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【3】

 ──いったい今まで、……君は今まで、どれだけのことを我慢して飲み込んで来たんだろう。ママ、……涼音ちゃん。


「もし他にも何かあったら言ってくれよ、ママ。俺で役に立つことなら、なんでも、いくらでも」

 考える前に口から出た言葉に、涼音は軽く首を傾げた。


「ん~、今は特にないかな。パパは家のことも子どもたちのことも十分過ぎるくらいやってくれてるし、私も航ちゃんや雪ちゃんと毎日笑えてるし。これ以上は別に。あ、それよりパパはいいの? パパだってひとりの時間なんてないじゃない」

「そう、だな。そのうち頼もうかな」

 あっさり答えた涼音に、隆則はとりあえずは笑って曖昧に返した。

 涼音の願いは、おそらく自分より子どもたちのことだ。

 求婚したときに、「私の一番は雪ちゃんで、結婚したら次は航ちゃんになるわ。あなたはその後になるけどいいの?」と問われたことを思い出した。


 妻は必ずポケットのある服を選ぶ。

 そのポケットには、子どもたちのために必要なあれこれが入っているのを隆則も知っていた。

 ハンカチにティッシュペーパー、汚れ物を入れたりする小さなビニール袋や、何故か個包装のキャンディまで。


「そうだ、ママ。この前服の話しただろ? やっぱりポケットはあったほうがいいよな。化粧や髪型を見たり直したりする鏡とか口紅とか、そういうの入れとくのにもさ」

「口紅は流石にその場で塗るわけじゃないから。でも鏡はいいかもね」

 唐突な台詞の意味は、妻に伝わっただろうか。この返答からは読み取れなかった。

 それでもいい。


 ──子どものための必需品は父親である俺も持つから。君はただ、君のためだけのものも入れていいんだ。モノじゃなくて、今まで余裕がなかったのなら『夢』でも『希望』でも。……俺が入れたっていい。


 お洒落なお出掛け用はもちろん、家の中の普段着にも。

 常にそのポケットの中に。


   ~END~


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