12. エピソード11 温泉郷2
昨夜、カトリーヌら三人は、温泉に浸かりながら日頃の疲れとメンタル的なリフレッシュをした。マリアにとっても半分は休暇なのでカトリーヌの護衛以外は他のメイドに任せていた。
「カトリーヌ様、今日はどうやってお過ごしになりますか?」
マリアがそう質問すると、カトリーヌは少し頭を悩ませた。今回は二泊三日の予定できているので、丸々一日を使えるのは今日だけ。温泉郷を見て回るのも楽しいだろうし、観光スポットのスパリゾートにも行ってみたい気がする。でも、マリアの負担を考えるとどちらがいいのか悩んでしまう。マリアはカトリーヌのしたいことをした方が喜ぶ気がするがと悩んでいたが、ちょっと確認したいことがあった。
「マリア、貴女泳げる?」
「泳げますが?」
「じゃあ、私に泳ぎ方教えてくれないかしら?」
ということで、スパリゾートに行くことになった。転生前のカトリーヌは、泳ぎは得意だった。ただ転生してから泳ぐ機会がなかったので、この世界で泳げるかどうか試したい気持ちもあった。なので、四人でスパリゾートへ行くことになった。泳ぐ練習は、スパリゾートの中央にある五十メートルプールで行うことになった。マリアが見守る中、カトリーヌはクロールで泳いでいるつもりだったが、実際には手足をばたつかせながら泳いでいる格好になり全然前には進まなかった。セレーナとクリスティーヌは笑っていたが、実際に自分たちも泳いでみるとカトリーヌと同じような状態になってしまった。マリアは頼まれた時からこうなると分かっていたので、驚きもしなかった。三人とも顔を水につけることは出来るので、マリアは向かい合いの状態でカトリーヌの手を引いて後退しながらバタ足をさせた。そこは転生者だけあって飲み込みは早く、息継ぎも直ぐに出来るようになった。その要領で手の使い方も覚えた。セレーナとクリスティーヌも同様にマリアに手伝ってもらいながら直ぐに泳ぎ方を覚えていった。そうやって過ごしているうちに三人は競争できるくらいに泳げるようになっていった。泳げるようになったら今度はウォータースライダーや流れるプール、波の出るプールなどで遊んで過ごした。
夕食は近くの湖で取れる魚をメインに地域特産の野菜を利用した料理が供された。三人は皇都とは違う料理に満足していた。
夕食後温泉に入る時、三人はちょっとした悪戯をマリアにすることにした。そしてある告白も。カトリーヌらは温泉に入る時、水着を着用せず裸でマリアが来るのを待っていた。マリアはこの世界の風習通り昨日同様水着を着用して入ってきたが、三人の様子をみて却って恥ずかしくなってきた。なので、マリアも裸になって温泉に入ることになってしまった。そして、カトリーヌは真面目な顔をしてマリアに話し始めた。
「マリア、私たち三人は生まれる前の記憶があるの」
「と言いますと、皇后陛下や夫人方のお腹の中での記憶で御座いますか?」
「いいえ、違うわ。私たち、別の世界で一度死んで、この世界で生まれ変わったの」
「一度死んで、生まれ変わる???」
この時は、いつも冷静沈着なマリアも声を出して驚いた。
「そう。私たちは生まれ変わる前も友達で、私は化学者、セレーナは医師、クリスティーヌは薬剤師だったわ」
「もしかしましたら、これまでのご活躍の数々は、、、その、、、生まれ変わる前の記憶に基づくものですか?」
「そうね、そういうことになるかしら。私達のこと軽蔑する?」
マリアは、言問いには直ぐに応えた。
「いえ、カトリーヌ様方が早くからこのようなご活躍をされなかったらば、帝国の医療革命は起きなかったでしょう。いえ、医療のみならず、学術の発展もなかったかもしれません。そう考えれば、カトリーヌ様方はこの帝国のみならず世界に舞い降りた聖女様でございます」
「ありがとうマリア、そう言ってくれて。でも流石に聖女様は言い過ぎよ」
「しかし、そのような話をするのに何故、温泉に裸で入る必要があったのですか?」
これには、クリスティーヌが応えた。
「いやぁね。私たちが住んでいた世界では、温泉は裸で入るものだったのよ。こうして裸で話し合いながら色々なことを話して友情を深め合っていくものなのよ」
「そういうことでしたか」
その後、セレーナが
「これでお風呂の後にビールがあると最高よね」
と、言い出した。
これにはマリアもきょとんとし、質問をした。
「ビールとは庶民が飲むお酒ですよね。お酒を飲んだことがあるのでございますか?」
「飲んでいたわよ。私たち向こうの世界では二十八歳だったのよ。よく休みが合えば飲んでいたわよね。もちろん、ビールだけでなくワインも飲んでいたわよ」
「えーっと一度亡くなった時が二十八歳で、今が七歳ということは、本当は三十五歳ということですか?」
マリアがそう言うと
「余計な計算はしない」
とカトリーヌに怒られてしまった。
「それよりマリア、貴女、結婚の話とかはないの?」
「いえ、御座いません」
「だって、もう十八歳で伯爵令嬢と言ったら許婚くらいいるでしょう?」
「いえ、いませんよ」
「お見合いとかは?」
「全部断ってきました」
「なんで?」
「私はカトリーヌ様のメイドですから」
「私のせい?」
「それは違います。私はカトリーヌ様をお慕い申しています」
このセリフにはカトリーヌも顔を赤らめた。
「これからもよろしくね、マリア」
「よろしくお願いします、カトリーヌ様」
こうして二人の絆は確固たるものとなり、四人の関係はより良い関係になっていった。




