15話 “管理人”
少し体を動かしたくなった時用のトレーニングルーム。
本を読んでいて実際に記載されてあった料理を作りたくなった時用のキッチン。
何となく休まりたい気分用のくつろぎ用の部屋。
勉強気分用の自習スペース。
だだっ広い浴場や、ちょっと湯浴みをしたい時用の狭いシャワールーム。
花が咲き誇る庭園に、温室や薬草園も備わっている。『庭』には庭があるんだな。……なんて。
ゲーム部屋や一人でどう使うのか不明なスポーツコートなんかもある。
他にも人が一生過ごしていても不自由のない数々の部屋を見て周り、ここが本当に図書館なのかを改めて問い返したい気分になってきた頃合いで、また先ほどの幾重にも立ち並ぶ本棚の山に埋もれた図書室に戻ってきた。
「どうかな、ボクの図書館。気に入ってくれたかい?」
こちらを振り返り聞いてくる様は年頃の反応に見えた。
そういえばコイツ、年齢はいくつなんだ?
随分と今更な疑問を持った俺は、結局男かも女かも不明なコイツにそれを尋ねることもできず、ただ無難に返すしかなかった。
「いいんじゃないか。何でもあって便利だし、はっきり言って飽きることがないと思う」
俺がそう言葉にすると、相手はそれをまるで史上の喜びというように顔を煌めかせ、感涙に浸るようなマネをし始めた。
「……そう言ってくれて嬉しいよ! やっと会えた同志を逃したくはないからね」
「…………同志?」
ここで俺はようやく、この状況を現実的視点で見ることができるようになった。
そもそも、俺は突然にここに呼び出されたわけで、現状今まさに対面し会話をしていた相手の性別も名前もわからない状態だ。
正体不明な相手を前に、どうして俺はこれまでこうも呑気に会話ができていたんだ?
年上なのかも年下なのかも把握できない相手を前に、俺は身構える。
「ここはボクの庭、魔法図書館。過去から未来、そのすべての情報を記録し、保存し、管理している」
館内をささやかに照らす灯りが一段と暗くなったような錯覚を起こす。
「ボクはこの『天国』の住人でもあるけれど、それと同時に世界唯一の図書館の“管理人”も任されている」
唯一?
「ボクほど、この『図書館』の“形”に拘ったものはそういなかったからね。そういう訳もあって、ボクはとある人から“管理人”と言う役目を授かった」
一体誰に……。
「この新世界を創り上げた“開拓者”にだよ」
俺が言葉にするまでもなく、目の前の相手は答えてくる。
そういえば彼は何度も口にしていたではないか。
俺は、無意識に流していて彼の言葉を思い起こした。
ここは、彼の『庭』だ。
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