5話 “異端者”の印
「……冗談だろ?」
「いえ、本当のことです」
淡々とした会話から、まるで先ほどまでとは別人の男と話しているような気さえしてくる。
“異端者”
間違ってもそれは肯定的な存在だとは、先ほどまでの会話では一切感じられなかった。
「本来、ここ『天国』の住人は一定の“異端者”を所有することができます。しかし、まだいらしたばかりの貴方様にはそれがございません。……少し通例とは異なっていますが」
ここでようやく感情らしい表情を浮かべた男に、俺は何処か安堵した。男の表情は困っているように見えたからだ。
「通例?」
「はい。通例であれば印付きが一者、ここにいらした時点で既にお付きになられているはずなのですが」
印付き?
「“異端者”には幾つか種類があり、その内の見分けの一つです。印の有無で所有者の有無がわかります。印のない者は特定の主人を持たない、あるいはその土地の付属品であるということです」
付属品って、まるで部品見たいな……。
「反対に印のある者は使役者、主人が既に決まっているということです。このように」
「っっっ!?」
そう言って、男が見せたのは左耳だった。
左耳の上から半分ほどが黒く染まっていた。今まで髪に紛れて見えていなかったが、その色はドス黒く気味の悪いものだった。
「主に印は耳に現れますが、もし主人の命により耳のない、あるいは目立たない姿に変化した場合は体の一部が同じように染まります。主人から黒以外の色を所望されればそれも変化することが可能です。要は、一眼で印付きかそうではないかがわかるようにされています。ここでの生活に慣れた方では、印を見ずとも住人であるかそうでないかが判別できるようになります」
待て待て、姿の変化って、確かさっき説明してたよな?
「個の魂を持たない」って、つまり“異端者”はRPGでいうNPCみたいな存在ってことか?
もしもNPCに重要度の階級があるのだとしたら印付きは一つ階級が上?
いやそもそも……
「アンタは主人持ちなのか?」
「はい」
答える男の顔には、何の感情の起伏も見られない。
「自分は主人の命により、この地『天国』にいらしたばかりの皆様を迎え入れるよう指示されております」
「迎え……?」
「はい。中には貴方様のように突然いらっしゃる方もいらっしゃいます。その時はこうして同じように説明をさせていただいております」
……中には?
「通常、ここにいらした方々のほとんどが、ここを『天国』ということをすぐにご理解されておられるのです」
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