【1】①
『優しい時間は。』(義兄弟BL)のサイドストーリー・『君と生きる未来のために。』に続くその2。
両親の結婚前後のお話です。
「ママのポケットには、なんでもはいってるんだよね〜」
シンプルなワンピースの脇ポケットから布製ケースに入ったティッシュペーパーを取り出した妻の涼音に、彼女の、──今は隆則の息子でもある四歳の雪音が嬉しそうに口にした。
「ママだけじゃないわよ。『お母さん』はみんなそう。ああ、『お父さん』もそうかもね」
雪音のソフトクリームで汚れた口元を拭いながら、彼女は笑う。
五年前に離婚して、息子を引き取って育てていた隆則と、所謂「未婚の母」だった涼音。
互いに子連れで結婚して、初めての『家族揃ってのお出掛け』だった。博物館で催されていた「恐竜展」を見に来たのだ。
隆則の実の息子である、小学四年生の航大が恐竜や化石が好きだったからだ。
その後、雪音の希望でソフトクリームを食べた際の出来事だった。
「レディースのお洒落な服って、ポケットないもの多いから困るわ。中には飾りポケットっていうのか、ジャケットなんて蓋だけついてるのもあるのよ」
服を選ぶ基準はまずポケットが有ることだ、と話す妻。
「お母さん、かばんは?」
航大が不思議そうに義母に尋ねた。確かに服にポケットがなくても、大人は常に何らかの荷物を持っている。
「航ちゃん、ハンカチとかティッシュはランドセルよりポケットに入れてたほうが便利じゃない?」
「あ、うん。……そうだね。『手をふこう』と思ったときに、いちいちランドセル下ろして開けるよりポケットがいい」
日々ランドセルを背負って通学している息子は、義母の言葉に頷いている。
「そうなのよ〜。『今いる!』ってものはすぐ出せないと。まあママはバッグ大きいのもあるかな。若いお姉さんで、小さいバッグにハンカチと財布とスマホくらいしか入れてなかったらポケットと同じようなものかもね」
航大に返す彼女の声も表情も優しい。
「ママ、これからは一緒に出掛けるときはパパが何でも持っとくから。もし『ポケットないけど気に入った服』があったら気にせず買って着たらいいよ」
「ありがとう。機会があったらそうするわ〜」
その程度のことでも力になれれば、と言い添えた隆則に、涼音はやはり笑みを浮かべて答えた。