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【連載中】Dark heaven  作者: 春野美咲
第一部
22/24

22話 過去と未来の本


「ボクの図書館は、誰でも自由に出入りできるわけじゃない」


 そう言う彼は、そのまま一人説明を続ける。


 曰く、この魔法図書館には一定の基準を満たさないと入館は不可能らしい。

 図書館の経営、もとい管理者たる彼は“外”と交流を図ることもないので図書館の存在自体、この世界では早々認知されていない。

 入り込もうとして入り込める場所でもない、ということは理解できた。俺はただ、その基準にうっかりハマってしまったからここに引き込まれただけなんだと。

 一体どんな条件下で俺がここに導かれたのかは分からないが、だからといって知りたいとも思わない。


「拘り抜いた結果、この図書館にはある一定のルール内でしか特定の本を読むことはできない。たとえ、この図書館の主たるボクにもね」


 そして、この図書館の創設者たる彼にさえ、開くどころか手にすることもできない本があるという。

 ふざけた話だ。


「特に、“未来”に纏わる本は貴重だ。ボクもまだ読めていない」


 それを読むにはまた、さらなる条件を満たさなくてはならない。

 その条件は定めた本人にすらクリアできないという。なら、その本には一体なんの意味があるんだ。


「ボクは本が好きだ。すべての知を、詰め込まれた宝だ。いつかボクはそのすべてを手中に収める。この世の全てを得たとき、ボクの目的は果たされる」


 無理だ。たとえ寿命もなく、永久の時を生ける怪物とて不可能だ。永久の時を生きられるなら、その分永久分の過去も、未来も続く。

 世界が終わるその時が来ない限り、彼の願いは敵わない。


「ボクが定めたルールは変えられない。たとえボクでも、例外は作れない」


 本当に、無駄な空間だ。

 なんの意味も果たさない。


「キミは“未来”を知りに来たんだろう?」


 この図書館で本を読む権利を得たキミには、その資格がある。

 そう語る眼の前の男は俯き加減でその表情を影に隠しているが、好奇心の抑えられない瞳が爛々と輝いているのが丸分かりだった。

 まるで、俺で何かを試そうとしているようだ。


「“未来”に関する本は禁書庫に保管される。それを読むには、条件を満たし資格を得なくてはならない」


 …………聞かなくても、俺には何故かその条件が何かか見えてくる。

 まるで目の前の男と思考が同化しているように、その考えが読めてしまいそうだ。

 その瞳から目を逸らし、できる限り男から遠ざかろうと背を仰け反るが、たいして意味はない。

 いい加減、考えるのも疲れてきた。


「“未来”を知りたいのなら、過去、現在。その全てから読み取らなくてはならない。ボクが一番初めに、この図書館を創設したときに決めていたこと」


 まるで子供のように夢を語る男は、恐ろしく興奮している様子だった。

 まるで今目の前でその夢が具現化するような、夢物語が現実になる瞬間をその目で見ているかのように。


「キミになら教えられる。いや、キミにこそ伝えたいっ!」


 目を輝かせ、その瞳で俺を見つめる男に俺はおかしなほど冷めた思考だった。

 熱くなる彼を見ていて、かえって自身の表情が冷えていくのを感じた。

 どうして、自分はこんなところにいるのか。どうしてここまでで彼の話を聞く気になれたのか。今ではそれが心底不思議だった。


「キミになら“未来”に纏わる本を見せても構わないっ!禁書庫に入る権利をキミにならっ…………」

「図書館の創設者にすら手に取れなかったものを、どうして余所もんの俺が手にできると思うっ」


 いい加減、目の前の男にもウンザリしてきた。

 俺は“未来”を求めたことはない。知りたいと願ったことなど、一度としてない。

 それなのに、それを押し付けようとしてくるこの箱庭の主は、それを口実にしてただ俺を利用したいだけだ。


「俺は“未来”なんか望んでないっ。他人を利用する前に、自分でなんとかしろっ」


 まるで、自分が別の生き物にでもなったみたいだ。

 冷え固まったはずの視界が妙に熱をため始める。

 俺は、どうしてこんなにも苛ついているんだ?


「雄翔」


 いつの間にか自分が、相手に影響されているのがわかる。


「キミがココに来たということは、何か理由があるはずだ。たとえ、キミ自身にその自覚がなくとも」


 そうでなくちゃ、この図書館に入れるはずもない。

 そう言い聞かせてくる相手に、俺はどうしたらいいのかわからなくなった。

 いつの間にか俺はここにいた。

 呼び出したのはソッチだ、とそう言いたい。

 それでも、俺は何かを忘れている気がする。


 確かに、俺はここに来る前どこにいたんだ?


「雄翔、もしキミが望むなら“キミ”の本を読ませてあげる」

「………………?」

「キミの生涯が記された本だ。未来に関する情報は排除されているけど、過去に関するものならある。キミが何を求めてココに来たのか、それも分かるはずだよ」


 俺の、本?


「今は疲れてるはずだから、仮眠室でのんびりするのもいいよ。キミの目的が果たされるまで、ココでは自由に過ごせる」


 待て、コイツは何を言ってるんだ?


「それじゃまるで、俺はここから出られないみたいな言い方じゃないか?」


 俺が疲れてる? 何でだ?

 待て、そう言えばここは何処だ?

 相手は誰だ?


 俺はどうして、こんな訳の分からない場所にいる?


 ────『ここは『天国』です』────


 俺はっ、どうしてこんなっ、わけ、の…………、っ


 ──────……っオれㇵ、だㇾタ゛ァ?



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