14. エピソード13 ロゼリアの進路
ヒッツブルグ村の一件もあり、薬剤の工業的生産が必要だということが分かった。今まではカトリーヌの研究室で細々と作り続けていたが、ヒッツブルグの村民の治療に皇室の在庫が半分以上消費されてしまった。おたふく風邪が他の村でも流行り始めたらもう治療が追い付かなくなる恐れがある。そこでアカデミーを挙げて研究に取り組まなくてはならなくなった。ただ研究資金が滞ってしまうためファルマシヤ侯爵はアカデミーに研究資金を拠出することにした。理学部で得られたデータを基に工学部で工業化の研究が行われ、ファルマシヤ侯爵領で建設された工場で工業的に生産されるようになった。そうして時は五年が過ぎていった。
カトリーヌたち三人は十二歳になり上級アカデミーを修了し、それぞれ博士号が与えられ、正式にアカデミーの教授に就任した。
ロゼリアは十七歳になり進路に迷っていた。妹たちの活躍を見て自分も人の役に立つ仕事をしたいと思うようになっていた。そこでロゼリアは思い立ち、妹の研究室を訪れた。
「相変わらず忙しそうね。本来ならまだアカデミー附属中等部に入学する年齢だというのにこんなに頑張って」
「お姉さま!お姉さまだって飛び級していたらもうアカデミーにご入学されていたでしょうに」
「仕事楽しい?」
「楽しいですよ。私の研究が人々の役に立つと思うと、大変遣り甲斐がありますわ」
「遣り甲斐ねぇ。私には貴女がしている研究はとても無理だわ」
そう言って研究室を後にした。
その足で医学部のセレーナの居室に向かった。
「セレーナ嬢、お時間よろしいかしら?」
「ロゼリア皇女殿下、ご挨拶申し上げます」
「忙しいところお邪魔して悪いわね」
「いえいえ、今ひと段落着いたところです」
ロゼリアが向かい合わせのソファーに座ると、セレーナもロゼリアの向かいに座った。セレーナは秘書を呼びお茶を淹れてくるように命じた。
「セレーナ、だいぶ活躍しているみたいね」
「おかげさまで。ただ私が忙しいということはそれだけ患者が多いということで、そのことには心を痛めています」
「ただ、貴女が活躍しないともっと多くの臣民が命を落としていたかもしれないわ。心から感謝しているのよ」
その時、秘書ではなく、白いメイド服のような服を着た女性がお茶とお菓子を持ってきた。
「白のメイド服とは珍しいわね」
「ああ、これはメイド服ではありません。看護師の制服です」
「なるほど、これが噂の看護師」
ロゼリアが看護師の方を見ると、
「はい、今年国家試験に合格しました」
と看護師はロゼリアに応えた。
「今年の夏、アカデミーを卒業したばかりですよ」
とセレーナが付け加えた。
「皇女殿下、看護師が珍しいですか?」
「そうね、最近体調が良いから病院とは無縁だし、定期検診は貴女のお父様に皇宮まで来てもらっているからね」
「最近何かお悩みですか?わざわざ私の居室までいらしたのですから」
セレーナは話題を切り替えた。
「分かってしまったかしら?そうね私の今後について悩んでいるわ」
「皇女殿下の今後ですか?」
「そう。皇族としてはアカデミーを卒業したら政略結婚が待っているだけでしょう。そんな人生つまらないじゃない。貴女たちのように人の役にたつことをしてみたと思っているのよね」
ロゼリアはそう心の内を明けた。ロゼリアは二年前にデビュタントを済ませており、ケミストリヤ帝国の周辺国に嫁入りに行かなければならない。その国を選ぶのも皇帝一人ではなく、議会で協議にかけられたのち皇帝が可否を判断することになる。そうなることは以前から分かっていたことだが、タイムリミットが近づくにつれ逃げ出したくなるのも当然と言える。
「確かに私も政略結婚の対象ですが、皇女殿下のご年齢にならねば分からぬ辛さなのでしょうね」
セレーナとしてはこう応えるのが精一杯であった。
「お茶ありがとうね。今度皇宮でお茶でも飲みましょう」
そう言ってロゼリアは、セレーナの居室から退去した。
後日、ロゼリア主催のお茶会が開かれ、クリスティーヌとその姉、双子のドロシーとベアトリスも呼ばれた。お茶会の主な話題はやはり結婚についてだった。
セレーナはドクトリヤ公爵の一人娘で公式には決まっていないが、女公爵となって親類の高位貴族から婿を迎えることになっている。ドロシーとベアトリスの場合、どちらかが皇太子妃でどちらかが女侯爵となる予定だ。未だに結婚に関して計画がないのはカトリーヌとクリスティーヌだけだった。しかしこうなると二人とも結婚を意識せずにはいられなくなる。
「「結婚ねぇ」」
二人はつぶやいた。
そんなことがありながら半年がたった頃、とある山村で大洪水が起きた。そのため国からの物資の調達では間に合わず、各領地からも物資の調達などがあった。しかし、物資の分配などでいざこざが起きたりして収集が付かなくなっていた。そもそも、大所帯が集まり命令系統が統率を執れない状態が続いていた。そこで、皇帝からロゼリアに勅命が出された。洪水が起きた村での統率を執るようにと。
ロゼリアは先頭に立って配給や村の立て直しに尽力した。このことを通してロゼリアは遣り甲斐を一つ見つけた気がした。災害など起きたときに苦しむ人たちを救う団体を作ろうと。そのためには人を看護できる能力も身につけないとと。
そういうこともありロゼリアは進路を看護学科へ行き看護師になり、救済団体を設立すると。このことをカトリーヌに話すと、団体の名前は「赤十字」がいいわね。と言われ、赤十字社の設立を行うことにした。
皇帝はこのことに反対をしたが、反対をされればされるほど、ロゼリアの意志はより固いものへとなっていった。




