8話 異例人物と制限
「で、結局何処まで続いてんの? この草原」
無限とは言うが実際この『天国』には他に住人がいるはずだ。コイツがそう言った。
なら、何処かでその切り替えがあるはずだ。まさか一定の期間草原にいるか何らかの条件を満たしてからでないとこの草原地帯から抜け出せないわけではあるまい。必ず何処かにこの草原地帯の出入り口があるはずだ。
「……この草原地帯は無限に広がっております。ここだけではなく他の地帯『天国』の範囲には“限り”は存在しません」
「限りがない限りがないって言うけど、無理だろ、それ。土地にはどうしたって限りが出てくるし、そもそも他の地帯がある時点で、ソコとどうしたってぶつかるだろ」
実際、まだ確実な証明はされていなかったものの宇宙にだって限りはあった。宇宙の外がどうなっているのかが探究者たちにとって何よりの解明したい事実だった。
ここがもし地球ではない何処かだったとしても、やはり何処かに限度が存在する。それがたとえ『天国』であっても。
「……初めに説明したはずです。ここは“新世界”。“制約のない自由”を許された桃源郷だと」
「………………」
「ここに“限り”も“制約”もありません。あるのは“無限の自由”だけです。ここは、旧世界の人々により現実として存在を許された創造世界なのです」
同じ押収の繰り返し。……考えるだけ無駄ってことか。
ここはまるで異世界のような空間だが話を聞く限り、俺のいた地球のはるか先、未来の可能性が高い。
よく小説で流行ってた異世界転生や転移とは少し異なるようだ。
まぁ…………
「雄翔様、草原の外に興味がおありですか?」
執事いるし、読心術できるし、無限とか創造とか言ってるから、ほぼそれと言っても問題ないような気もする。
「無いこともないけど、どうせ無理なんだろ。俺は“異端者”持ちじゃないからな」
「……申し訳ありません。本来なら既にいくつかの“異端者”が馳せ参じているはずなのですが」
どうやら俺は、これまで来たどの住人にも当てはまらない異例人物らしい。
普通、この草原に送り込まれた者は既に使役するべき“異端者”を所持しているらしい。それは俺の前に来たどの住人にも当てはまるらしい。コイツを同郷と判断した奴らもそこにおかしなところはなかった。
……なら何で俺だけ。
「特定の“異端者”をお持ちでなくとも、草原地帯から出ることはできますが貴方様個人の『庭』を持つことはできません」
話を聞けば、ここは本当に何でもありの世界だが、それでも初心者にはある程度の制限がつく。
まず一つ“異端者”と住人の差の認知。
これはほとんどの人間が理解しているので、俺や突然の訪問者に対してのみだろう。
そしてこれは俺に対してのみの制限だが、特定の“異端者”の所持だ。
人型であれ動物型であれ、たとえ生のない小物の形をしていても、それが“異端者”であれば何をするにも不可能はない。
それこそ、無限の自由だろう。
だがそれも通常ならばここにくる前に既に少なくとも一者の“異端者”を所持しているため、わざわざ制限とする必要はない。
つまりは“制約のない自由”に反しない制限というわけなのだろう。
(捻くれ問題みたいだな)
他にもいくつかあるそうだが、ここでは割愛する。
要はここに来た時点で、ほとんどの人間は既に当てはまった条件しかないわけだ。
ここにくる前に手続きを済ませて入れば後は自由、と言うことだろう。
そして、俺は何故かその手続きをする間もなくここに来てしまったと言う事情らしい。
実際、その手続きの記憶は一切ない。問答無用で呼び出されたような感覚が、俺の心境だ。
(まぁ、起きたらそこは病院のベッドの上でした〜、よりはマシだと思うことにしよう。そうしよう)
「時折、記憶をなくされていらっしゃる方もいらっしゃいます。もしかしたら雄翔様もそのような事情がおありなのかもしれません」
「死に際の記憶はあるけどなー」
(まぁ、本当に死んだかもわからないけど)
もしかしたら植物状態で意識だけここにあるとかそう言う……
「いえ、雄翔様は実体がございます」
「……急に心の声に返事すんなよ、ビビるだろ」
どうやらその可能性は、それこそ“限り”なく低いらしい。
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