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2.何を入れるか

 俺たちは部屋に集まって、立体ウインドウを中心に座り込んだ。

 静まり返った部屋の中で、これから始まる壮大な実験に胸が高鳴る。


 このゲームは生物1体1体、個々の意思やら感情やらをシミュレートする。

 同じ設定で開始したとしても過程はランダム要素により同じにならない。

 こいつが廃れた理由は簡単だ。

 どんな世界を作っても最終的に技術の発展により万能の世界を手に入れて、『暇』という病によって自滅し絶滅する。そして新しい生物が新しい文明を作りループするだけ。

 過程が違っても結果は変わらないのだ。


 俺はこのゲームは最終結果を見るゲームではなく、圧倒的強者が弱者をいたぶるゲームだと思っている。



「さてと、どんな世界を創る?」


 とりあえず二人の意見を聞いてみる。


「原始的な文明から始めて、テクノロジーが存在しない世界で、生物がどんな文化や信仰を築くかを観察するのが基本だろ?」


 アスカとエリンは普通に歴史的進化を観察して終わる気らしい。


「まぁ、ゲームが面白いのは最初の何もできない何もない状態が一番楽しいしな。テクノロジーが存在しない世界でってのは賛成だ。でもそれで始めたら単細胞生物から観察することになるぞ。時間の流れを調節できるにしても、見てて面白くもなんともないだろ」


 俺は危惧してることを伝えた。


「ある程度まで時間は飛ばすことになるね」

「そこですでにある程度発展した文明をもつ生物を配置しようと思う」

「終わりが早くなるだけじゃないか?」

「遅延行為として敵対勢力を配置しようと思う。あと、こいつで遊んでた奴らのデータのコピーを使おうかなって。いろんな世界からいろんな生物を持ってきたらおもしろいんじゃないか?」


 俺は朝から考えていたことをふたりに話した。

 最初何もすることがないのは暇だしそれでいいと二人とも賛同してくれた。

 元のデータはもう動いてない世界だから俺が続きをしてやろう。


 俺たちは画面を操作し始めた。数値を入力するたびに、まるで神の手で世界を形作っているかのように地形が変わっていく。山や川、森が生成され、気候や地形を極端にならないように微調整していく。

 一通りの設定を終え、いよいよ世界に生物を配置する段階に入った。


「まずは、最初の生物をどうするかだな。変な形の生物もいいけど、基本は人の形をしてるやつがいいな」


 俺が言うと、アスカが少し考え込んだ顔で答えた。


「最初は少しだけ発展した文明にしよう。ある程度の農業や建築技術があり、宗教や政治の基礎が存在する。だが、戦争はしていない平和な社会だ。築き上げた文明がすべて奪われた者はいったいどのようになるんだろうか」


 アスカの奴さらりとえぐいこと言ったな。

 俺たちはアスカの言った基準で、知らないだれかが遊んだデータを検索する。


「丁度よさそうなデータが見つかったわ。地球の2000年頃をシミュレートして放置されたデータね。技術に娯楽、戦争とすべてがいい具合に発展途上ね」


 エリンが見つけたデータを俺とアスカが確認した。

 さすがに時代が古すぎるだろと思ってデータを見てみると、ナチュラルだった頃の生活を少し不便にした程度の生活風景だった。俺はこんな昔の生活基準だったのかとひとり萎えた。

 今や技術の進歩はネクストが生まれてからはほとんど停滞している。衰退してるかもしれない。ネクスト以前の時代が一番人類として輝いていたのかもしれないな。

 気を取り直して俺は別の生物を探しだした。


「一個目は決まったし、あとはやっぱ男ならファンタジー要素は外せないよな!」

「ファンタジーならエルフやドワーフ、獣人とかかな。世界の設定に魔法要素を加えなければならないな」


 俺とアスカの会話に、エリンだけが腑に落ちない顔で見てくるが無視する。


「これはどう?樹の世界らしいわ。世界樹に住んでいるエルフと呼ばれる生物がメインのデータだそうよ」


 エリンの見つけたデータを確認する。その瞬間、目の前に広がる異世界の光景に息を呑んだ。

 樹の世界には世界樹と呼ばれる大木が大地の代わりとして使われていた。何もない空間に巨大な樹が根を張り、その上にエルフやほかの生物が共存している。

 その神秘的な景色に、俺はしばし言葉を失った。

 巨大な葉の上に街や畑が建っていたり、世界樹の枝の上に世界樹とは別の植物が生えたりしている。木の上なのに森や川まである。そういった世界樹の枝が上下左右に存在していた。まさに世界の樹だ。

 幹から枝先までの距離が地球一周分以上あるって何考えてこんな世界作ったんだよ。


 エルフの設定もお約束に則っていた。

 長寿であり、自然を愛し、魔法が使えて、弓が得意。男女ともに容姿端麗、耳は長く先が尖っている。


「王道エルフだな。ではこいつで決まり!あとはドワーフ、獣人だが。ドワーフにはこのデータを推すぜ」


 そして俺は山が多く自然豊かな世界に住むずんぐりむっくりとした生物がいるデータを見せた。

 こいつらもTHE・ドワーフという感じの設定がなされている。鍛冶や細工、建築を得意とし誇り高く頑固な種族らしい。あと酒が好き。


「あとは獣人?だったかしら?」


 どうでもよさそうなエリンに俺は真剣な表情である問題を提起した。


「ああ、獣人だ。そして肝心なことがある。ケモ度をどの程度に設定するかだ・・・」


 エリンは意味がわかないって顔をした後ため息をついた。

 こいつ今頭の中で検索して、理解したとたんバカにしやがったな。獣人ってのはケモ度で論争が起こるくらい重要なことなのに。こういった細部へのこだわりこそが、俺たちの遊びを極上のものにするのに。


「人に近い獣人も、獣に近い獣人もどっちも探せばいいだろう」


 アスカの素晴らしい提案を採用し俺たちデータを検索した。

 様々な世界からデータを持ってくる覚悟していたが、意外とあっさり多種多様な獣人が存在するデータが見つかった。

 広大な自然で形成された世界で、犬、猫、鳥などを基本とした獣人はもちろん水生生物の獣人までいる。ケモ度も多種多様。素晴らしい。


「とりあえずはこんなものか」


 俺の声にふたりも頷いた。


 持ってくる生物が決まれば配置する場所を選び。地形をすこし再生成。山脈が連なる地域に川が流れ込み、肥沃な平野が広がる。ところどころに深い森を配置。そして、そこらにいくつかの食料になりそうな植物や生き物を配置した。


「異なる文明が接触したら、進化が加速するんじゃない?」


 エリンが首を傾げた。


「その通りだな」


 アスカは頷きながら、画面を操作した。


「接触が進化を加速させることは間違いない。だからこそ、彼らがすぐに接触できないような地理的な障壁を設けよう」


 俺が画面を覗き込み尋ねた。


「じゃあ、どうするつもりだ?俺は害獣となるモンスターを各所に配置する気でいたが、山脈や海で隔てるのか?」

「その通り。山脈、海、そして広大な砂漠や氷原も使う。さらに、各文明を囲む形で自然の要塞とも言える場所を作ることで、簡単には接触できないようにするんだ」


 アスカは説明しながら、各文明を囲むように巨大な山脈を設置し、海や大河を配置していった。


「なるほどね。これで彼らがすぐに接触することはなくなるわね。これならばある程度安定した状態で各文明が接触できるわ」


 とエリンが納得した。


「よし。いい感じになってきたな。」


 俺はこれからの展開を想像して微笑んだ。

 これから文明同士が出会い、互いに影響を受けながらどのように進化していくのか。友好関係を築くのか、それとも戦争が始まるのか。想像するだけで胸が高鳴る。これこそが神としての醍醐味だ。彼らの運命を左右することができるのだから。


 こうして、俺たちは世界の基本設定を完成させた。異なる文明が存在し、彼らが互いにどのように影響を与え合い、発展していくのか。

 それを神として観察し、時には介入して彼らの運命を変えていく。


「じゃあ、始める前にこいつらの世界を壊しに行くか!」


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