7話 名無しの執事
何処までも続く草原の中、寝っ転がっていて気がついたのは腹が空かないことと、太陽が必要以上に眩しくないことだった。
「それはここが『天国』だからです」
もしかしたらこれはコイツの口癖なのかもしれない。
全身執事の癖して何処か違和感のあるヤツだ。
“異端者”と言うヤツは皆こんななのか?
「今の自分は主人により創り上げられました。他の者もそれぞれの主人の意向に沿った姿形をしています」
「…………アンタさぁ、いちいち俺の心の声に返事しないでくれる? 一人で考えたい時だってあんだからさ」
「申し訳ありません」
……そしてあともう一つ、この執事は読心術を備えているということ。
「主人がそのように望まれたからです」
「だからさぁーーーーー」
眩しくない太陽なんてまるで映像みたいだ。
いくらここが『天国』だからと言って、これじゃあただ騙されてるだけの高性能な仮想空間の方が納得がつく。
そうは思っていても、冷えた風が陽光に暖められたような風を肌に感じて、それはそれで納得できるかが少々不安になった。
こんな穏やかな時間、子供の頃ですらなかった。
ある意味、ここが『天国』なのも頷ける。
この平和そのものの時間は、まさに『天国』の象徴だ。
…………ん?
「そう言えば、この草原はどんくらい続いてんの?」
俺は徐に起き出して全身執事に尋ねる。
と言うか、読心できてんなら質問する前に答えてほしい。
「この草原地帯は無限に広がっています。この『天国』では限度と言う“限り”は存在しません」
「…………?」
「それから読心をして構わない範囲をお教えください。切り替えます」
「……嫌味か?」
「?」
本当に不思議そうにする態度から嫌味ではなく親切だったことがわかる。
(コイツ、もしかして天然なのか? 執事のクセに?)
やっぱり執事にしては違和感のある男だ。いや、コイツの主人がそう言うふうに仕立てたのか?
もしそうなら主人の方も一癖ありそうだな。
今でも心底不思議そうに釘を傾げるコイツに、「もともとそういう気質だったのでは? だから実の主人からこうして遠ざけられてるのでは?」と思わずにはいられない。
「自分は“異端者”です。個人の個性は存在しません」
「はいはい」
淡々と説明をするその表情が、初めと違い随分感情的に見えるようになった。
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