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11. エピソード10 温泉郷

 温泉郷には馬車で約一日かかる道のりである。

 早朝、カトリーヌは眠たい目を擦りながら起き、メイド達によって身支度を整えてられていった。朝食を終えた頃、ドクトリヤ公爵家の馬車とファルマシヤ侯爵家の馬車が皇宮に到着した。

「「カトリーヌ皇女殿下、おはようございます」」

セレーナとクリスティーヌがそろって挨拶をした。

「おはよう、セレーナ、クリスティーヌ。ごめんね朝早くに来てもらって」

「いえいえ、これから温泉郷までご一緒させていただけるなど光栄のことですので」

三人は話しながら馬車に乗り込んだ。カトリーヌの専属メイドであるマリアも同じ馬車に乗り込んだ。

「セレーナ様、クリスティーヌ様、今回は私が馬車内のお世話と警護をさせていただきます。何卒ご容赦くださいませ」

マリアが挨拶を済ますとともに出立の号令がかけられた。

 皇都は千年以上の歴史がある都市で道路は石畳で出来ている。そのため、皇室の馬車とはいえあまり乗り心地が良いとは言えない。そのためか、三人はあまり口を開かない。マリアはメイドであるから当然控えている。しばらく馬車のと護衛の列が進んで行き、車窓からの景色を見ていると皇都の外壁が見えてきた。そして外門を過ぎると街並みから自然の景色が見えてきた。

「うぁー、森や草原が見えるー!」

クリスティーヌがはしゃぎだすと、セレーナは、

「馬車の乗り心地よくなったわね」

と話し出し、

「まぁ、原油を精製していたらアスファルトの原料が出来たので、外門から延びる主な街道はアスファルトに置き換わりつつあるわ」

カトリーヌはそう応えた。

「なるほどねぇ、流石カトリーヌ皇女殿下ね。貴女のおかげで生活面も色々変わってきているのね」

セレーナは感心していた。

「カトリーヌ様、リンゴはいかがですか」

マリアはいつの間にかリンゴを切り分けて、毒見をして見せた。

「ありがとうマリア。セレーナとクリスティーヌもいかが?」

カトリーヌがそう言うとセレーナとクリスティーヌもリンゴを口に運んだ。

「ちょっと酸っぱいけど甘くておいしいわね」

三人はリンゴを食べながらおしゃべりをして旅路を楽しんでいた。


三時間ほど移動したところで主街道から、温泉郷への街道へと入って行った。

「やはり、アスファルトの街道に比べると土の道は乗り心地悪いわね」

カトリーヌがそうぼやくと、

「石畳よりはまだいいのではないですか」

クリスティーヌはそう応えた。

 温泉郷までの道のりは川沿いを通っていた。川沿いを少し上ったところで、馬に水を与えるために隊列は休憩することになった。河原にテントを張り、カトリーヌたちはそこで昼食を摂ることになった。昼食の内容は、宮廷シェフが朝一に作ったものである。

「流石は宮廷シェフが作ったものね。とても美味しいですわ」

そう言いながらクリスティーヌはサンドイッチをほおばっていた。マリアは三人に紅茶を入れて回り、傍に立って待機していた。

「マリアは食事終えたの?」

カトリーヌが問うと、

「いえ、まだでございます」

と、応えた。

「いつ食べるのよ?」

そう、カトリーヌが聞くと、

「出発前にはいただきます」

と応えた。カトリーヌは「そう」とだけ言って、紅茶を飲んだ。

 休憩が終わり隊列がまた進み始めた。馬車の窓から見える景色は、川が細くなり山が見えてきた。

「だいぶ景色が変わってきたわね。山の上には雪が積もっているのね」

セレーナが楽し気に話しかけると、

「あの山は標高五千メートルを超える休火山で御座います。温泉郷はあの山の麓にござます」

そう、マリアが応えた。

「マリアって物知りね」

「いえ、とんでも御座いません」

「ええ、マリアってとても優秀なのよ。私の先生だもの」

マリアとカトリーヌの言葉が同時に発せられた。

「カトリーヌ様、あと二時間ほどで到着すると思いますが休憩を挟みますか?」

「そうね。座りっぱなしも辛いし、休憩しましょうか。護衛の人たちも疲れているでしょうし」

そう言うと隊列は休憩に入ることになった。

 馬車を降りて周りをよく見回すと紅葉が綺麗だった。

「赤と黄色、色とりどりで綺麗ね」

「そうねぇ、こんな景色見るのはいつ以来かしらね」

そうカトリーヌとセレーナが話していると、クリスティーヌが近づいてきて一言、

「生きていて良かったわね」

そう言った。


 マリアが言った通り隊列が二時間ほど進むと温泉郷に到着した。

 カトリーヌ達が宿泊するのは皇室の保養地であり、皇族が訪れたのは十数年振りだった。なので使用人たちは、カトリーヌ達の保養は大歓迎された。カトリーヌ達三人はそれぞれの部屋へ案内され、メイド達は荷解きをし始めた。しばらく経つと夕食の準備が整ったと連絡が来てダイニングに呼ばれた。

 テーブルを見ると普通のテーブルマナーとは違うようだった。よく見ると牛や豚、鳥とも違うような生肉のスライスが用意され、大きな鍋がテーブルの真ん中に置かれていた。マリアが、

「以前、カトリーヌ様が絵を描きながら教えてくださった、野生動物を煮る料理を再現させていただきました。今回のお肉はイノシシの肉を用意させていただきました」

と報告した。

「ぼたん鍋かぁ、私初めて」

とセレーナは感激していたが、カトリーヌは「そんな前のつたない説明だけで、料理長に再現させるなんて、どれだけ優秀なの?」と別の意味で感心していた。


 夕食を終え、三人は温泉へと移動した。

 この世界の温泉は基本的に水着で入るものなので、三人はそれぞれ可愛らしいワンピースの水着を着て温泉に入った。その後マリアが護衛役として、黒色でワンショルダーワンピースの水着で入ってきた。メイド服の上からでも分かる豊満なボディーを更に美しく見せるボディーラインだった。カトリーヌら三人は自分たちの幼いボディーラインを見下ろし、肩を落とした。セレーナはマリアに尋ねた。

「マリア、貴女歳はお幾つなの?」

「十八に御座います」

十八歳でそのボディーの完成度かと思い、自分が十八歳だった時のことを思い出していたが、比較にもならないなぁとクリスティーヌは思い浸っていた。

「マリアは私の乳母の娘で伯爵令嬢なのよ。十一歳の時から私のメイドをしてくれているの。私の大事なメイドで、大事な先生で、大事な友達で、大事なお姉さまなの」

カトリーヌがそう言うとマリアは顔を赤らめ俯きながら、口まで温泉に浸かった。

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