【2】①
「ただいま~」
迎えた土曜日。
午後から予約した美容院に出掛けて行った涼音が、最初に告げた予定より少し遅れて帰宅して来た。
「ママ、あたまどーしたの?」
雪音だけが不思議そうな声を上げたが、ドアを開けてリビングに姿を現した涼音にその場にいた隆則と航大は咄嗟に言葉も出ない。
「ママ、お、おかえり。えーと」
「……何? もしかして似合わない? 鏡見たときはそんなに変じゃないと思ったんだけど、やっぱり」
沈黙が続くのはマズい、となんとかそれだけ言った隆則に、涼音が不安そうに口を開いた。
「違うよ! そうじゃなくて、その。あんまりイメージ変わったから、ちょっと吃驚しちゃって」
「お母さん、よく似合うよ」
「ママ、かわいいー」
口々に感想を述べる家族に、涼音は少し複雑そうだ。
「気を遣って褒めてくれなくてもいいのよ。変だったら変だって、正直に言ってくれた方がありがたいわ」
どう見ても納得していない彼女に、とりあえず「本心だ」ということだけはきちんと告げなければ。
「いや、ホントに変なんかじゃないって! いくらなんでも週開けたら仕事にも行くんだし、ちょっとどうかと思ったらちゃんと言うよ」
「ぼくも、すごく似合ってるしきれいだと思う」
焦る隆則に、航大も続いた。
涼音は今まで、背中の中ほどまで届くストレートの黒髪だった。
前髪も作らず長くして、普段は後ろでひとつに束ねていることが多かったのだ。
それがいきなり、肩に掛からないくらいの所謂ショートボブにして来たのだから、驚かない方が無理というものだ。
「……そう? ねぇ、雪ちゃん。ママ、おかしくない?」
「おかしくないよー。まゆみせんせいみたい」
雪音が両手を顔の横で動かしながら、髪の長さを表そうとしている。
真由美先生は、去年の雪音を担任してくれていた保育士だ。
まだ保育士歴数年の若い彼女は明るめのショートウェーヴで、涼音の新しいヘアスタイルとはまったく違う。
しかし確かに長さだけなら、元の涼音のロングヘアよりは真由美先生に近いとは言える。
雪音なりに「変じゃない」と伝えようとしてくれたのだろう、と涼音はようやく安心したように息を吐いた。