3話 “異端者”
“異端者”
『天国』と言う世界といえど、この世界には異端たる存在があった。
“制約のない自由”であるはずのこの世界で、その理に唯一反する“制約される者”。それが“異端者”であった。
それは住人たちにより使役される動植物、玩具とされる奴隷。つまりは住人たちが『天国』を謳歌するためだけの“役者”だ。
彼らは個の魂を持たず、姿形を望まれるままに変化させ、住人たちの『天国』を過ごすための至高の道具とされている。
そう、それが例え殺害、恥辱、強姦。尊厳を踏み滲みられ、蔑ろにされても何ら問題のない存在。
いや、そもそもそれらには初めから尊厳などない。
住人たちの望むままに、触れたいと思えば触れられ、壊したいと思われれば壊される。
それだけの“役者”なのだ。
何故この『天国』にそんな“役者”が存在するのか。
それはここが『天国』であるから。
かつて旧世界より人々が求めた『天国』。
その存在が今現実として存在していた。
しかし、それは“許される者”による創造世界。
何の代償も、犠牲もないはずのない奇跡の世界。
“異端者”の存在は謎に包まれている。
『天国』の住人が旧世界の“許される者”であることから“異端者”は“許されざる者”であると言う噂はある。しかし、実際のところその真実は誰も知り得ない。
わからないのだ
とにかく、それらは“異端者”と呼ばれ、この世界の理に反する“制約ある者”に変わりない。
そして、この物語はその『天国』と呼ばれる“制約のない自由”を許された世界で、唯一“制約された異端者”に関わる話である。
「……異端者?」
「はい。噂ではこの世界の住人が“許される”者であることから、異端者は“許されざる”者であるのではないかという話もあります」
それはつまり、罪人、とかそういうことか?
「かくいう自分も“異端者”の一人でございます」
「……え」
目の前の執事服を着こなす男が、この世界の異端たる存在だと言う。
何の冗談だ。信じられるわけがない。
だって、もしもコイツの話の通りなら“異端者”とは、
『差別対象』のことだろう?
ふと、信号を待っていた時に聞こえてきた声を思い出す。
「ここは、決して『天国』なんかではない」
今、改めてその声が聞こえてきた、気がした。
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