6話 主人の命
ここが、『天国』だと理解してる?
それって……
「そいつらは一体何処から来たんだ?」
この場所に来てすぐ理解できるってことは、理解できる環境があったってことだ。
つまりそれは俺とは違う生活習慣のある……。
「なぁ、そのほとんどに含まれないヤツはどんなヤツなんだ?」
「………………」
「何か共通点はないのか?」
男は少し思案げにして口を開く。
「共通点は、わたしの姿を見てこの場所を理解されない方、ということしか」
それだけ?
その俺の思考を読み取ったのか、男は何か思い至ったように再度口を開く。
「あぁ、その皆様は自分の顔をみれば何故か“同郷”だと思われます」
「……俺はこれからどうすればいいんだ?」
「お好きになさって構いません」
「………………」
好きにしろって言うが、こんな何もない草原で一人何をしろって言うんだ。
「まずは、ある程度の“異端者”を所有されるのがよろしいかと」
「……アンタ、自分の主人のところに戻らなくていいのか?」
“異端者”とか言う呼び方もだが、『所有』って言い方もなんだか嫌な気持ちになる。
コイツを“同郷”だと考えた奴らに会えないかを聞けば、俺が一定数の“異端者”を所有していないと無理だと言われた。
いや、完全に否定されたわけではないが、身一つで『天国』を謳歌する住人たちの元へ行くのはなかなかに危険らしい。
それはそれぞれが展開する独自の領域があるらしくその中での住人は言わば『王様』や『神』のような存在らしい。
それぞれの領域に限りはなく、延々と土地が続いているので何か不測の事態があれば迷子にもなるそうだ。
住人によっては広い領土でひたすら狩を行っていたり、中には魔法世界を展開している者もいるらしい。
それはこの世界に許された“制約のない自由”の範囲内らしい。
つまりは住人の数だけ世界が造られている。
それはまさに『天国』のようだ。
「……自分は次の新しき住人がいらっしゃるまでは、貴方様の生活のサポートをさせていただきます。そのように指示が出されておりますので」
「アンタの主人って人使い荒いのな」
こちらとしては助かるが、大事な“所有物”を他所にやっていいのか?
「我々は主人の命令通りに動きます。そう言う役目です」
「………………。んじゃ、他所の住人を殺してこいって言われたら、殺すの?」
「可能な限りであれば」
この答えには流石にギョッとした。「可能な限り」が怖いよ。
「ここは桃源郷です。死にたくないと言えば死なず、殺したいと思えば殺せます」
「…………それ、矛盾してない?」
控えめに言ったが明らかに矛盾の塊だ。そもそもコイツの言うことを本当に信用していいのかは今でも疑っている。
「ここは理想郷です。矛盾はしません。もし仮に一方の住人が殺害を要求し、もう一方の住人が不死を望んだとしましょう。その場合、もう一方の住人は死に、再度生き返ることができます」
「生き返ったから死んだことにはならない、って? なら殺したことにもならないじゃん。もし一方がもう一方の完全な死を望んだらどうすんの?」
「その場合、もう一方の住人は死にます。しかし、その時に死ぬのは“異端者”です」
淡々と説明する男の表情には何の感情も映していない。
ただ事実を述べ、俺の疑問に答えを出していく。
「住人が不死を望むのであれば、その住人が使役する“異端者”がどんな形であれ願いを叶えます」
「…………身代わりになるってことか?」
「簡単に言えばそうなります」
「………………」
聞かなきゃよかった、と一瞬は思うものの知っていなかった時のことを考えるとどうにも煮え切らず、言葉として吐き捨てられない。
つまり、“異端者”が住人となり死ぬことで一方の願いは叶う。その時点でもう一方がどうなろうと、一人の住人が死んだことに変わりはない。その住人が“異端者”であったとしても。
姿形を自由に変化させる方法にしては、捻くれすぎてる話だ。
たとえこれが“タラレバ”の話だとしても。
涼やかな風が頬を撫でる。草花が風に煽られ囁くような曲を奏でる。
見渡す限りの広い草原。ここは『天国』。
かつて誰もが空想した理想郷。
……なのに、俺は何処かここが本当の『天国』なのか、納得できずにいた。
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