さてと自己紹介も済んだことだし、お茶を楽しみながらお話ししましょう。そうだ、セレーナとクリスティーヌにはお土産があったんだ」

カトリーヌはそういうと、綺麗に包装されている箱を二人に手渡す。

「開けてもいい?」

「ええ、もちろん」

二人が包装を解くと中には宝石箱があり、宝石箱の中には金のピアスが入っていた。それには海のような水色に輝く石があしらわれている。

「これはアクアマリンね」

「私たちの誕生石だ」

「そう、ドワーフの国で加工してもらったものよ。そして私とお揃いなのよ」

カトリーヌは髪をかき上げピアスを見せる。

セレーナとクリスティーヌは自分たちが着けてきたピアスを外すと、アクアマリンのピアスを着けた。

「二人ともよく似合っているわよ」

「「ありがとう」」

そうして、カトリーヌらがお互いを褒めあっていると、

「いいなぁ、私も欲しいなぁ」

とユアナが駄々をこね始めた。が、

「これはね、私たちの誕生日プレゼントでもあるのよ。三人の友情の証なの」

と、カトリーヌがなだめた。それを見てエレオノーラが、ユアナに宝石箱に入った指輪を渡す。もちろんカトリーヌとセレーナ、クリスティーヌにも渡したが。

「これは、物理攻撃、魔法攻撃どちらにも結界が張れる魔法が込められた魔石があしらわれているわ。ただし、それほど効力は強くないから一時しのぎにしかならないけど」

「ありがとう、エレオノーラさん。綺麗な魔石ね」

ユアナは、四人とも同じ指輪を贈られたが、それでも喜んでいた。


 次の日、カトリーヌは久々にアカデミーの研究室に出勤した。学生たちは漸く指導教官が戻ってきたと喜んだ。

「カトリーヌ先生、実験が行き詰まっていて大変なんですよ。ご指導よろしくお願いします」

と、学生たちは列をなしてカトリーヌに指導を仰ぐ様子が見られた。カトリーヌが不在中にマリアの仕事を兼任していた助教は、

「マリアさん、秘書の仕事は私には荷が重すぎました」

と言って、マリアに大量の書類を渡す。マリアは受け取った書類の中に、ダンカンからの報告書を見つけた。

「カトリーヌ様、ダンカン教授から報告書が上がっています。報告書が書かれていた日にちの段階で、電気機関車が完成したそうです」

カトリーヌはマリアから報告書を受け取り目を通すと、

「マリア、エレオノーラ、今からダンカン教授の研究室に行くわよ」

と言いながら研究室を出て行く。マリアは慣れた様子でカトリーヌについていくが、エレオノーラは慌てて出る羽目になった。三人は馬車で電気機関車製造研究所に向かう。

「ダンカン教授お久しぶりです」

「おお、皇女殿下ではありませんか。戻ってらしたのですね」

「ええ、先日戻りました。ダンカン教授、電気機関車の製造が完了したとの知らせをいただいたのですが、それからどうなりました?」

「今、運行試験を行っているところですじゃ。もうすぐ戻ってくると思うので少しおまちください」

十分ほどすると電気機関車は製造研究所に戻ってきた。

「すごい迫力ですね」

そう感想をエレオノーラが述べると、

「すごいですよね。私も皇女殿下から話を持ち掛けられたときは、こんなにすごいものを作ることになるとはおもいませんでしたよ。ほほほ」

ダンカンは微笑んだ。

「ダンカン教授、客車と貨車の製造はどうなっていますか?」

カトリーヌがそう訊ねると、

「ついてきてください」

と言い、別な建物へと歩き出した。カトリーヌたちが連れられた建物には、もうすでに十数両の客車と貨車が製造されていた。

「皇女殿下が調査してくださった、エアサスペンションも採用しておりますぞ。客車には皇族専用車、貴族専用車、一等車両、二等車両、三等車両と用意してありますぞ」

そういいながらダンカンはカトリーヌたちに客車の中を案内しながら話していく。

「ここまでそろっているならもう運行することもできますね」

「そうですな、電気機関車のデータも十分取れたし、信号システムも問題なく作動しておる。線路を敷設すればどこまでも行けますぞ」

「そうなったら次は私の仕事ですね。それでは、客車を繋いでお披露目運行をしなければなりませんね」

カトリーヌは満面の笑みで車両を眺めてそう話す。ダンカンも嬉しそうに笑っていた。

 後日、皇帝や有力貴族、大商人たちを招いてのお披露目運行が行われることになった。ルートは電気機関車の試験運転に使われていた、機関車製造研究所からターミナル駅予定地までの約十キロメートルである。皇族専用車両はもちろんのこと、貴族専用車両、一等車両が繋がれ機関車製造所を出発した。運行速度は時速約六十キロメートル。電気機関車本来の速度よりはだいぶ遅い速度だが、乗車時間があっという間になってしまうため、この速度に設定された。

「カトリーヌよ、車窓からの眺めはよいものだな。乗り心地も良いし、馬車よりも早く移動できる。鉄道網が広がれば人の移動が盛んになり、物資の移動方法も大きく変わるだろう」

「はい父上、今回は速度は本来の速度より落として運行されているので、実際はもっと早く移動することが出来ますわ」

「直轄領とドクトリヤ領、ファルマシヤ領でも線路の敷設作業は進んでいる。来年には皇都のターミナル駅からある程度の距離の運行が可能になるであろう。今回の試験運行によって鉄道の延線を求める貴族も増えるであろう。ターミナル駅は豪勢な建物にしなければならないな」

「そうでございますね父上」

こうして、皇族や有力貴族だけではなく、富豪商人たちもお披露目運行に乗車することにより、鉄道建設への機運はより高まっていった。


 カトリーヌの教授室でマリアの淹れたお茶を飲みながら、エレオノーラはカトリーヌに話を始める。「カトリーヌ、先日の鉄道のお披露目乗車会はとても素晴らしいものでしたね」

「ありがとう、エレオノーラ。思った以上に評判が良くてよかったわ」

カトリーヌは満面の笑みでエレオノーラに応える。

「ええ、本当に。帰国後から忙しく準備に追われて大変でしたものね」

「そうなのよ、私、ものすごく頑張ったと思うわ」

ここで、エレオノーラはカップを置き姿勢を正すと、

「それでね、私、貴女が重要なことを忘れているのではないかと危惧しておりますのよ」

と切り出した。

「それはどういうことですか?」

「私が留学してきてから今日まで、この実験室で何も教わっていませんの」

「え、」

カトリーヌは何事が起きているのか把握できず、間の抜けた声を出してしまう。

「助教に指導を頼んでいたのだけど」

「『恐れ多くて、王族にお教えできません』と断られましたわ」

そう言われ、カトリーヌは身を縮め、

「それは大変申し訳ありませんでした」

と平謝りした。

「と、いうことで、カトリーヌ、貴女から直接指導してもらえるかしら?」

「はい、もちろんです」

カトリーヌは返事をしつつ、疑問が一つ浮かんだ。

「エレオノーラ、化学についてどのくらい知識があるの?」

「そうね、エルフは自然信仰の民だから自然科学については、一通り勉強しているわよ。ただし、物を作り出すときは魔法を使うことが多いから、化学については勉強する機会に恵まれなかったわ」

カトリーヌはそれを聞き、少し考え込む。高等部くらいの化学から教えなければならないのか。

「なるほど、そうなると用意していた教科書では補えない部分があるわね。教科書を用意するから少し待っていてくれるかしら?」

カトリーヌはそういうとマリアに高等部へ行って教科書を融通してもらえるように遣いに走らせ、どこから始めればいいのか考え始めた。

「エレオノーラ、原子とか分子って分かる?」

「それは何?とても重要なこと?」

エレオノーラはきょとんとし、カトリーヌは表情がばれない様、顔を両手で覆った。

「この世の中は、色々な物質があることは分かるわよね」

「それはもちろん」

「例えば、土砂なんかは混合物と言われるわ。その中には水とか含まれるわよね」

「そうね」

エレオノーラは真剣に頷く。

「混合物を分離、精製して得られる一種類の成分から出来ているものを単体、二種類以上の成分から出来ているものを化合物と称するわ。土砂から単離、精製された水分子は水素原子と酸素原子から出来ているものだから、化合物と呼ぶわ」

「なるほど、それが先ほど質問された、分子と原子の関係なのね」

エレオノーラからそういわれると、カトリーヌはそっと胸をなでおろす。

「これからちょっと小難しい話になるけど大丈夫?」

カトリーヌは申し訳なさそうな顔で質問したが、エレオノーラは、

「大丈夫よ」

と笑顔で答える。

「それじゃいくよ、原子というのは原子核とマイナス電子から成り立っているの」

「ということは、プラスの電子がどこかにいるわけね」

エレオノーラの発言で、カトリーヌは笑顔になり

「そう、そうなのよプラスの電子は原子核内にある陽子と呼ばれるものにあるわ。そして原子核には、水素原子を除くすべての原子核に中性子と呼ばれるものと一緒にあるわ。マイナス電子はその原子核の周りを回りながら存在しているわ」

「そうなのね。私たちの身の回りにあるものは、陽子と中性子、それにマイナス電子から出来ている原子が色々繋がって出来た分子から成り立っているってことね」

エレオノーラはカトリーヌが話したことを理解できたことがうれしくて笑顔がこぼれていた。カトリーヌはと言うと、エレオノーラがすんなり難しい話を理解してくれたことが嬉しかった。




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いつも楽しく拝読させていただいています。 もしかすると分かっていた上で簡略化して書いておられるだけかもしれませんが、1つ科学的に間違った表現があったので、差し出がましいようですが、報告させていただきま…
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