13話 まさかの放置プレイ
「………………」
「………………」
その場に沈黙の空間が訪れる。これまで一方的に話しかけてきた相手が黙れば、そこには静かな空間だけが広がる。
「…………おやおや、何も答えてくれないのは悲しいね。これでも初めての客人に、ボクも緊張しているんだよ?」
こちらの返答を求めるような相手の言葉に、俺はただ戸惑っていた。それでも状況がこのまま改変しないのは無駄だと思う気持ちもあり、俺は咄嗟に次のことを聞いた。
「……なら聞くがアンタ、男か? それとも女か?」
初対面でいきなりこれを聞くのも失礼な話だが、ずっと頭の中から離れない疑問はそれである。
今目の前にいる相手は、その容姿からしても少年とでも女性とでも呼べそうな見た目をしている。格好も少し長めのショートヘアに白衣を纏っていて、性別を把握できそうな情報が何処にも見当たらない。
…………もしかしたらあえてそう言う格好を選んでいるのかもしれない。
「ふむ、ボクの性別、か。ボクたちは初対面なのに随分熱烈な質問だね」
「は?」
熱烈?
俺が何言ってんだ、と言う感情を隠すことなく顔に出していたからなのか彼、あるいは彼女は少しおかしそうにその表情を和らげた。
「だってそうだろう? 出会って間もなく、最初に聞きたいことがボクの性別だなんて。もしボクが女性だと答えたら、愛の告白でもしてくれるのかと期待してしまうのは当然だろう」
パチンと音が出そうなウインクを見せつけられ、俺は唖然とする。
初対面の相手に愛の告白って、そっちの方がおかしな発想じゃないか?
そうこうしている間に、目の目の相手は棚から魔法のように一冊の本を呼び寄せ、ペラペラとめくり始めた。
「てっきり『ここはどこだ!』『お前は誰だ?』とか、そういう常套句を並べられるものばかりと思っていたよ」
本を眺めながらそんなことを言う相手に、俺はどう反応していいかわからなかった。
結局、男なのか女なのかはっきりしてないし。
「ちなみにボクの性別に関してはキミの好きな通りに解釈してくれて構わないよ。ボク的にはどちらでもいいからね」
「は?」
目的のページが見つかったのか、本を読みながら相手はそう答えてきた。
「ボクはこの通り本が好きだ。自分の『庭』を図書館にして本で埋めてしまうくらいにはね。この『天国』に来る前も、今と同じような生活をしていた」
本を読むスピードは落とさないまま、眼の前の相手はスラスラと言葉を並べる。
「これを一通り読み終えたら、後で館内を案内してあげるよ。この図書館は何の不自由もないように創ってある。きっとキミも、すぐに気にいるよ」
だからしばらく好きにしてていいから邪魔しないでね、とだけ言い残して彼、あるいは彼女はその手元の本の世界に没頭し始めた。
あまりに勝手すぎじゃないか?
そんな思いを抱く俺だけを残して。
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