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2. エピソード 異世界転生

 「カトリーヌ」と名付けられた鈴木梨香子は、生まれたばかりの赤ん坊の状態になってしまい。声を出しても「あぅゃあぅゃ」という言葉になってしまい、周囲に意志を通すことが出来ない。今現状として出来ることはベビーベッドの中から周囲の様子を窺うだけ。たまにだっこされ母乳を与えられ、オムツを替えられたり、されるがままであった。二十八歳の淑女としては少々、どころでない羞恥プレイの数々だが、紅葉のような手を見る限り、しばらくはこのような状況に耐えて生きていかないといけないと覚悟をした。数日メイド達の会話を聞いていたら、「カトリーヌ」という単語が聞き取れるようになった。どうやらこの世界での自分の名前は「カトリーヌ」であることを梨香子は悟った。初めはこの世界の言葉は少しも理解できなかったが、メイド達の会話から単語を聞き取りそれが何であるか理解できるようになった。そうして三ヶ月が過ぎると、段々と語学が理解できるようになってきた。文法は日本語のような文法ではなく西欧風な文法である。そうやって推理していくとカトリーヌは自分がどこぞの西欧の大貴族の家に転生したらしいと仮説を立てた。父親らしい人は忙しいらしくあまり顔を見せないが、母親らしい人は毎日顔を見せてくれた。ちょっと甘えてみると、母親らしき人は大いに喜んだ。

 西欧の大貴族かぁ、そんな生活もいいわね、なんて考えていたけれども、ここの生活は少しおかしい。不思議なことの一つと言えば明かりである。電気でつけているようでなかった。というのもスイッチが見当たらない。天井の明かりであればドアにスイッチがありそうだが見当たらないし、かといってリモコンがあるわけではない。明かりはシャンデリアでメイド達は手をかざして呪文を唱えながら明かりの調整などをしている。これはもしや魔法なのではないかと思った。いや、現代科学者が魔法を認めるのもなんだか変な感じがする。そう、現代科学者なる者もう少し科学的に物事を扱わないと。大きくなったら、この現象を科学で証明してみようと思うカトリーヌであった。

 しばらくそのような不思議体験をしながら過ごしていた。ある時母親らしい人が小さい女の子と男の子をカトリーヌの部屋へ連れてきた。なんとも可愛らしい二人である。女の子はカトリーヌの頭を撫でて、男の子は頬をつんつんと指で刺したり、紅葉手を小さな手できゅっと握ってきたりした。こんなことが日常となり、この三人の会話とメイド達の会話の流れを聞く限り、小さな女の子と男の子はカトリーヌ自身の姉と兄であることが分かった。日本で暮らしていた時、鈴木梨香子は一人っ子だった。兄か姉がいればよかったのにとつくづく思っていた梨香子にとっては、姉と兄がいるこの環境は素敵なものに思えた。だが、梨香子から見ればこの姉と兄は小さな公女小さな公子にしか見えない。自分より幼い姉と兄かと思うとちょっと複雑な思いにもなる。とわ故自分自身はまだ言葉を発せない赤ん坊なわけだから、人のことは言えないない状況に、更に複雑な心境だ。

 言葉をもう少し理解できるようになると、姉の名は「ロゼリア」で歳は五歳、兄の名は「ライオネル」で歳は三歳であることを理解した。ロゼリアとライオネルはとても仲良しで、カトリーヌのところへ来てはお絵描きをしたり、ロゼリアが二人に絵本の読み聞かせをしたりしていた。カトリーヌは姉ロゼリアの読み聞かせのおかげで、ケミストリヤ帝国のことと自分の立場を理解した。父親らしい人は実はこの国の皇帝であり母親らしい人は皇后であることが分かった。それに姉は第一皇女で兄は第一皇子であることも分かった。ケミストリヤ帝国は生活魔法が発達しており庶民でも魔法が使える。ただ高等魔法を使うにはそれなりの修業が必要で高等魔法の使い手は国家認定証が授与される。ただし、魔法を犯罪に使えば認定取り消しと牢獄行となるらしい。ロザリアとライオネルも初級の魔法なら使えるそうだが、ライオネルが火魔法で遊んでいて小火を起こしロザリアが水魔法で消し止めたらしい。このことでライオネルは怒られ、しばらく魔法の使用は禁止されているらしい。ロザリアは治癒魔法も得意なようでメイド達からは小さな聖女様とも呼ばれているらしい。

 最近、カトリーヌは皇帝と皇后の話を聞いていいて、ドクトリヤ公爵家とファルマシヤ侯爵家でも、自分が転生した日に女の子が産まれたという話を聞いた。

(まさか愛奈と礼子も転生したのかしら?)

そう思う梨香子であった。


 ドクトリヤ公爵家は第一子誕生に大いに沸いていた。

第一子ということもあり、出産前に乳母が迎えられた。その人物は子育て経験豊富で三ヶ月前に出産を終えたばかりの子爵夫人である。メイド達の中にも出産経験者はいるが、貴族の出産経験者はいなかった。それ故メイド達は乳母の指示のもとテキパキと仕事をこなしていた。

 誕生した子は女の子であった。名前は「セレーナ」と名付けられた。セレーナと名付けられた佐藤愛奈はしばらく混乱していた。何故、あんな事故に巻き込まれたのに、自分は痛みも何も感じないの?もしかして脊椎が損傷して麻痺しちゃったの。でも、ここは病室でないみたいだし、ベッドの中から見える光景は、白衣の看護師ではなく、メイド服を着た女性ばかり。そんな女性たちは自分を軽々と持ち上げたりする。手足に感覚もあるし抱きかかえられた時の女性の腕のぬくもりも感じる。ということは自分は怪我もしてなく麻痺しているわけでもない。身体が小さくなっただけだ。小さくなっただけって医学的におかしいわよね。そんなことを考えていたら、綺麗なドレスを着た女性に母乳を与えられたり、メイドにオムツを替えられたりして佐藤愛奈はしばらく訳が分からなくなっていた。

(しかし、これはどういった状態?確かトラックにはねられそうになったところまでは覚えているのだけどこれだけ周りが大騒ぎって。いや、事故のあとなら大騒ぎになるか。でも騒ぎ方が違う。何かおめでたいことでもあったのかしら。しかし、私は軽々と抱きかかえられて、中世ヨーロッパのようなドレスを着た女性に母乳を飲まされて、まわりの女性はメイド服を着ていて一体全体どういうことなの!まさかこれが世に言う異世界転生ってやつなの?私本当に異世界に来てしまったの?梨香子と礼子はどうなったのかしら?)

と考えを巡らせる佐藤愛奈だった。


 ファルマシヤ侯爵家では、第三子の誕生に沸いていた。

ファルマシヤ侯爵夫婦には二人の女の子がいて、今度こそは男の子をと思っていた。しかし生まれてきた子は女の子で、ファルマシヤ侯爵は落胆した。侯爵夫人も申し訳ない気持ちになってしまったが、それは生まれてきた子供に対して失礼なことだと思い返して育児に勤しんだ。名前はファルマシヤ侯爵が「クリスティーヌ」と名付けられた。一応女の子の名前も用意しておいたのだ。

 「クリスティーヌ」と名付けられた高橋礼子も、とても混乱していた。三人まとめて大型トラックに跳ね飛ばされたはずなのに、体が痛むような傷は負っていないようだ。なのに、周りには人が沢山いる。ベッドの周りには二人の小さな、女の子がいつもいて必死に話しかけてくるが、言葉は全然理解できなかった。この子たちは一体何を話しているんだろう?っていうかこの状態は何?別に体は痛くないけど立ち上がれないなんて。全身麻痺でもなさそうなんだけど。誰か説明して~梨香子と愛奈はどうなったの?高橋礼子はそう思っていた。


 ドクトリヤ公爵は皇室従事の医師の家系で、ファルマシヤ侯爵は皇室御用達の薬師の家系であった。また皇帝とドクトリヤ公爵、ファルマシヤ侯爵は幼い時から共に過ごした仲で、日本語で言えば竹馬の友である。また皇后とそれぞれの夫人は従妹同士ということもあり、よくお茶会を開いている仲だ。

 カトリーヌはすくすく育ち、廊下や庭で走り回ったりして、ちょっとヤンチャな場面が出てきた。ちゃんということを聞くときはもちろんあるが、メイド達をハラハラさせることもあり、護衛騎士は気が抜けない日々が続いた。カトリーヌが三歳になった春に、皇后は皇帝に最近、懸念していたことを相談した。

「皇帝陛下、カトリーヌにはそろそろ友達が必要ではないでしょうか?一人で遊んでいるとつまらないようで悪戯もしますし」

皇帝もそれは感じていたようで、思案していた。

「ドクトリヤ公爵家の長女とファルマシヤ侯爵家の三女は、確かカトリーヌと同じ日に生まれたので、意外と気が合うかもしれませんよ」

「そうか、ドクトリヤ公爵とファルマシヤ侯爵の娘か。それは良い案かもしれないな」

「では、今度その子らを招いての私的なお茶会を催しますわ。これでお友達が出来たら素敵ですわね。きっと」

皇后はドクトリヤ家とファルマシヤ家に招待状を送った。そうして一週間後に皇宮の庭園でお茶会が開かれることになった。

 皇宮の庭園では、日本の桜のような花が咲き誇っていた。お茶会に招待されたドクトリヤ公爵夫人はセレーナを連れ、ファルマシヤ侯爵夫人はクリスティーヌを連れて参加した。お茶会にはケーキや焼き菓子などの他にフルーツなども用意されていた。お茶会が始まるまで、カトリーヌとセレーナ、クリスティーヌは、周りは知らない大人ばかりで、初めて見る子供たち。こんな環境で少し人見知りしていたが、お茶会が始まってしまえば、目の前には美味しそうなお菓子が目の前一杯に広がっており、テンションは上がって行った。少し時間も経ったころ、皇后や夫人たちはすっかり話に夢中になり、子供たちといえばちょっと飽きてきてしまい、母親たちとは少し離れた芝生の上で遊んでいた。

「折角桜みたいな花の下で過ごすなら、ビールが欲しいわね、年齢的には無理だけど。桜の花の下なら、せめてクッキーよりお団子を食べた~い」

カトリーヌは、日本語でそうつぶやいた。セレーナとクリスティーヌはその聞きなれた日本語を聞き、

「「カトリーヌ様、今日本語を使った⁉」」

敬語も吹き飛んで同時に日本語で叫んだ。とても品があるとは言えない行動であったが。

「あら、貴女達も日本語話せるということは・・・もしかして日本からの転生者?私は鈴木梨香子よ」

そうカトリーヌが告白すると、

「貴女、梨香子なの!私は佐藤愛奈よ」

そうセレーナが告白する。そしてクリスティーヌは、

「二人とも転生していたんだ。私は高橋礼子」

「「「みんなこの世界に転生していたのね」」」

三人は叫び、お互いの無事?を喜んでいた。皇后や夫人たちの耳にもその叫び声は届いたが、聞いたことのない言葉で一体子供たちに何が起きたかを判断しかねた。

「これはもう運命よね、私たち死ぬまで三人一緒にすごしましょう」

カトリーヌがそう言うと、セレーナは、

「それはいいわね。誰も知り合いがいない中でも三人寄ればなんとかなるわね」

そう言った。クリスティーヌは、

「もう一度、死んでいるけどね」

と、突っ込みを入れた。これまでどうやって生きていこうと悩んでいた三人であったが、仲間がいることが知れて、お茶会が終わるころにはすっかり仲が打ち解けていた。


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