12話 魔法図書館の入口
バサッ
空がおかしな色に光ったかと思えば、急にその空から一冊の本がゆっくりと落ちてくるのが見える。
いや、アレは……。
「……どうやら、住人の一人に招待されるようですね」
「は? それはどうい……」
本が空を飛んでいるということを俺がようやく認識したとき、同じく空を見上げていた横の全身執事がそう呟いた。
俺がその意味を聞こうと彼を振り返る間もなく、草原一帯が急に白い光に飲み込まれた。
そこで俺は眩い光に抗うこともできず、瞼を下ろさざるを得なかった。
それからどれぐらいの時間が過ぎたのか。一瞬のことなのか、それとも幾分かの時間が過ぎたのか。
埃っぽい匂いが鼻につく。自分たちの状況が変化したことにある程度の時間が経って気がつき、それまで光の眩しさに閉じていた瞼をゆっくりと開いた。
しかし、先程まで居た何処までも続く草原の景色はもうそこにはなく、あるのは周囲に何処までも立ち並び、天井高くまで聳え立つ本棚の列だった。それはまるで外国の図書館のような光景……。
「ようこそ、我が魔法図書館へ」
っ!!
急に目の前に、それまでなかった影が現れたかと思えば、それがゆっくりとコツコツという足音とともにこちらに近づいてくる。
「ここに来れたということは、君は条件を満たした選ばれし者のようだね」
男か女かもわからない声が、こちらに向かって話しかけてくる。少しずつその姿に光が差し、その人物の形を照らしだす。
「君を歓迎しよう。僕の領域であるこの魔法図書館をもって」
日本でよく見たその黒に近い茶髪が揺れる。双眼から歪な紅い光がにじみ、両手を広げ歓迎の姿勢をとる相手に、俺はたじろぐ。
すると先程まで本棚に眠るように並んでいた本たちがバサバサと音を立て一気に空に飛び出し、円を描くように宙を飛び回り始める。
その光景に戸惑う俺の疑問も返答も待たずにして、相手は語り出す。
「ここは魔法図書館。過去、現在、未来。その全ての事象と歴史、文化を記録し保管する知の宝庫だよ」
あちこちを飛び回る本たちはまるで踊っているようにさえ見える。目の前の相手の言うように、本当に魔法のようだ。
「キミも、ボクも、知りたいその全てが、ここにある」
かちゃりと、何処からともなく出した眼鏡をその顔にかけ、相手はここで初めてこちらに返答を求めてくる。
「さぁ、この図書館の主人であるボクに、キミの知りたいことを教えておくれ?」
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