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エピソード26 帰郷

 皇都まであと一日というところで夕方になってしまい、カトリーヌ一行はトランジャ村で一晩過ごすことにした。村に入る直前に旅人らしき人物が護衛騎士の前に飛び出してきて隊列を止めた。

「何事かあったの?」

マリアが護衛騎士に訊ねると、獣人がカトリーヌに面会を求めているという答えが返ってきた。

「獣人がねぇ。とりあえず話を聞いてみますか」

カトリーヌは自ら馬車を降り、獣人との面会に応じることにした。

「あなたのお名前を聞かせてもらってもよいかしら?」

カトリーヌがそう問いかけると、

「私はユアナ=アルメニヤでございます」

「アルメニヤということは大族長の一族の方かしら?」

「はい、先日はおじいさまが大変失礼をし、申し訳ありませんでした」

ユアナは深々と頭を下げて、カトリーヌに許しを請うている。

「まぁ、ここで話すのもなんだから、宿に移ってお話を聞きましょうか」

カトリーヌはそういうと隊列を村の宿屋へと向かわせた。ユアナは自分が乗ってきた馬で移動を開始した。

宿へ着き程なくすると、ユアナはカトリーヌの部屋を訪れた。

「それで、大族長が何をしたっていうの?」

カトリーヌがそう聞くと、ユアナは

「帝国の皇女様相手に、御簾越しで直接言葉も述べず、鉄道敷設のことも反対で...」

「ユアナはそう言うかもしれないけれどそれも政治よ。私たちは国と国を代表して話しているのだから、一方の意見を頭ごなしに押し付けたりしないわ。そんなことをすれば戦争になってしまうし」

「そうかもしれませんが、鉄道の話は私はよい話だと思いました」

「獣人の国は気候によって区分が分かれ、首都にたどり着くにも気候を正しい順に通らなければいけないでしょう」

「いえ、昔はそんなことはありませんでした。あんなに滅茶苦茶な気候地域を通らずとも、南から北まで正しい気候順序に並んでいて、順番道理に進めばよかったのです」

ユアナは申し訳なさそうな表情を浮かべている。カトリーヌは優しい表情でユアナに話しかけた。

「もしかすると聖獣の力で、迷路みたいな国にしてしまったのかしら?」

「なぜそれを?」

カトリーヌは額を人差し指でツンツンと叩き、

「ユアナの額にユニコーンの角があるでしょう」

ユアナは慌てて両手で額を隠したが、それはもう後の祭り。

「そうです。おじいさまは疑り深く聖獣の力を発動させました。ただ、発動し続けると体調的にも良いことはなく、私としてはすぐさま止めてほしいです」

「かといって、国を防衛するシステムが他にはないのでしょう」

「はい。アルマニヤには騎士はおりません。それぞれの獣族単位で自営のための組織を置いてあるだけで、統率のとれた軍隊は存在しません」

「そうよね。そんなところに鉄道なんて敷設したらどうなるか、賢い貴女だったら分かるわよね」

「確かにそれはそうですね・・・」

ユアナはユニコーンの耳を垂れた。

「でも私は鉄道の話はよい話だと思います。だからカトリーヌ皇女殿下の下で色々勉強したいです」

「留学したいってこと?」

「はい」

ユアナは耳をピンと立て深く頷いた。

「でも大族長がお許しにならないのでは?」

カトリーヌがそう問うとユアナは、

「お父さまは許してくださいました。アニマニヤの今後のために大いに勉学に励んで来いと」

ユアナは父親からの信書をカトリーヌに手渡した。

「ここまでされれば文句の言いようはないわね。留学の件わかったわ。総長にも私から話しておくわ」

カトリーヌからの許しも得て、ユアナは大いに喜んだ。


 翌日、朝早くにカトリーヌ一行は宿を出て皇都に向かった。

「ようやくここまで来たわね。長い旅路だったわ」

「そうでございますね、カトリーヌ様」

「二ヶ月半にも及ぶ外遊で、気が付けばもう四月よ。今年の誕生日はセレーナとクリスティーヌと一緒にお祝いできなかったわ」

「でもお土産は用意したのでございましょう」

「それはもちろん」

そんな会話を重ねているうちに、隊列は皇都外門を潜っていった。車窓から見える街並みにカトリーヌは大いに安堵感を覚え旅路を懐かしむ。そうして隊列は皇宮についた。皇后と執事、それにメイドたちが出迎え、カトリーヌは皇后と抱きしめあい無事の帰還を報告した。執事にエレオノーラとユアナの部屋と、ターメラ親子の住まう家を手配するように申し付けた。カトリーヌは部屋に戻りドレスを着替えると、皇帝の執務室を訪れた。

「皇帝陛下に申し上げます。カトリーヌ=ケミストリヤ、外遊から帰還いたしました」

「おぉ、よくぞ帰ってきた。病気や怪我はしていないか?」

「はい、していません」

「ちょっと声や表情に疲れがあるようだが、大丈夫か?」

「ご心配ありません。ただいま帰還し、その足できましたので」

「そうか、まだ休んでいなかったか」

「はい父上の顔を早く見たくて」

カトリーヌがそういうと、皇帝は涙を浮かべ喜んだ。

「そんなに父のことが恋しかったか?」

「恋しいまでは言いませんが、会いたかったですわ」

カトリーヌは扇子で口元を隠し微笑み返した。

「では夕刻また会おう」

皇帝がそう言うと、カトリーヌはその場を辞した。


 皇帝の執務室を後にし、カトリーヌはマリアに今後について話し始めた。

「先ずはエレオノーラとユアナには、父上に謁見してもらう必要があるわね」

「そうでございますね。正式に留学手続きを行わないといけませんし」

「それからターメラ・ターメリ夫妻をダンカン教授に紹介して、工学部に赴任してもらわないとね」

「その件につきましては、まず総長にお会いになってもらってはいかがですか?」

「それはそうよね」

カトリーヌは扇子を額に当てながら考え込む。そうするとマリアは、

「メリーさんの扱いはどうなさるおつもりですか?」

「メリーは確か七歳だったわよね。アカデミーの初等部に編入してもらいますか」

「しかし、入学試験を合格しませんとなりません」

「あの子なら大丈夫でしょう。話した感じ結構賢いみたいだし」

「そうでございますね」

「エレオノーラには理学部に席は置いてもらいつつ、色々な学部で学べるようにしないとね」

「ユアナ様はどうされるおつもりですか」

「あの子まだ十五歳でしょう。そうすると中等部に編入してもらってはどうかしら」

「そうでございますね」

まだまだ決めなければいけないことがあり、二人の会話は部屋に戻っても続いた。


 カトリーヌは部屋に戻って一息ついた後、お針子とともにユアナの部屋を訪れた。

「ユアナ、貴女荷物が少なかったところを見ると、ドレスとかは用意していないわよね」

「はい、持っていません。今までドレスを着る機会もありませんでしたし」

「やはりそうね。今後はドレスを着る機会も増えるから最低二、三着は用意しておかないとね。既製品で申し訳ないのだけど、この中から選んでもらえるかしら?」

そういうとメイドが部屋にドレスを並べ始め、ユアナはキラキラした目でドレスを選び始めた。マリアはお茶を淹れカトリーヌはユアナの様子を見ながら微笑みお茶を飲み過ごす。

「カトリーヌ様、私、これとこれとこれにしました」

ユアナが選んだドレスは、水色のドレスと黄色のドレス、それにピンクのドレスだった。

「なかなかセンスあるわね。そうしたら尻尾が出るように加工させるわね」

カトリーヌがそういうと、お針子たちがユアナの採寸を始めた。

「明日には直しができると思うから、そうしたら父上に会ってもらうわね」

「皇帝陛下に謁見ですか?」

「そうよ」

カトリーヌがそういうとユアナは緊張で固まってしまった。

「ユアナ、今晩はゆっくり休むのよ。メイドを一人貴女に預けるわね」

カトリーヌはそういうとユアナの部屋を後にした。


 夕食のとき、ダイニングには皇帝、皇后、皇太子それにロゼリアが席に着いていた。

「遅れました。申し訳ありません。つい転寝をしてしまいました」

カトリーヌは頭を下げ席に着いた。

「よいよい、今日の午後に皇宮に帰ってきたばかりだろう。着席したのならグラスを持て」

皇帝がそう促すとスパークリングワインが注がれたグラスを掲げた。

「ではよいか。カトリーヌの無事帰還を祝して乾杯」

「「「「乾杯」」」」

そうして旅の話をしながら夕食の時間は過ぎていった。

 夕食が終わり部屋に戻るとマリアが待っていた。

「あら、今日はもう休んでいいのに。夕飯は済んだ?」

「はい、済ませました。これから湯浴みなさいますか?」

「そうね、だけど今夜はほかのメイドに交代していいわよ」

「ですが」

「明日からも働いてもらわなきゃいけないのだから。これは命令」

マリアは少ししょんぼりした顔をしたが、

「命令とあらばしょうがありませんね。それでは失礼いたします。おやすみなさいませカトリーヌ様」

「うん、おやすみ。マリア」

挨拶を交わすと、別のメイドが部屋に入り湯殿の準備を始めた。そうして湯浴みを終え、髪を乾かしてもらいベッドに入ると瞬く間に夢の中へと入りこんでいった。


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